公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第13回
昆虫から死後経過時間を推定!? 知られざる法昆虫学の世界

第2章 講義を受けての質疑応答

●死後変化と昆虫
佐藤
(鈴)
先ほどのお話で、新鮮期から膨隆期の間は大体24時間以内とおっしゃいました。
三枝
はい、夏の時期なら、それぐらいです。
佐藤
(鈴)
水中で死んでしまったとき、唯一発見される可能性があるのは膨隆期とのことでしたが、この期間は人によって違いはあるのですか。
三枝
基本的にガスがたまって浮かび上がるのですが、膨らみ始めると、皮膚が破綻しない限り少なくとも1週間ぐらいは膨らんだ、いわゆる赤鬼・青鬼の状態になっていると思います。
佐藤
(鈴)
水中や白骨になったとき、昆虫自体が少なかったり、いなかったりすると思うのですが、そういう場合、先生はどういう形で関わるのでしょうか。
三枝
先ほどの昆虫相遷移では骨になってしまうと、確かにそこに昆虫はいないのですが、活動の痕跡は残っています。ハエの場合、囲蛹殻(いようかく)が大量に残っていたり、皮膚にかじった跡がある。そこから、こういう昆虫が活動して骨になったんだな、と。「残っているハエの痕跡は暖かい時期のものだから、少なくとも夏は越えています」とか、そういう感じで時間を見ていきます。まったく太刀打ちできないわけではなく、昆虫が活動した痕跡を利用することはやっています。
※囲蛹殻:ウジの外皮が硬化したもので、内部の蛹を保護し、成虫の羽化後も残る暗赤色の楕円球状の構造。
佐藤
(鈴)
なるほど、ありがとうございます。
●チーズバエ
佐藤
(亜)
チーズバエの幼虫が30cmぐらい跳ねるというお話だったのですが、跳ねる理由は何ですか。
三枝
退避行動、その場から逃げるために跳ねるといわれています。結構な距離というか、水平にしてもそれぐらい跳んできます。一気にピョーンと跳んで逃げる感じです。
佐藤
(亜)
チーズバエは日本にも生息していますか。
三枝
はい。実際に岩手にもいて、死体からもよく取れます。
佐藤
(亜)
ありがとうございます。
●法医学解剖
鈴木
先生は、いまも法医学解剖に立ち会っているのですか。
三枝
はい。解剖をする・しないを決めているのは岩手県警の検視官ですが、年間解剖数の20%ぐらい、20~30件は立ち会っています。
鈴木
本の中で「遺体と向き合うときは、その人のバックグラウンドには介入しない」とおっしゃっていたのですが、何回もやっているうちに慣れて、そう考えるようになったのですか。
三枝
慣れるというより、介入して感情が入ってしまうと、心理的になかなか大変になってくることもあるので、できるだけそういう情報は排除し、あくまで遺体とそこに付着している昆虫に注目するようにしています。
鈴木
なるほど、ありがとうございました。
佐藤
(鈴)
先ほど聞き忘れたというか、先生の本を読んでの質問が2つあります。1つが「法医解剖学には覚悟が必要だ」と書いてありました。鈴木君の質問と重複するところもありますが、先生はどういう覚悟を持ったのでしょう。それと、死後経過時間を推定する際、搬送時の気温の変化についても計算しているのでしょうか。
三枝
2つ目の質問ですが、警察には死体を保管するための冷蔵庫があります。通称モルグといい、その冷蔵庫に入ってしまうと、死体に付着したウジの成長を止めることになります。なので、厳密にやらなければならない場合は、冷蔵庫に入っていた時間も考慮するようにしています。搬送については、本当はその時間や気温も考えればいいのだけれども、さすがにそこまでは対応していません。
それと、覚悟についてですが、私は大学では別のことをやっていました。なので、身内の死体は見たことがあっても、実際に他人の死体を見たことはなく、法医学講座に勤めて初めて目の当たりにしました。法医解剖に立ち会う人たちは仕事として行っているので、誰一人、騒ぐ人はおらず、静かにやっています。たまに研修中の警察官が法医解剖室に入ってくると、具合が悪くなって倒れてしまう人もいますが、基本的にはそういう人は少ないので、騒がないのが当たり前となります。そんな環境で感情をあらわにすると、それ自体おかしなことになってしまうので、自ずと覚悟が決まるというか、静かにやるという感じですね。
佐藤
(鈴)
ああ、すごいですね。
●ブタ死体の屋外留置実験
佐藤
(亜)
先生の本に「ブタの死体の屋外留置実験を行った」と書いてあったのですが、その死体は雨風にさらされる状態だったのですか?
三枝
鳥インフルエンザがはやっている時期だったので、カラスなどにつつかれるのが嫌で、大型の動物用ケージに入れ、そこに金属のメッシュをかぶせ、虫は入れるけれど動物は入れないようにしました。だから、雨や風にはさらされる状況です。ただ、この実験は、一般の方にはイメージが良くなかったようで、ご理解いただくのが本当に大変で、始める前から疲れちゃったという感じでした。
編集
でも、実験してみたら、やはり成果はあった?
三枝
そういうことになりますね。やはり、あの実験は大きかったです。
佐藤
(亜)
ありがとうございます。
三枝
そうそう、アメリカでは、死体解剖の後処理、縫合などを高校生がアルバイトやボランティアやっていたりするそうです。
一同
へぇー、そうなんだ!

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