公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第10回
ようこそ、細胞建築学の世界へ。

第2章 細胞建築学を理解するために

■細胞建築学とは

木村
ぼくの専門は「細胞建築学」です。といっても、そういう確立した研究分野があるわけではなく、ぼくが命名したものです。
私たちの体はおよそ30兆個もの細胞からできていて、細胞が増えることで成長していきます。一口に細胞といっても形はさまざまで、その内部ではいろいろなものがダイナミックに動いています。
ぼく自身は、細胞がなぜ多様な形をとるのか、なぜ中のものが動けるのかに興味を持っています。細胞はさまざまなデザインの建築物のようなものです。そしてダイナミックに動いているということは、何かしら力が発生しているはずで、そういう観点から細胞を眺めてみようというのが細胞建築学です。

ヒトの体を構成する細胞は、およそ200種類。実に多様な形をしており、美しい建築物のようだ

■細胞はどうやって建築される?

木村
細胞が建物だとすると、ではどうやって建築されるのでしょうか。細胞は生体高分子といわれるタンパク質や糖、脂質、あるいは核酸などからできています。主なものはタンパク質で、タンパク質が酵素として、あるいは構造タンパク質として働くことは、授業で習ったのではないかと思います。
タンパク質は遺伝子(DNA)に配列がコードされていて、DNAからタンパク質ができ、そのタンパク質から細胞ができているのですが、タンパク質1個と細胞1個を比べると、タンパク質が数ナノメートルから10ナノメートルなのに対し、細胞の直径は10マイクロメートルで、1,000倍以上大きさが違います。
例えば、世界的な名建築、スペインのサグラダ・ファミリア教会の横幅は100メートルぐらいあります。その1,000分の1は約10センチメートル。つまり、1つの細胞がサグラダ・ファミリアだとすれば、タンパク質1個はレンガや釘といった大きさです。細胞は小さいレンガや釘が、わあーっと集まってできているわけですね。
木村
現在も建築中のサグラダ・ファミリア教会は、建築家アントニ・ガウディの設計構想と、それを引き継ぐ職人たちの指導のもとに組み立てられています。一方、細胞の場合は、脳があるわけでも目が見えるわけでもないのに、タンパク質が勝手に組み上がってできていく。しかもきちんと機能しているのがすごく不思議です。
DNAが設計図だといわれるけれど、本当にDNAに直接的に書き込まれている情報だけで細胞を作り上げることができるのかどうか? そこが大いに疑問だし、弱肉強食というわりには多様性に満ちた生物がどうやって生まれるのかを知りたいというのが私のモチベーションとなっています。細胞という建物がいかに建てられていくのかを探るということから、細胞建築学と名づけました。

■遺伝学×物理学でアプローチ

木村
では次に、細胞建築学の研究にどのようにアプローチしているかをお話しします。
現在、広く受け入れられている考え方は、細胞は遺伝子にコードされたタンパク質でできていて、タンパク質の配列や作るタイミングが書き込まれたDNAがいわば設計図となっている、というものです。また、DNA自体に意図があるわけではないものの、進化の過程で効率よく細胞が増えるものが選ばれ、結果的に生存に一番有利なものが生き残っていった。それが遺伝学の考え方です。
一方、物理学には「自己組織化」という考え方があります。聞いたことあるかな? うなずいてくれているね! 自己組織化というのは、誰かから命令されなくても、それぞれの要素が勝手に相互作用することによってパターンができるということ。有名なのが大阪大学の近藤滋先生の研究で、魚の縞模様のパターンが簡単な2つの数式で説明できることを明らかにしました。このように、細かい設計や指示がなくても秩序ができ上がることが物理の世界で示されています。
おそらく細胞がどのように建築されているかを人間が理解するには、遺伝学と物理学、この2つの考え方を組み合わせる必要があるのだろうと思います。細胞の建築を、遺伝学と物理学の両方から考え、明らかにしようというのが、ぼくが考えている細胞建築学のアプローチです。
木村
実際の建築であれば、屋根の重さで建物が倒れないか、土砂崩れが起きたらどうなるのかを構造計算して、つまり力学シミュレーションをして調べますね。それと同じように、細胞についても力学シミュレーションをします。
例えば、核はどうやって細胞の真ん中に行くのか? それをコンピュータ・シミュレーションなどで計算するのが物理的手法。そして、線虫の卵を使って遺伝子操作を行い、顕微鏡観察をしながらシミュレーションの結果を比べてみるというわけです。
ここまでで何か質問はありますか。
内田
ぼくは以前、アミノ酸がコードされていないジャンクDNAについて調べたことがあります。ジャンクDNAにはいろいろ種類があると思うのですが、その1つとして何もアミノ酸を作らない領域があることで、何か模様などに関係しているのでないかと考えたのですが、ジャンクDNAと細胞建築学が結びつくところはあるのでしょうか。
木村
それはとても面白い問題です。DNAと聞くと、タンパク質の配列をコードしていることに関心が向きがちですが、DNA自体、実際にモノとしてあるわけです。モノとしてのDNAは、タンパク質と比べると結構大きいのです。
ですから、細胞の核の中にDNAが詰まっているとすると、 DNAによって核の大きさが決まってくることもある。つまり、DNA自体が柱やロープの役割を果たし、まさに細胞の建築に関わっているというふうに考えることもできるわけですね。「ジャンクDNAがたくさんある=ロープがたくさんある」というわけで、そのロープを使って細胞を建築しているのではないかという側面からの研究も進めています。
内田
ありがとうございます。

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