公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム

第1章 鳥の歌声は学習の賜物

一同
よろしくお願いします。
戸張
よろしくお願いします。皆さんの中に鳥類を研究している方は?いらっしゃらないですね。今、日本で鳥類を研究している研究室が、年々減ってきています。私がなぜ鳥類を研究対象としているのかというと、母が家で鳥を飼育していたので、小さい頃から身近な動物の一種であったこともありますが、それだけでなく、発声学習という限定された能力について知ることができたこともきっかけの一つです。
私たちは、今言語を自由自在に操ってコミュニケーションを取っていますが、言語というのは生まれながらに発することはできません。母親や周りの大人たちの会話のやり取りを耳で聞き、モゴモゴと口に出して練習しながら喋れるようになっていきます。このプロセスを発声学習過程といいますが、この発声学習を行う動物種は、実は限られているのです。

「発声学習を行う動物種は限られている」との先生の説明に驚く生徒たち

一同
へー
戸張
発声学習をする動物は、哺乳類ではまず私たちヒト、クジラやイルカなど鯨類、それからコウモリの一部です。さらに、脳に腫瘍ができていたアザラシが、飼い主さんの声真似をした例、また野生のアフリカゾウがトラックエンジン音を真似した例があります。鳥類では、ジュウシマツ、キンカチョウやカナリアなどのスズメ目鳴禽類(めいきんるい)や、アマツバメ目ハチドリ類は、とても小さい身体にもかかわらず発声を学習できるという能力が備わっています。その他に、オウムやインコなどのオウム目が人の言葉を真似する様子がよく動画などになっています。
私が大学生の頃、動物の音声コミュニケーションについて千葉大学で岡ノ谷一夫先生(現東京大学)が研究を行っていました。私は岡ノ谷先生のもとで「ジュウシマツの発声学習能力とそれを制御する神経回路」について研究して博士号を取りました。
小鳥自体を好きなこともありますが、進化の過程で哺乳類や鳥類に分岐して長い時間が経ったあとに、一部の動物種だけがなぜ発声学習能力を獲得できたのか、その理由にも興味があります。キンカチョウやジュウシマツといった鳴禽類を被検体に、発声学習を可能にする神経回路やホルモン、遺伝子発現の仕組みを明らかにしたくて今研究を進めています。
山﨑
鳥を研究する場合、その管理が大変そうだなと思うのですが。

鳥の飼育の難しさについて質問する山﨑くん(中央)

戸張
そうですね。研究室では、キンカチョウとウズラを主に飼育しています。キンカチョウも、家畜(鳥の場合は家禽)化が進んできて人工的な環境に慣れつつありますが、彼らはとても神経質です。鳴禽類は両親で子育てをすることが多いのですが、例えば私たち飼育者が、雛が可愛いからと巣の中を覗き過ぎてしまうと、子育て中は親が普段よりも神経質になっていることもあり「この巣は危険」と判断し、その結果子育てを放棄してしまいます。なので、私たちの研究室でも、先日繁殖をした5つがいのうち、1つがいしか雛を育てあげることができませんでした。そういう難しさはありますが、見方を変えれば、子育て放棄の研究もできます。また、父親も初めての繁殖から子育てに参加するので「イクメン」の研究もできると思います。ジュウシマツは、子育てが上手になるようにも家禽化された鳥なので、とても繁殖しやすいです。子育て上手なので、子育てが不得意な鳥の卵をジュウシマツに預けると代わりに育ててくれて、仮親としても人気のある鳥です。
並木
鳥の卵は人工的に孵化させるのですか?
戸張
ウズラは、卵から孵った時には、目がもう開いて毛も生えていて、自分で立ち上がって餌も食べられるような早成性の鳥なので、自動孵化器に入れて人工的に増やしています。ジュウシマツやキンカチョウは、孵化したばかりの時は羽毛もなく目も開いておらず、一羽では何もできない晩成性の鳥です。また、雛の時に父親から歌を習わないと、うまく歌うことができずに一生をつがうことなく送ることになるので、こちらは両親に育ててもらっています。

高校生からの研究紹介1 猫の毛色は
性格や行動様式に関係するのか?

学院の近く、江ノ島、福岡県の相島の3カ所で猫の毛色や特徴を調べました

山﨑 拓実(やまざき たくみ)さん(高校3年)

山﨑
高校3年の山﨑です。僕は猫のファンタジー小説を読んで、猫にすごい興味を持ちました。高校で研究を始めるにあたって、猫と人とのより良い共存ということを考えて研究を進めています。猫に関する制度を調べ学習したり、また2017年には猫の毛色が性格や行動様式に関係するかというテーマで研究発表をしました。
戸張
研究内容を具体的に教えていただけますか。
山﨑
はい。早稲田大学高等学院の近くの場所、神奈川県の江ノ島、それから猫島とも呼ばれている有名な福岡県の相島の3カ所で、生息する猫の毛色や特徴を調べました。どれだけ人に慣れているかを知るために、猫の個体にどれだけ近づけるのかその距離の測定も行いました。その結果、データ数は少ないのですが傾向としていずれの調査地でも黒猫が他の毛色の猫に比べて警戒心が強いことがわかりました。また、人口密度の高い場所ほど猫に逃げられやすいという結果も出ました。

調査地で見つけた人懐っこいネコ

戸張
すごく興味深いです。猫は家畜化された動物の中で唯一、猫の側から人間に近づいてきたと言われています。
また、小鳥の場合もそうなのですが、家畜化された動物では白色の毛色を持つ白地個体の出現が共通しています。ですので、猫の毛色の白い部分の面積と、人になつきやすさの関係性を定量化できたら、山﨑くんの研究は非常に面白くなっていくと思います。
山﨑
ありがとうございます。

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