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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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ミクログリアは脳内の監視役

さて、残りの一つミクログリアは、アストロサイトやオリゴデンドロサイトに比べて細胞体がずっと小さく、いくつかの細い突起を持ったグリア細胞です。ミクログリアは、中枢神経系において免疫機能を担当しているんですよ。

いったいどんなふうに活動しているんですか?

突起を出したり引っ込めたりしながら脳の中をスキャンしているんです。こうしていつもシナプスの状態をチェックしていて、異常を検知すると、その状況に応じてさまざまな働きをします。

シナプスの状態次第で、異なる役割を果たすってことですか?

ダメージが少ない場合は、ドクター役になってシナプスに栄養因子を補給したり、細菌や腫瘍細胞を死滅させるような分子を出してニューロンを修復するんです。ところがもう回復できない状況だと判断すると、今度は殺し屋に変身して、ニューロンを食べて除去します。脳の中のような狭い空間で、死にかけた細胞や死んでしまった細胞がいつまでも残っていると脳機能に弊害をもたらすので、ミクログリアの働きはとても重要なんです。つまり、ミクログリアは脳内の監視役であり、脳内の恒常性を保つ働きをしているといえるでしょう。

あるときはドクター、あるときは殺し屋、またあるときは掃除屋として脳をきれいに保っているわけか。一人で何役もこなしてカッコイイなぁ。

ミクログリアはどのようにしてダメージを受けた細胞を見分けるのですか。

実は損傷を受けた脳細胞からは濃度の高いATPが放出されるんです。ATPの濃度は正常な場合には低く保たれているので、濃度の高いATPが流れてくるとそれが死んだ細胞がいるなどと、異常を知らせる信号になるのです。

ドクターから殺し屋になるときは、変身するのかなぁ。

その通りです。突起を引っ込めて、アメーバーのような活性型の形状にトランスフォームするんですよ。

活性型のミクログリアは、いかにも食欲旺盛で、なんでも飲み込んでしまうような雰囲気だなぁ。

ミクログリアはこのほか、先ほどお話しした、脳の形成・発達期におけるシナプスの刈り込みにおいても、よく使われるシナプスを残して効率の悪いシナプスを食べてしまいます。また神経回路の形成にあたっては、ニューロンがアポトーシスによって死んでしまうことが知られていますが、アポトーシスを引き起こす活性酸素を放出し、死にかけているニューロンを除去する役割も果たしているのです。

マクロファージとミクログリア

ミクログリアにとてもよく似た免疫細胞がマクロファージだ。マクロファージは、T細胞からサイトカインという物質を受けとると活性化して、細菌やウイルス、死んだ細胞などを食べてしまう。活性化したマクロファージは、アメーバー状に変化して動き回り、その姿はミクログリアと区別がつかないほどだ。
また、マクロファージは活性化するとM1とM2という2種類のタイプに分かれるが、ミクログリアも活性化すると炎症性と抗炎症性の2種類に分かれると提唱する人もいる。ただ2種類かどうかは確定されておらず、ミクログリアにはさまざまなタイプがあること、多様性を持っていることは確かだ。