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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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自発的な運動が重要

運動が脳にとって重要だということをもう少し詳しく教えてください。

赤ちゃんがお母さんのおなかを蹴るという話を聞いたことがあるでしょう。胎動は赤ちゃんが四肢を頻繁に動かしているということですが、こうした自発的な赤ちゃんの運動が、脳の形態形成に重要な影響を与えているのです。
また、新生児の動きを観察すると、general movementと言って、目的もなく手足を動かしています。私たちは初期の自発的な動きの秘密を探ろうと、赤ちゃん研究員にモビール学習をしてもらいました。

どんな課題ですか?

ベッドに横たわった赤ちゃんの顔の上にモビールをぶら下げておきます。赤ちゃんは今お話ししたように、もぞもぞと不思議な感じで手足を動かしているんですが、そのお赤ちゃんの片手とモビールとを紐で結ぶと、赤ちゃんの動きにあわせてモビールも動きます。すると最初はもぞもぞ動いているだけなのですが、そのうちに自分が手を動かすとモビールが動くということを利用して、赤ちゃんの動きが変化していくんです。実験の対象とした月齢では、まだ自分で手を伸ばしておもちゃを掴んだりできないんですが、周囲の環境との相互作用によって、赤ちゃんの動きが変化していくわけです。

赤ちゃんの無目的な動きは、成長とともに変化していくのですか。

生後2か月を過ぎたあたりから、脳の発達にともなって動きが変化します。3-4か月児になると次第にこうした動きはなくなり、体制化されて(無意味な動きから体系立った動きが形成されるプロセス)いきます。私は初期の自発的で無目的な動きがベースになって、寝返りやハイハイができるようになっていくとみています。

そうした動きは、赤ちゃんによって違いがあるんですか?

生後数か月ぐらいの赤ちゃんの手足にボールをつけて一人ひとりの手足の動きの軌跡を取り、80人近くのデータを集めて分析したところ、赤ちゃんによってパターンが違いました。どの赤ちゃんかを伏せて、動きのデータから個人認証ができるかどうかやってみると、なんと80%ぐらいの確率で正解したんですよ。

つまり赤ちゃんの自由な手足の動かし方にも個性があるってことなのかしら。

脳の発達というダイナミックに変化するものの中に、自発的な運動から個性が育っていくのではないかと思います。

赤ちゃんの自発運動

(Gima et al. Exp Brain Res 2018より)