公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第10回
ようこそ、細胞建築学の世界へ。

第6章 研究者のイメージBefore & After、みんなの感想

木村
ぼくの話は以上です。今回の話で、研究や研究者に対するイメージが変わったか、変わっていないかを教えてもらえますか。内田君、感想を聞いてもいい?
内田
意外だったのは、もともと生物の道を志していたわけではなく、大学に行ってから自分の興味のあることを見つけ「これをやろう」と機会をつかんだことです。うーん、言い方は悪いのですが、計画性はそんなに……。
木村
本当にそう、計画性はゼロなのよ(笑)。たしかに計画性はないのですが、前やっていたことは無駄ではないし、自然の流れに任せてやっていくと、落ち着くところに落ち着くのかなと思います。だから、あまり頭でっかちに考え過ぎないほうがいいのかもしれません。

■最近の研究で分かったこと

内田
今日は細胞建築学全体について解説いただいたのですが、ここ数カ月間に分かったことがあれば教えてください。
木村
途中で少しお見せした遠心偏光顕微鏡は、もともとアメリカの研究所にあったものですが、今春、譲っていただいたので、この数カ月間で組み立てています。これを使っていろいろ測定しようと思っていて、それがいままさに進んでいる話です。
あとは、内田君がジャンクDNAの話をしてくれたのですが、やはりDNAにも興味を持っています。DNAが小さい核にぎゅっと押し込められたときと、大きな核で比較的緩やかなときで中の動きがどう違うかを測定してシミュレーションし、それが実際の細胞核の中のDNAの動きと合うのかを研究しています。これもホットな、ここ数カ月で大きく進んだテーマです。
内田
ありがとうございます。
久保田
先生が書かれた『細胞建築学』の本の中に、細胞質は高濃度で物質がドロドロに溶けている状態と記されていて驚きました。私はもっとサラサラしていて、その中をいろいろな物質が流動していると思い込んでいました。このドロドロに溶けている状態はどうやって分かったのですか。

『細胞建築学入門』工学社(2019年12月)

木村
一番簡単なのは、細胞をぷちっとつぶして流れ出す様子を観察したり、細胞の中に磁石のようなものを入れて、それを外から引っ張ってやる。ピュンと動くのか、ダラダラとしか動かないかで、ドロドロ度が分かります。
細胞質は、水あめのような粘性で、タンパク質などの高分子が高濃度に存在しています。植物なら細胞質流動が見えると思うので、どれぐらいドロドロしているのか、見てみたら面白いと思います。
久保田
もう1つ、実験をうまく進めるコツがあったら教えてください。例えば生物のDNAの組み換え実験をするときなど、焦ってしまって、うまくいかないことがあります。
木村
実験ノートはつけていますか? いきなり手を動かし始めてはダメで、冒頭でお伝えしたように、自分の疑問をしっかり持ち、実験の目的を明確にすること。そしてそれを実験でどう明らかにしていくか、実験方法をいろんな角度から考えて記入し、実験の結果やその考察をしっかりまとめるのです。ぼくは実験ノートの大切さを、恩師の堀越正美(ほりこしまさみ)先生に鍛えられました。
久保田
ありがとうございます。

■結果を出さなければというプレッシャーはありますか

高橋
研究者は狭い世界を見ているというイメージがあったのですが、先生が「世界が舞台だ」とおっしゃったのを聞いて、すごく広い世界を見ているのだなと思いました。逆にいうと、世界中にライバルがいて、しかも結果を出さないといけないという周りからのプレッシャーがあるのでは?
木村
ぼくたちは皆さんの税金で研究させてもらっているので、当然、結果は出さないといけないのですが、周りからプレッシャーをかけられているから頑張るということは考えていません。また、世界中にライバルがいるのですが、ぼく自身はライバルに勝って1等賞になりたいというより、ちょっと臭い言い方かもしれないけれど、他の人がやっていないことをやりたいという気持ちでやっています。
夏目漱石に『道楽と職業』というエッセーがあります。そこには「職業は基本的に誰かから頼まれたことをしてお金をもらう仕事だが、科学者と芸術家は例外で、自分がしたいことをすればいい。逆にいうと、人からプレッシャーをかけられたからやるようなことでは、いい科学・いい芸術は生まれない。自分の心から湧き上がることをしないと、いい科学・いい芸術はなかなかできない」と書いてあります。理想主義過ぎるかもしれないけれども、ぼくもそう思っています。

「一番いいパフォーマンスが出せるのは本当に自分が面白いと思えることをやることです」と木村先生

■細胞の大きさに限度はある?

内田
将来の理想として、細胞を人の手で創れたらいいなと。それで疑問に思ったのですが、細胞の大きさに限度はあるのでしょうか。
木村
細胞がどこまで大きくなれるかということ?
内田
人の手で細胞を創るとき、標準的なサイズに合わせなければいけないのか、もっと大きなものは創れないのか。科学的に考えれば、やはり限度はあるのでしょうか。
木村
それもすごく面白い問題で、限度があるのではないかと思っています。例えば、今日の話の中では、核を細胞の真ん中に持ってくることが大事で、それには微小管というひもを伸ばして真ん中に持ってきます。そのひもは小さいタンパク質でできているので、伸びる限界があります。その限界よりも巨大な細胞を創ろうとすると、核を中心に持っていくとか、染色体の分配ができなくなると思うので、そういう意味でも、細胞の大きさには限界がありそうです。
あと一般的にいわれているのは、栄養は外から取り込むので、細胞が大きくなると外から取り込んだ栄養が中まで浸透していかない。そういう意味でも難しいといわれています。植物細胞には結構大きいものがあるのですが、細胞質流動を起こして栄養を運んでいます。 当然、流動にも限界があるので、せいぜい、いまあるサイズぐらいまでのものしか創ることはできないのではないかと思います。
内田
恐竜などの巨大生物は細胞そのものが大きいのではなく、たくさん集まっているということですか。
木村
その通りです。細胞はそれほど大きくなれないので、大きなゾウと小さなネズミは細胞の大きさではなく、単に数が違うだけです。生物は、1個1個の細胞を大きくするのではなく、細胞の数を集めることでしか大きくなれないと思います。
内田
ありがとうございます。
編集
1点お伺いしたいのですが、先生が細胞建築学を標榜するにあたり、新たな学問にアプローチするために仕入れなければならなかったことはありますか。例えば、コンピュータ・シミュレーションが必要だからプログラミングの勉強をした、顕微鏡を扱う技術の習得が必要だったなど、一番プラスになったものは何でしょう?
木村
ぼく自身は、やはりシミュレーションが大きかったと思っています。大学院まではいわゆる実験科学が中心で、理論やシミュレーションはできていませんでした。その後、どうしてもコンピュータのモデル作りがやりたかったので、研究員になるとき、理論的なシミュレーションや画像解析が得意な大浪修一先生のところに行きました。
普通、大学院を卒業したらプロなので、それまで培ったもので勝負していくのが当然というか、 常識的にはそうしなければいけないのですが、ぼくはあえて違う分野に行ったのです。もちろん、自分がやりたかったからなのですが、当時、実験とシミュレーションの両方をバランスよくやれる人が少なかったので、そういう意味で、その後、チャンスをいただけました。「みんながこうしているから、こうしなきゃ損だ」と思っていたら、たぶん、現在のぼくはなかったと思っています。運が良かっただけなのかもしれないけれど、やりたいことをやっていたら、それを見てくれている人がいるのかなとも思います。
編集
ありがとうございます。生徒の皆さん、他に何かありますか。なければ、今日はこれで終了したいと思います。
木村
皆さん、今回は実際に来てもらうことはできなかったけれども、ご近所なので、いつでも遊びにきてください。またいつか会える日を楽しみにしています。ありがとうございました。
一同
ありがとうございました。

みんなの感想

研究者のイメージが変わった!

石井 一久さん

自分の中での研究者のイメージが大きく変わる時間になりました。今までは1つの分野に突き進むという印象が強かったのですが、さまざまな分野と絡めて研究を進めていく、想像よりも広い目線を持つ職業なのだと感じました。また、自分はまだ具体的な夢を見つけられていないので、先生のお話の中の「啐啄同時」という言葉のように、外からのタイミングを待つとともに、逃さぬよう準備をし、つかむ勇気を持てるようにしたいと思いました。

360度の角度から物事を追究していきたい

石垣 ひかるさん

建築と細胞。一見何の関係性もないように見える2つが、暁先生の言葉によって見事に結び付けられた時、ただ自分が勝手に切り離していたのではないかと感じました。そして、この2つに限らず、無意識のうちに自分の物差しで世界を区切っていることに気がつきました。これから研究に携わる際には、様々な糸を手繰り寄せるようにして、1つの物事を360度の角度から追究していきたいです。貴重な経験をありがとうございました。

生命の神秘をひもとく細胞建築学

内田 亮太さん

普段の生活では研究者の研究の詳細を知る機会は皆無ですが、本日はそれを垣間見ることができました。細胞が建築家を介さずひとりでに形成される、無秩序(に見える状態)から秩序が生まれるということは今まで気づかず見過ごしていましたが、生命の神秘そのものだと感じました。研究内容や研究室などの分かりやすい説明と、私たちの質問に丁寧に回答してくださった木村 暁先生やスタッフの方に心からお礼申し上げます。

疑問を持つことの大切さ

久保田 結理さん

木村先生の生き方や考え方に感銘を受けました。研究において「疑問を持つ」ということは重要です。自分が解決したいことを見つけ、自発的にそれを研究していくことに意味があると気づきました。また、自分がすべきことを考えるきっかけにもなりました。今やっていることがすべてではなく、目の前に現れたチャンスをつかんで自分のものにすることが大切だと感じました。自分がやりたいと思うことを追求していきたいです。

研究は世界が舞台!

高橋 コウさん

研究者は、細胞や原子など、ものすごく小さな世界に閉じこもっているというイメージを持っていました。木村先生の話の中に出てきた「研究は世界が舞台」という言葉に、研究者が立つ広い世界を感じ、そのイメージがポジティブなものになりました。先生の話を聞いているうちに、研究者になるのも自分の1つの選択肢であり、今後の目標になるのかもしれないと思いました。これからもたくさん悩み、自分のタイミングを大切にしたいです。

生徒たちの目の輝き

教諭:比留間直人(ひるまなおと)先生

リモートでの実施になりましたが、生徒たちが目をキラキラさせて木村先生とお話ししていたのが印象的でした。私も6年前は大学院生として分子生物学を研究していたので、実験ノートを作ることの重要性や蛍光タンパク質での標識実験の話など、自身の学生時代の研究に思いをはせながら聞いていました。高校時代に第一線の研究者と話ができる機会はなかなかあるものではないので、生徒たちにはこの貴重な経験をこれからの学びに生かしてもらいたいです。

「啐啄同時」を体感したひととき

教諭:金親雅史(かねおやまさひと)先生

最初は緊張していた生徒たちも、「細胞建築学」の学問としての魅力と、木村先生の生い立ちからにじみ出る「人」としての魅力に一気に引き込まれ、知らず知らずのうちに積極的に対談する姿が見られました。また、課題研究に取り組むヒントを得ただけではなく、人生において自分の生き方の転機となるようなきっかけやタイミングを見逃さないことが大切であると教えていただきました。生徒にとってはまさに「啐啄同時」を体感するような貴重なひとときとなりました。

※掲載されている研究関連の図版・動画類は、木村暁先生よりご提供いただきました。国立遺伝学研究所内での写真は同研究所リサーチ・アドミニストレーター室室長、韮山高校内の写真は同校の先生方に撮影していただきました。ご協力ありがとうございました。

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