公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム

第3章 鳥の眼はパートナーを見逃さない

並木
質問なのですが、ウズラって雄雌の見分けがほとんどつかないと聞いたことがあって。なんでウズラの雄は一瞬で眼の前の個体が雌だと見分けられるのかな、と気になります。
戸張
いい質問ですね。それはとても面白い疑問で、今私の所属している研究室で卒業研究のテーマに選んだ学生もいます。ウズラの雄がどこを見て雌雄を一瞬で見分けているのかについては、全然わかってないので、私も気になっています。
詳しい話はこの後の研究室見学でウズラのはく製を用意してありますので、それをお見せしながら説明しましょう。

研究室で熱心に戸張先生の話に耳を傾ける

戸張
これは最近、麻布大学野生動物学研究室の南正人先生に紹介していただいた清水海渡さん(2019年4月から富山市立博物館所属)が作ってくださったウズラの頭部のはく製です。
筋肉や脳組織などを腐るものは全部取り除いて、綿を詰めてあります。目は義眼が入っています。この2体を見比べてください。どこが違うかわかりますか。
一同
(じっと、観察)

ウズラのはく製。色の濃い左の個体が雄、右の個体が雌

戸張
こちらが、雄です。雄は繁殖期になると雄叫びとも呼ばれる甲高い鳴き声で、雌を呼び寄せます。雌が現れると、瞬時に魅力的な雌かどうか判断して近づいて行って交尾をします。人間が見ると胸の羽毛に雌雄差があるので、ウズラも多分胸の模様を見て雌雄を判断していると私も最初は思っていました。でも、首から下をタオルで包んだ雌ウズラの顔だけのちょっとシュールなはく製を作って、それをリアルな雄に見せたときに交尾をしようとするかということを実験的に確かめたところ、顔だけ雌ウズラであれば交尾をしようとしていました。
はく製はシャンプーをしてあり、ウズラの独自の匂いを消しています。はく製は、ウズラの動き、匂い、そして鳴き声など、視覚以外のすべての情報を取り除いた社会的な刺激となります。これを使って、リアルな雄が雌のどこを見て相手を選んでいるのかという研究を進めています。

雌雄の違いはどこ?はく製を観察する生徒たち

並木
なるほど、すごく興味深いですね。
戸張
今年、共同研究者である静岡大学の笹浪知宏先生が、ウズラの雌が素敵な雄(繁殖能力のある雄)をどうやって選んでいるのかという研究論文を発表されました。私たちは見分けられないのですが、繁殖期の雄は、頬の羽毛が赤みを増すようです。雌はそれを鋭敏に察知して、頬の羽毛がより赤い雄を選んでいるそうです。
一同
へ〜
戸張
笹浪先生は実験の中で、赤色だけをシャットアウトする眼鏡を雌のウズラにかけているんです。そうすると、雌は雄の頬の羽毛の赤さの度合いがわからず、繁殖期と非繁殖期の雄の区別ができなくなりました。鳥は私たちと同じように色を区別できる目を持っていて、毛色の変化でパートナーを選でいる面白い動物でもあるのです。
月本
ウズラとヒトで色覚の差はありますか。
戸張
たしか、ヒトでは見えない近紫外線領域(300-400 nm)が鳥には見えているそうで、網膜に紫外線受容体を持っているそうです。

高校生からの研究紹介3 クロクサアリの分泌物が
蚊を退治する効果を調べる

シトロネラールとギ酸の混合物に殺虫効果があるかを検証中です

並木 健悟(なみき けんご)さん(高校3年)

並木
3年の並木です。僕は昆虫のアリが出す化学物質についての研究をしています。
クロクサアリという種が出している分泌物が蚊を殺すという作用を見つけ、その殺虫作用についての検証に今取り組んでいます。分泌物のうち効果を示す物質を分析した結果、昆虫の忌避作用のあるシトロネラールという物質、そしてアリがよく持っているギ酸、この2つの物質が主要成分でした。では、これらの物質に本当に殺虫作用があるのかを確かめたところ、シトロネラールは殺虫作用はまったく無く、ギ酸は、濃度が高ければその作用がある。面白いのが、この2つの物質の混合物では、実はギ酸単体よりもはるかに殺虫作用が高い結果が出ました。今は混合物によって高まる殺虫作用の仕組みを調べる研究を進めていこうと思ってます。

シトロネラールとギ酸の殺虫作用をシリンジ内で確かめます

戸張
その2つの物質は混合することで化学反応して、新たな化学物質ができていたりするのでしょうか。なぜ殺虫効果が高まったのでしょう。
並木
本当に、なぜこの混合物が高い殺虫作用を持つかということは、詳細はまだわからないので、調べていこうと思っています。一つ、応用としてやりたいのは、ヒトに害のない殺虫作用を持つ混合物の組み合わせを考えたいです。シトロネラールはアロマ成分にも含まれる人間には安全な物質です。なので、人間にとっても害があるギ酸を、危険性の少ない物質に変えて、シトロネラールと混合させたときに殺虫作用を示すのかどうか、という方向で研究を進めていこうと思ってます。
戸張
培養細胞系を用いた毒性検定が使えるかもしれませんね。ギ酸とシトロネラールの混合物をかけたもの、まずギ酸をかけてその後にシトロネラールをかけたもの、その逆の順番で試した結果を比較することで、新たに明らかになってくる部分があるかもしれません。このクロクサアリと蚊には生態系の中で何か関係、共生や寄生などの関係があるのですか。
並木
いえ、彼らには関係性はないんです。ですが生き物を変えて関連する研究もしています。クロクサアリはアブラムシの出す汁を主食にしていて共生関係にあります。そこで、アブラムシの天敵となるテントウムシにクロクサアリの分泌物が効くかどうかと試したら、テントウムシには殺虫効果がありました。だから、クロクサアリは、自分の生活圏を守るために分泌物を使っているのかもしれないと考えています。
戸張
シトロネラールの生態系の中における役割が明らかになるのは面白いですし、殺虫効果の応用として製薬会社のような企業とコラボレーションの可能性を秘めているのも面白いですね。
並木
はい、ありがとうございます。

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