公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム

第4章 家畜化したジュウシマツが織りなす複雑な歌1

戸張
私が麻布大学に着任してから大学院時代の指導教官であった岡ノ谷先生と開始した共同研究についてお話しします。
育種学分野において、野生動物の実験動物化、いわゆる「家畜化」も重要な課題の一つになっています。多くの動物の中で人に慣れるようになる動物種は非常に限られています。例えば、産業動物として牛や豚など、伴侶動物として犬や猫などが家畜化された動物の例です。
鳥の例を出します。この写真の鳥、コシジロキンパラという南アジアから東アジアの稲作地域にいる野生の鳥です。約250年前、九州の大名が日本に輸入して、子育て上手な形質と白化個体を増やす目的で家畜化されたのが、ジュウシマツという私たちにとって馴染みのある鳥です。

コシジロキンパラとジュウシマツの写真を見せながら説明する戸張先生

一同
へ〜
戸張
コシジロキンパラとジュウシマツ、これらの鳥の関係で最もすごいところは、コシジロキンパラに比べてジュウシマツの鳴き声、歌がかなり複雑になっているということです。また、それぞれの行動を比べると、コシジロキンパラは野生動物なので、きょろきょろせわしない感じです。一方、ジュウシマツはぼーっとしていて、かごから出しても逃げないんです。
一同
戸張
また、くちばしの前に棒を差し出すと、野生のコシジロキンパラは警戒して棒に強く噛みつくなど攻撃性を示すのですが、ジュウシマツは弱い力でしか噛めないし、その頻度も少ない。
オオカミからイヌへの家畜化には3万年もの歴史がありますが、コシジロキンパラとジュウシマツは、たった250年の家畜化の過程で歌や攻撃性などの形質に違いが出てきているんです。
とはいえ、彼らは同種なので掛け合わせて子供をつくることもできます。だから、遺伝子配列を比較すると、たぶん、ほとんど変わらないだろうと思います。しかし、もし遺伝子に異なる部分があったら、それは攻撃性や歌など、2種で異なる形質に強く関係しているのではないかと思って、そうした行動と遺伝子の関係を調べているところです。(この研究は私立大学研究ブランディング事業でもサポートされています。)
ただ、この研究のネックは今コシジロキンパラが日本にいないことです。日本は鳥インフルエンザの影響で鳥を海外から輸入することはできません。そこで、台湾で野生のコシジロキンパラを研究するプロジェクトを台湾の特有生物研究保育センターのヤオ先生と一緒に申請しています。申請が通った場合は、今年の3月に台湾に滞在しながら、野生のコシジロキンパラの歌を録音・解析し、血液を採取して血液からホルモンやDNAを抽出してジュウシマツとの比較を、台湾の国立中興大学や岡ノ谷先生の研究チームと協力して行う予定です。
山﨑
ジュウシマツの話は、猫と比較すると面白いんじゃないかなと思います。猫は穏やかな性質の個体を掛け合わせてきたことで、今ペットショップとかにいる種はかなりおとなしい性格のようなのですが、そういう個体でも野生味あふれる行動をとる瞬間があるということを本で読んだことがあります。ジュウシマツも普段はかなりのんびりした性格とお聞きしたのですが、それでも野生の本能が残っているなと感じる場面を見ることはできるのでしょうか。
戸張
山﨑くんの質問に直接的に答えられるデータを持っていないのですが、子孫を残すために残ってなければいけない重要な形質というのは、家畜化されても残っていると考えていて、それが歌行動です。雄が雌を魅了するために重要な歌を歌うときには、ジュウシマツでも荒々しく感じます。雌の前で、自分を大きく見せるためにぶわっと起毛させて、雌に向かって執拗に歌います。その場面では野生を感じますね。
山﨑
猫の場合は、目の前で動いたものに対して、普段からは考えられないぐらい俊敏な動きでバッとつかみにいくそうです。そうした猫でいう狩りのような本能的な行動が、鳥の場合は歌にあたるんですね。
戸張
私はやったことのない実験ですが、天敵の姿に似せたシルエットを作って、ジュウシマツの上を通過させてみると、彼らの野生的な行動が引き起こされるかもしれませんね。

高校生からの研究紹介4 発光バクテリアの光る仕組みに迫る

スルメイカから採取した発光バクテリアを培養して、発光の強さが違うコロニ―に気づきました

月本 将太郎(つきもと しょうたろう)さん(高校2年)

月本
2年の月本と申します。僕は小学校の時から地域の自然活動クラブなどで、生き物や自然に触れ合う機会が多く、高校へは生き物に関する研究をしたいなと思い入学しました。ですが、なかなか研究テーマが決まらず、先輩方がやっていた発光バクテリアの研究を引き継いで今も進めています。発光バクテリアはその80~90%が海洋性で、主に特定のイカや魚の表面や腸の中から見つかることが多いです。新鮮なスルメイカから採取した発光バクテリアを寒天培地で培養していったところ、発光の強いコロニーと弱いコロニーがあることに気づきました。そこで今は、その発光の強弱の違いにはいったい何が関係しているのかということについて調べているところです。
戸張
それは同じ1個体のスルメイカ由来の同じ発光バクテリアの中で、発光が強いものと弱いものが共存しているということなのでしょうか。
月本
はい。イカの外套膜という胴体部分の表面から取れた発光バクテリアをどんどん培養していくと、光の強いものと弱いものが目視でもわかるぐらいにはっきりと分けられてきました。そこで、それぞれを別々で培養しているところです。

試験管内の発光バクテリアの様子(左:発光が弱いもの、右:発光が強いもの)

戸張
どのような遺伝形質が発光の強弱を調整しているのかを調べている?
月本
はい、発光に関係する遺伝子を調べているところです。
戸張
すごく面白いですね。ノーベル化学賞を受賞された下村脩先生が見つけた緑色蛍光タンパク質(GFP)の発展に通じるものがありそうです。下村先生が発見されたGFPを、別の研究者が生命科学分野で重要な検出ツールとして発展していったように、新しいテクノロジーとしてこれから発展しそうな感じがします。
月本
ありがとうございます。

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