公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第10回
ようこそ、細胞建築学の世界へ。

第5章 研究者への道、そしてみんなへのアドバイス

石井
先生は小さい頃から理科が好きだったのですか。
木村
ぼくは高校時代、本当に何も考えていませんでした。これはうちの猫ですが、この子はいつも食べることと寝ることしか考えていなくて、高校生のぼくもそんな感じでした。なので、皆さんのようにしっかりした高校生を見るとビックリしてしまいます。
理科が好きだったかというと、大きな声では言えないのですが、あまり好きではなかった。物理はわりと好きだったのですが、生物は嫌いでした。ですから、高校の頃の好きなことといまやっていることはあまり関係がないかなと思っています。
それが大学に入って、建築好きの友達が、安藤忠雄さんが若いときにシベリア鉄道に乗ってヨーロッパに行き、パリで勉強したという話に感化され、「ぼくたちもシベリア鉄道でパリまで行ってみようぜ」と誘ってくれたので、大学1年のときに一緒に行きました。ヨーロッパで有名建築を見たのですが全然ピンとこなくて、「ダメだ、こりゃ」というか、心に訴えるものがなく、自分には建築家は無理だなと思いました。
大学入学後は時間ができたこともあり、それまで敬遠していた本を読むようになりました。ちょうどその頃、姉が「いま遺伝子や分子生物学が熱い」と教えてくれ、そこで生物に少し興味を持った。振り返ると、この頃から人生が変わってきたのかなと思います。

高校時代の木村先生?

■ある本との出会いがきっかけ

木村
ぼくが生物学に目を向けたのは、ある本を読んだことがきっかけになっています。それが、芦原義信(あしはらよしのぶ)先生が書かれた『隠れた秩序』です。芦原先生は建築家で、東大の建築科でも教えておられました。
この本の中で先生は「秩序立ったヨーロッパの都市と違い、日本の都市、例えば東京などは一見無秩序に見えるが、活力や柔軟性にあふれ、関東大震災や第二次世界大戦があっても、活力を持って日本の中心であり続けた。そこには何か『隠れた秩序』というものがあるのではないか」と書かれていました。要するに、都市は勝手にでき上がるのではないかと。ぼくはこの本を大学1年生のときに読んで、こうした「隠れた秩序」が、都市だけでなく、遺伝子と細胞の関係にもあるのではないか、そしてそれを実験して確かめることもできると考え、突然、それまで嫌っていた生物をやってみようと思ったのです。

芦原義信『隠れた秩序―21世紀の都市に向かって』中央公論社(1986)

石井
研究者になったきっかけは何だったのですか?
木村
1つには父が文系の研究者で、1つのことに集中して研究する姿を子どもの頃から見ていたことが影響しているかもしれません。
それと、大学院に進んで研究が少しずつ面白くなってきたこと。もちろん途中で、将来を不安に思ったりしたこともあったけれど、次第に研究者のいいところが分かり、研究を続けてきた感じですね。何か1つのきっかけというより、積み重ねでしょうか。
研究者のいいところは、やはり自由で、研究をどんな戦略で進めようか作戦を練るなど、考える喜びがあること。アイデアで勝負できるし、自分が発見したことを論文という形で問うことができます。
一番大きいのは、世界が舞台だということ。例えばサッカーで日本代表になるにはものすごい才能と運が必要ですが、研究者はやっているだけで日本代表です。大学院2年のときに海外の学会に連れていってもらったのですが、それまで会ったこともないのに、ぼくの論文を読んでくれていた人から「面白かった」と声をかけられたのもうれしかった。世界中の人とコミュニケーションできるのが魅力ですね。

■大事にしている言葉

久保田
研究者として、先生が大事にしている言葉はありますか。
木村
ぼくが大事にしていて、とくに高校生に伝えたい言葉は「啐啄同時(そったくどうじ)」です。「啐」は鳥のひなが卵から出たいと中で鳴き叫ぶこと。「啄」はくちばしでつつくことで、親鳥が外から卵の殻をつついて、ふ化を促す。その2つが同時に起きたとき、ひなが無事に生まれる。ひな鳥がシグナルを出していないのに親鳥が殻を割ってしまったら、未熟児で死んでしまう。逆に、ひな鳥が中で一生懸命に叫んでいるのに親鳥がつついてやらなければ、やはり殻から出られず死んでしまいます。物事がうまくいくには、自分が何かすることと、外の環境が整っていることの両方が大事だという言葉です。

そったくどうじ啐啄同時

「啐啄同時」はいろいろなことに当てはまります。例えば進路を決めるときも、高校3年生になったから絶対こうと決めなければならないのではなく、やはり皆さんには皆さんのタイミングがあると思います。そのタイミングをしっかり見極めることが大事です。

■将来を考えるうえで高校生に大切にしてほしいこと

石垣
私はいまは医師になろうと思っています。もともと心理学が好きで、大学で学びたいと思っていたのですが、その後の仕事のことを考えると、心理学だけでは武器が少ないというか、それだけで何かをやっていく自信が持てませんでした。心と身体の関係を知るうえでも医師がいいのではないかと考えているのですが、親族に医療関係者がいて情報量が多い友人と違い、将来どうなるのか不安だったりします。先生は高校生が将来を考えるうえで大切にしてほしいと思うことがありますか。
木村
猫のように高校時代を過ごしたぼくと違い、すごくしっかりした考え方を持っていると思います。石垣さんの悩みと少し離れてしまうかもしれませんが、高校生の皆さんに大事にしてほしいことが3つあります。
1つ目は「焦らないこと」。石垣さんの場合は夢が決まっているからいいのですが、もしなかったとしても焦らないでほしい。
2つ目が、何かのまねというか、人がこうしているから自分もそうしなければいけないと思う必要はまったくないので、まねは絶対にやめたほうがいい。
3つ目が、少し矛盾するかもしれないけれども、「自分1人で探さない」ということ。これはすごく大事だと思っています。
自分1人でうんうん考えていても、全然分からない。そんなときは、いろいろな人と会い、意見を交換することが大事。例えば、友達はAに興味があるけれど、自分はまったく興味が持てない。あるいは、自分はBにすごく興味があるが、友達は「なに、それ?」と言う。そうやって話すなかで自分の特性が見えてくるので、そういったことを大事にしてほしいですね。
  • ①焦らない
  • ②まねしない
  • ③自分1人で探さない
いまぼくが石垣さんにできるアドバイスがあるとすれば、時代はどんどん変わっていくということ。親が医師で情報をよく知っているお友達と比べると不利に感じるかもしれないけれど、現在と皆さんがこれから医師になる時代はまったく違う。同じ医師でもやることは違うし、勉強しなくてはいけないことも変わってきます。しかも、これからのほうが変わり方が早いので、親世代の経験はあまり参考にならないと思います。
もう1つ、興味はどんどん変わっていっていい。最初に医学を勉強して、その後、全然違う方向にいってもいい。「お医者さんはつぶしがきく」と言うと表現が悪いけれども、医学部出身で生物の研究をしている人もたくさんいます。途中から進路を変えることはいくらでもできるし、そのときに前の経験は必ず生きてきます。いま興味を持っていることに迷わずに飛び込み、「後から変えればいいや」と考えたほうがいいかなと思います。
石垣
ありがとうございます。

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