公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「赤ちゃん研究員」の協力で、脳活動を調べる

赤ちゃんの研究で先生が一番興味を持っているのはどの時期ですか?

やはり今お話しした新生児から乳児にかけて脳の機能的なネットワークが作られていく時期です。この時期には、目から入ってくる情報やお母さんの話し声など、さまざまな情報を受け取って、赤ちゃんの脳では本当にいろいろな変化がダイナミックに起こります。私はこうした変化の中で、遺伝子的な要素ばかりではなく、環境との相互作用を通じて、個性が作られていくと考えているんです。

先生は赤ちゃん研究員に協力してもらって、研究を進めていると聞きました。いったいどんな研究なんですか?

赤ちゃんが手足を動かしたり、音楽や言葉を聴いたりしているときに、脳がどのように活動しているのか、光トポグラフィー(近赤外分光法)などの装置を使って計測し、脳の発達を探っているんです。

その光トポグラフィーって、どんな装置なんですか?

脳が活発に活動するためには酸素が必要になります。酸素は血液に乗って運ばれるので、血液が集まっている場所が分かれば、そこで盛んに脳活動が行われているというわけですね。光トポグラフィーでは、頭の上から近赤外線という弱い光を当てて、戻ってきた光をキャッチできるプローブと呼ばれるボタンのような装置が付いたキャップを赤ちゃんにかぶってもらいます。

赤ちゃんはイヤがったりしないのかなぁ。

私たちは、赤ちゃんの頭をしめつけたり、赤ちゃんの邪魔にならない装置にするために、いろいろ工夫を重ねました。何を測りたいかによってもプローブの数が違いますが、100チャンネルぐらいの装置を使うことが多いですね。これを使うと、脳の表面のかなりの領域をカバーできるんですよ。

赤ちゃん研究員が参加して明らかになった研究例を教えてください。

たとえば先ほど生後3か月ぐらいから、大人と同じような脳の機能ネットワークができていくとお話ししましたね。いろいろな感覚刺激によって、脳のどの部分が活発に反応するかを示した一連の研究があります。
また最近の例では、新生児、3か月児、6か月児を対象に、hPod(酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンという2種類の濃度変化のタイミング)という指標を用いて、生後半年間で、血流による脳への酸素の供給や神経活動が発達する仕組みを分析、体系化しました。

生後半年間の脳の発達

新生児、3か月児および6か月児でhPodの変化を調べた。グラフ上部の円は頭部の皮質で計測した94チャンネルの位置を示す。
また、円の色はhPodの値。この値が赤から青へと変わるにつれて、循環、血流、代謝、神経機能の発達が進むことを示している。
特に、脳全体としては、新生児期と生後3か月の間に劇的な変化が起こることが分かる。また、脳の領域ごとに、やや異なった発達を示すことも分かる。
(Watanabe et al. PNAS 2017, Taga et al. Neurophotonics 2018より)

この研究をしたとき、赤ちゃんは起きていたんですか?

いいえ、睡眠時の脳の活動を記録したものです。

眠っているときでも脳は活動しているんですか!

その通りです。外部から音などの刺激を与えなければ脳の内部のネットワークの様子が分かります。逆に音が聞こえるとまた違った反応が出て、どんな音により強く反応するかなどが、眠っているときでも計測できるんです。乳児は睡眠中でも外部の刺激を処理している可能性がありますね。

赤ちゃんが寝ているそばで夫婦ゲンカをしていたら、しっかり聞いているかもしれニャイな。

これまで何人の赤ちゃん研究員がこの研究室にやってきたのですか?

およそ3800人です。今お話ししたように寝ているときの活動を記録することもあれば、逆に起きている赤ちゃんに何らかの刺激を与えたときの脳活動を記録することもあります。研究課題によってさまざまなのですが、眠っていてほしいのに装置をつけたとたん赤ちゃんが起きてしまったりなどと、苦労することもけっこう多いんですよ。

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