公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム

第6章 コミュニケーションも研究力

高校生からの研究紹介6 研究対象は人?
ポストドクターについての考察

大学では生物の寿命の研究にチャレンジしてみたい

宮下 創太(みやした そうた)さん(高校3年)

宮下
3年の宮下と申します。たぶんこの中では唯一、文系的なテーマなのですが、ポストドクター*の雇用の問題を調べ、卒業論文を書きました。ポストドクターの起源やその数の増加の理由を踏まえつつ、今後のポストドクターの推移やどのようにその後の新しい活路を見出していけばいいかなどについてまとめました。でも、大学に行ったらもっと生物を取り扱ったものをやっていきたいと考えています。今興味がある分野だと、生物の寿命について大学ではチャレンジしてみたいなと考えています。中学生のときからずっと死にたくないな、と思っていたので。
*ポストドクターとは、大学で博士号を取得した後に、常任ではなく任期制の職についている研究者、そのポジションのこと。

ポストドクターの雇用に関しての問題を調べまとめました

戸張
死にたくない?
宮下
でもさすがにずっと死なないというのは難しいので、なるべく健康に長く生きていたいっていう思いがあります。まだ漠然としているんですけれども、ぜひそのテーマについて研究していきたいなって思っています。
戸張
私自身のポスドク期間が長かったこともあって、宮下くんの研究にすごく興味があります。宮下くんは不老長寿にも興味があり、不老長寿に対して生物学的視点を持ち、かつ研究者のワークライフバランスというか、働き方とか活躍の仕方とかを考えてくださる方が高校生にいるなんて、早稲田大学高等学院はすごい学校ですね。宮下くん自身は大学で博士号をとって研究の道に進もうと思っていますか?
宮下
いや、やっぱり実際に調べるとなかなかに大変そうだなっていうのはあるので、どうしようかなと考えているところです。
戸張
博士号取得後、文部科学省など科学政策を考える部署で活躍する方もいらっしゃると聞きます。大学院で研究を行っている学生さんは、若い研究者の現状を一番知ることになりますので、その経験を活かして将来の科学技術の制度を作る側として日本の科学技術の発展に貢献してくださるのも素晴らしいと思います。
不老長寿は、熊本大学の三浦恭子先生*が研究している、ハダカデバネズミが面白いですね。東アフリカの地下に住んでいる裸で出っ歯のネズミなんですが、普通のげっ歯類は寿命が数年ぐらいのところ、30年ぐらい生きられます。さらに、ガンにならないんです。三浦先生はそのネズミからiPS細胞を作って研究をしています。その方とコラボレーションするとかも楽しそうです。
*三浦恭子先生の研究については、「生命科学DOKIDIKI研究室」のインタビューもご覧ください。
宮下
夢が広がりますね。

対談後は戸張先生の研究室を見学。ここでも興味深いトークが繰り広げられた。

戸張
これが鳥の脳の切片です。濃く青く染まっているところがある遺伝子が働いている脳領域です。私はもともとこのような切片をたくさんつくって歌に関わる脳の領域の大きさを調べるなど、基本的には鳥の歌行動と歌を制御する特別な神経回路について研究をしていました。私の研究者としての転機はポスドク時代にありました。抗体がターゲットとするタンパク質に特異的に結合してくれることを利用して、あるタンパク質を合成する細胞が存在する領域を特定しようとしていました。しかしながら、その抗体がターゲットとしていないタンパク質を検出してしまったんです。いったい何を検出したのだろうと調べたら、鳴禽類の脳から新しいペプチドホルモンを同定することができました。その研究のおかげで、行動解析や脳の形態学だけではなく、ホルモンなど分子探索もできる研究者としてみて頂けるようになりました。また、今の立場を得られたのもこの研究のおかげだと思っています。
一同
(熱心に聞く)
戸張
研究をしていく中でコラボレーションの力は本当に強力だと感じています。先ほどお見せしたウズラのはく製は、私一人では絶対に作れなかったと思います。私の研究プランを野生動物学の南先生が興味を持ってくださって、剥製づくりの上手な清水さんを紹介してくださったからこそ手に入れることができました。今はそれらを使って研究を進めることができています。研究者にコミュニケーション能力はいらないと思っている方もいらっしゃるかもしれないし、私自身がそう思っていた時もありましたが、それは間違いですね。自分の意見を正確に表現する能力や、専門外の方にも自分の研究内容をわかりやすく伝えられる能力は、すごく重要であると毎日気づかされています。
今後、皆さんや後輩で鳥が好きな方がいたら、その方とも一緒に研究できたらなと思います。よろしくお願いします。今日はありがとうございました。
一同
ありがとうございました。

研究室訪問を終えて

戸張先生の鳥類の研究と自分の猫の研究で共通点や比較できる点を今回の対談企画で初めて知ることができ、今後の研究活動につながりそうな新たな着眼点を得ることができました。短い時間でしたが大変素晴らしい時間を過ごせました。貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。
山﨑 拓実さん

普段自分の研究分野以外の先生とこのような形でお話する機会はあまりなかったので、良い刺激になりました。対談を通して、先生の研究内容はもちろんですが、普段と違う視点で物事を見直してみることの意義についても考えさせられました。着眼点を変えることで次々と知りたいこと、不思議なことが増えていくのだと感じました。これらを心に留め、これからの研究に活かしていけたらと思います。ありがとうございました。
谷口 広晃さん

今回、最先端で活躍していらっしゃる先生と対談させていただき、興味深い研究のお話を聞くことができました。また、ポスドク時代の話など、先生の生い立ちのお話も伺えたので、研究者の現状を知る良い機会にもなりました。良い経験をさせていただき、ありがとうございました。
並木 健悟さん

今回、実際に研究している方と対談できるという貴重な経験をさせていただきとても感謝しています。鳥はよく見かけますが、鳴き声まで注意深く聞いたことはありませんでした。戸張先生のお話を聞いて、鳥の鳴き声にもコミュニケーションの内容により微妙にリズムが違うこと等、知らないことばかりだったので、より鳥という生き物に興味が湧きました。有意義な時間を過ごすことができてとても嬉しかったです。ありがとうございました。
月本 将太郎さん

今まで研究者の方と直接お話を聞く機会はほとんどなかったので、今回、実際に研究室にお邪魔させていただくことで、「研究室」に対するイメージを膨らませることができました。この経験を今後の自身の研究活動に活かしていきたいと思います。本当にありがとうございました。
下青木 駿さん

研究者の方との対談というのは初めてでかなり緊張しましたが、今回研究内容や研究そのものに関するお話を聞いたことで、今まで以上に研究に対する意欲や興味関心の幅を広げることができました。また、今回残念ながら、鶏舎の見学はできませんでしたが、普段あまり見ることがない研究室の中を見せていただくことができて、貴重な体験ができました。本当にありがとうございました。
宮下 創太さん

この度は生徒に貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。本校の場合、基本的に学部進学先に獣医学部がないので、今回、戸張先生とお話しさせていたことで、「こんな研究分野、研究テーマもあるのか」と生徒が大変良い刺激を受けていたように思います。また、異なる研究分野がコラボして研究を進めることに大きな力と強い魅力を感じましたので、生徒達には広い視野をもって研究活動に打ち込んでもらえたら嬉しいです。
教諭:秋山 和広先生

( 写真:漆原 未代 / 取材・構成 :株式会社リバネス 井上 剛史 )

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