中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第6回
鳥の歌から紐解く恋のメカニズム
第2章 一目惚れはなぜ起こる?
- 戸張
- 私が行っているウズラを用いた研究を詳しく紹介しましょう。ウズラは、ジュウシマツのような鳴禽類ではなく、発声学習能がないので鳴き声を後天的に学習できません。ウズラを発声学習能のある鳴禽類と比較するだけでも私にとっては面白いのですが、さらに面白い特徴があります。皆さんは男子校に通っていますよね。登下校中に魅力的な異性に会うことも結構あると思うのですが。
- 一同
- 笑
- 戸張
- 野生の雄ウズラは、繁殖期になると、自分よりも少し背の高い草むらに生息し、雌を引き付けるために生まれながらに持っている求愛音声を非常に大きく響かせます。雌はその声を聞きつけて雄の目の前に現れるのですが、雄はその雌を見て魅力的だと判断した途端に、突進していきます。その間はわずか数秒です。私はこの場面が、ふと向こうからくる素敵な異性が来てはっと息を飲むような瞬間、人間の一目惚れの場面に見えました。そのような、異性を見るという社会的な刺激によって行動が瞬時に変化する仕組み、そのスイッチングの機構を明らかにしたくて、ウズラを研究対象にして内分泌や行動の変化などを調べています。

「鳥の行動から人の一目惚れを想起させられました」と戸張先生
- 谷口
- この前、ウズラの求愛行動にホルモンが関係しているという先生が書かれた論文を読みました。ウズラと同じホルモンがヒトで働くと、人付き合いなどの行動まで変化してしまうことを知り、不思議だなと感じます。
僕は、植物の研究を行っているのですが、ヒトに応用するためにやっている部分もあるんです。先生の研究の中で、鳥を研究してわかってきたことが、「この部分は人に応用できたらな」と感じる部分はありますか。
- 戸張
- 例えばノルアドレナリンというホルモンは、ヒトでも覚醒状態にあるときやストレス・恐怖を感じたときなど、様々な感情や行動に関わることが知られています。雄ウズラが雌の存在を認識し雌へ向かっていくときに脳内でノルアドレナリンが大量に分泌されることを明らかにしました。雌という刺激に対してこのホルモンが応答するということがわかったとき、ストレス社会と呼ばれる現代で、ヒトが異性に対して興味を失っているという状況にもこのノルアドレナリンが関係するかもしれないと気づきました。
もちろん鳥のデータなので、人とまったく同じ機構です、とは言えません。しかし、私が鳥の求愛行動を解析する中で見つけたことを、他の研究者や皆さんのような方々に伝えることで、ヒトがコミュニケーションをする際の身体の中で起こる分子現象の解明に間接的に貢献できるかもしれまれせん。そのような形で、私は社会に自分の研究を還元したいと思っています。
高校生からの研究紹介2
ナノシートを使って
植物の反応を計測する

谷口 広晃(たにぐち ひろあき)さん(高校3年)
- 谷口
- 3年の谷口です。僕は今、電気を通すとても薄い高分子シート、ナノシートっていうんですけど、それを使って植物の生体電位を測るという研究をしています。
ヒトの生体電位を測るのに、これまでは、よくゲル電極が使われてきたんですが、植物に使うと、葉っぱが変色したり電極が剥がせなくなったりという問題がありました。
そこで僕は、一緒に研究をさせてもらっている東京工業大学の藤枝俊宣先生からナノシートをいただいて実験を進めていて、今はアシタバという生命力の強い植物の葉からナノシートを使って生体電位が測れるということまでわかってきました。
- 戸張
- 生体電位が測定できたら植物のどのような仕組みがわかるのでしょうか。
- 谷口
- 電位が測れることで示せるものは、まだ詳しくはわかってないんですけど。ただ植物が光合成を行う速度と電位差が正の関係があることはわかっていて。このことをナノシートで確認できたので、技術的な面では意義のある研究かなって今思っています。
また、植物の活動をモニタリングする点では、葉っぱを切ったり、傷つけないで測定できるのはいい点です。

アシタバにナノシートを貼り付ける様子
- 戸張
- 一つの観測点で経時的に測れるというのは、データの集め方としてすごく有用ですね。
- 谷口
- そうですね。これまでになかったかなと思います。
- 戸張
- 私は動物の研究しかやってないので教えてほしいのですが、例えば植物にも快/不快といった感情に似た、刺激の受容や応答があったとして、ナノシートを使えば植物にとっていい環境を与えたときと悪い環境を与えたときとで電位の違いを調べることは可能でしょうか。
- 谷口
- 異なる環境ごとに植物の生体電位の違いを見ること自体は可能ですね。僕も、水分量や空気中の成分濃度を変えた環境に置くと、植物がどういう反応をするのか気になっているので、そういう点も調べてみたいです。
- 戸張
- 科学的な検証結果を把握できていなくて非常に気になっているのが、植物に音楽を聞かせたときの反応です。農作物にモーツァルトを聞かせるとか、ありますよね。実際はどんな結果になるのでしょうか。
- 谷口
- 僕もそれが気になっていて、去年研究テーマとして実験しようとした時期があります。そのときはサンプルとして使おうと思っていた、植物カルスという未分化細胞が作れなかったので研究結果を出すことはできなかったのですが。音楽を聞かせると植物が成長しますよ、という研究は科学的にはいろいろな意見があるようです。だけど、自分的にはまだ未練があるので、今回の生体電位の計測を使ってやってみたい気はします。
- 山﨑
- 自分もちょっと気になるのが、植物に対して感情を込めながら温かい言葉を掛けたときに、成長の速度が変わるのかという点です。昔、実験としてやってみたことがあって。
- 戸張
- 「いい子だよ」や、「君は駄目な子だ」などと声を掛けて育ててみる。私は面白いと思いますが、適切なコントロールと比較して、差を数値で示すことができたらすごく面白い研究になりそうですね。