公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム

第5章 家畜化したジュウシマツが織りなす複雑な歌2

並木
歌に関して質問してもいいですか。
戸張
はい、どうぞ。
並木
東南アジアか、南米あたりに生息する鳥には、いろんな種類の動物の鳴き声を真似して鳴くことができる種がいると聞いたことあります。これは、雄が雌を魅了するのにきれいな歌で魅了するためなのか、あるいは他の動物の鳴き声を出すことで例えば天敵に襲われる可能性を減らすためなのか。戸張先生はこうした鳥の歌学習の意味について追求しようとされているのでしょうか。
戸張
私自身はそこまで大きなテーマをまだ扱えてはいないですが……自分の種以外の音声やチェーンソーなどの人工的な音までも真似して歌に取り入れている雄がどうして雌に好まれるのかを調べた研究があります。オーストラリアに生息するコトドリの雄は、ものまねがそっくりで歌のレパートリーが豊富であればあるほど雌にモテるそうです。ものまねを含んだ歌をうたうには熟練が必要で、ベテランの歌を聞いた若い雄たちは、ものまねをする雄にかなわないと判断してその場から去っていき、真似をされた他種の鳥たちも警戒して去っていくため、ものまね歌が上手な雄は広く安全な縄張りを確保することができます。雌たちは雄のものまね歌を聞くことで雄の持つ縄張りの質を判断して、雄を選んでいるようです。並木くんの質問に関して、様々な研究者がいろいろなアプローチで明らかにしようとしていますが、仮説を証明する野外で実証的なデータを得るのは本当に難しいようです。
並木
250年間でコシジロキンパラとジュウシマツの歌い方はどのように変わってきたんでしょうか。
戸張
これはぜひ聞いていただきたいですね。
ジュウシマツとコシジロキンパラ、家禽種と野生種の歌の違いです。まず家畜化されたジュウシマツの鳴き声。
▶︎をクリックして鳴き声を聴き比べてみよう!
戸張
一方、こちらが野生種のコシジロキンパラの歌です。
戸張
ジュウシマツの歌が1、2、3、4という4つの数字でできているとするならば、ジュウシマツはあるときは1→2→2→4という順番で歌い、またあるときは1→2→4→3と歌ってみたり、1→2→2→4→3と歌ってみたりします。一方、コシジロキンパラの歌はもっとシンプルで、いつも1→2→3→4、1→2→3→4と歌っているイメージです。

ジュウシマツとコシジロキンパラの歌の比較

ジュウシマツ

コシジロキンパラ

横軸に時間,縦軸に周波数をとって音声信号を視覚化したところ、ジュウシマツの歌のほうが要素の種類が豊富で、複雑なことがわかる
Suzuki K. et al. (2014) Complex song development and stress hormone levels in the Bengalese finch. Avian Biol Res. 2014, 7(1), 10-17.よりジュウシマツ、コシジロキンパラのソナグラムの図を抜粋

宮下
面白いですね。

スライドを見る生徒たち

戸張
鳥の歌の産出と学習を制御している脳の領域は明瞭です。この図は鳥の脳の模式図です。画像の青い部分(HVC, RA)が歌うのに重要な領域で、ここを壊してしまうと、鳥は歌えなくなってしまいます。こちらの赤い部分(MAN, AreaX)は、歌の学習に必要な領域です。この部分を雛のときに壊してしまうと、うまく学習できずに、変な歌を歌うようになってしまいます。鳥は、私たちの耳が聞き取れる可聴域で歌ってくれるので、特殊な装置がなくても歌の変化がわかりやすい。歌は鳥の生存に非常に重要なので、その産出と学習に関係している脳の領域は神経細胞がぎゅっと集まっている神経核構造で観察しやすいのです。このような点から、コミュニケーションと脳神経の関係を調べるための研究対象として鳴禽類は利点が多いとされています。

鳥の大脳歌制御系のモデル。青丸の部分(HVC, RA)は発声に、赤丸の部分(MAN, AreaX)は歌の学習に重要な役割を果たしている(図は戸張先生よりご提供)。

高校生からの研究紹介5 特定条件で生分解性を示す
プラスチックを作りたい

プラスチックゴミによる海洋汚染を解決したい

下青木 駿(しもあおき しゅん)さん(高校1年)

下青木
1年生の下青木と申します。僕は昔から微生物にすごく興味があって、小さい頃は図鑑を見たり、中学生の自由研究ではカビを対象にして実験をしていました。
高校では、顧問の秋山先生と相談したことがきっかけで、生分解性プラスチックとそれを分解する菌についての研究を始めています。
今、プラスチックゴミによる海洋汚染が問題になっている中で、今後生分解性プラスチックの使用が増えていくと考えて興味を持っています。ただ、生分解性プラスチックで服などの製品を作ったとして、保管していたら微生物に分解されてしまうと製品として成り立たないということを同級生に言われたことがありました。
そこで僕で考えたのは、プラスチック製品はよく海に投げ捨てられちゃうので、普段は分解しないけれど、例えば海水につけると分解するような化学的性質を持つ生分解性プラスチックができれば良いなと考えています。

生分解性プラスチック分解菌を探索中

戸張
実際に海水中でプラスチックが分解したり、プラスチックの分解を促進する物質を合成するような機構があったりするのでしょうか。
下青木
そこまではまだ調べられていないので、これからしっかりやっていこうと思っています。
戸張
私が所属している鳥類内分泌研究会では、海鳥がマイクロプラスチックを飲み込んでしまっている問題について研究している方がいます。下青木君の研究は、海洋漂流マイクロプラスチックに含有される化学物質からの害から海鳥を守ることにつながりますね。素晴らしいと思います。ぜひ研究を続けていっていただけたらと思います。
下青木
頑張ります。

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