中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第8回
研究者のパッションに触れた2時間
第5章
既成概念を取り除き、妄想してみよう
- 高井
- 1年生の今村君はまだ具体的な研究はしていないようですが、どんなことに興味あるのかな?
- 今村
- 2つ考えています。僕の家にサクラの木があるんですが、年齢を重ねてちょっと危ない状態らしいんです。それで、挿し木して増やせないかというのが一つ。もう一つは、僕は海に潜ることが好きで、ある時、漁師さんの子にタコの捕り方を教わったんです。そのタコの生態というか、動きとか生活の仕方が面白いなと思っています。
- 高井
- 生活の仕方?
- 今村
- はい。アサリを与えると食べるのですが、そのときタコは足を使って貝を開けます。その吸盤の使い方がすごく器用だなと思って。
- 高井
- 確かにね、吸盤の使い方が分かれば、僕たちはスパイダーマンになれるかもしれない。
- 今村
- スパイダーマン?
- 高井
- 君たちは単なる趣味でやっているから、そういう発想はしないでしょ。僕は一発逆転狙い、ばくち打ちなので、こうすればとすぐに思い付く。
- 松下
- 最近、そういう人が少ないですよね。そういう発想をしてくれる人はいない。
- 高井
- みんな、ピュアなんだね。確かに「これ何だろう?」というのが面白いのは僕も分かる。それは分かるけど、そこから先を妄想することが大事なんだ。もちろん、妄想だから、ほとんどがうそなんだけれども、そんな発想をする人が4、5人集まって、はちゃめちゃ度合いを競い、語り合う。実は僕たちの仕事のディスカッションもそうなんです。
- 松下
- 妄想するんですか? それも、仕事で?
- 高井
- 仕事でです。ディスカッション中は一番はちゃめちゃなのが偉い。「ガハハハ」と笑って、お互いにどんどん悪乗りする。要するに、いったんルールを外して、たがを外して妄想大会をするんです。
- 今村
- へぇー!
- 高井
- そうなんです。ひとしきり話した後に振り返ると、その中に1個くらい、「あれ、結構いけるかも!」というのが出てきたりする。だから、われわれが「海のNASA」と言っているのもあながち冗談ではなくて、NASAがやるんじゃなくて、日本人ができればいいなと思っています。そのために妄想の究極たる宇宙に生命を探したり、生命の誕生の謎を解くというのを目標にしている。
- 松下
- 分かっていないことについては、妄想って大事ですよね。
- 高井
- 分かっていないことをやらないと、尊敬されない。しかも、みんなが「それ、絶対無理だよ」と言うことをやらないと。僕は基本的に尊敬されたいの。お金が欲しいのではなく、ただただ「あいつ、スゲー」と言われたい。でも、「あいつ、スゲー」と言ってもらうのが一番難しいんだけどね。
- 編集
- 宇宙に生命を探すという話でいえば、2030年のサンプルリターンはどうですか? 土星の第2衛星のエンケラドスの海水を取って地球に持ち帰ろうという計画※ですが。
※2005年、土星探査機「カッシーニ」が土星の第2衛星エンケラドスを撮影。表面は氷で覆われており、割れ目からはプルームと呼ばれる間欠泉のような噴出現象があることをとらえました。このことから、氷の下には液体の海があるのではと予想され、生命の存在が期待されています。この海水を地球に持ち帰り、海水の組成が生命の存在する条件をクリアしているかどうか調べようという計画です。
- 高井
- まだ決まっていません。2010年頃に、その提案自体は出しているんだけれども、そこから先はお金などが絡んでくるので、そう簡単には進まない。そのとき、例えば「お金、ないわー」と言われたらどうします? 今村君、親に「ごめん、お金がないから大学に行かせられない。大学に行かないで」と言われたらどうする?
- 今村
- それは、別に自分で稼げば。
- 高井
- 行きたかったら、そうだよね。
- 今村
- はい、稼いで行きます。
- 高井
- そういうことなんですよ。要するに、エンケラドスに行ってこういうことをしたいと、NASAとかJAXAに出す。そこで「お金がない」と言われたら、自分で稼いで行けばいいんだよね。
- 松下
- 今、自分でお金を?
- 高井
- やると決めて飛び込んでしまったら、諦めるわけにはいかないんですよ。しかも、それでJAMSTECを盛り立てているわけだから。次は、いかに実現するかを考える。何で土星まで行って、宇宙生命を見つけないといけないのか? 僕の動機は、世界で最初に宇宙生命を見つけた男、スゲーって言われたいから。動機はそうだけど、それだけではお金はもらえないのでストーリーも考えるし、実際にお金を稼ぐためにはどうすればいいかまで考える。
- 松下
- あー。
- 高井
- 夢パターン1、2、3、4、5と、いろいろ想定をつくっているわけです。どれかが当たれば行けるように、それぞれのパターンを少しずつ進めていく。たとえできなくても、僕にとっては前に進んでいること自体が重要だからね。人に対してうそをついていない、自分に対してもうそをついていないことが重要だから、仮に途中で死んでも悔いはない。必ず僕の後に誰かがその道を通っていくんだから、そのときにここまで歩いてきた人がいたということが示せればいい。それがサイエンスのすべてだから。
- 松下
- 聞いていて、ものすごく楽しんでいるなあっていう感じがします。
- 高井
- 僕が楽しんでいるって?
- 松下
- はい。
- 高井
- そう見えているだけで、つらいよ(笑)。大人だからつらいんだよ、いっぱい。だけど、基本的には楽しい。