公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第15回
汗や尿で発電!
ウェアラブルバイオ燃料電池が切り拓く未来

第1章 バイオセンサー・バイオ燃料電池の基礎知識

1-1 バイオセンサーとは

■バイオセンサーの原理
四反田
バイオセンサーについて簡単に説明します。バイオセンサーとは、微生物や酵素、抗体、核酸といった生体や生体分子の持つ「分子認識機能」を用いて何かしらモノを測ろうというものです。
例えば、今、皆さんに一番なじみのあるのが、新型コロナウイルスを検知するセンサーですね。抗原抗体反応を利用していて、体の中にウイルスや病原菌などの抗原が入ってきた時、それを倒すための抗体がつくられますが、抗原を認識する抗体の機能をセンサーとして用いるものです。
DNAの二重螺旋(らせん)を解いた一本鎖DNAを使って、相補的な塩基配列を持つDNAを検出するセンサーもあります。
私が研究しているのが酵素を使ったバイオセンサーです。酵素は生体反応を触媒する機能を持つタンパク質で、分子を厳密に識別する機能を持っており、グルコースオキシダーゼやアルコールデヒドロゲナーゼなどいろいろな種類があります。
 
では、どのようにターゲットとなる分子などを識別するのか? バイオセンサーでは計測したい物質のことを「基質」といい、基質と酵素の関係は鍵と鍵穴にたとえられます。例えば、グルコースオキシダーゼという酵素は、ブドウ糖であるグルコースを酸化し、グルコノラクトンと過酸化水素を生成する酵素ですが、基質のグルコースが鍵穴にカチャッとはまると活性化エネルギーを下げ、反応を進みやすくします。グルコース以外、例えばフルクトース(果糖)などが来ても反応せず、グルコースのみを選択的に認識します。特定のものが来た時だけ活性化エネルギーを下げるといった特定の反応が起き、測りたいものだけが測れるというわけです。
 
グルコースオキシダーゼを例に、もう少し詳しくバイオセンサーの原理を見てみましょう。溶液中で鍵のグルコースが鍵穴のグルコースオキシダーゼとくっつくと、グルコースの中にある電子が2個引っ張られ、酸素に渡されます。ということは、溶液中で酸素に渡っている電子を電極に引っ張っていけば、電流が流れます。
電極の上に酵素を塗布しておきます。ここにたくさんグルコースを含む溶液を添加すると、たくさん電子が取られるので、たくさん電流が流れます。逆に少ししかグルコースを含まない溶液だと、あまり反応しない(少ししか電子が取られない)から電流は少ししか流れない。つまり、電流の強弱でグルコースの濃度が高いか低いかがわかるというわけです。
■代表的な酵素バイオセンサー
四反田
酵素バイオセンサーのうち一番有名なのが、糖尿病の血糖管理に使う血糖値センサーです。糖尿病の人は低血糖になると意識がもうろうとして倒れてしまうので、血糖値の管理は重要です。現在市販されている血糖値センサーは、指先から採血し、血液中のグルコースの濃度を測ります。採血の際に痛みを伴うため、血液の代わりに汗や唾液などが使えれば、患者さんの負担を減らせるでしょう。糖尿病患者は、その予備軍を含めると世界中で数億人いるといわれ、このマーケットのポテンシャルはものすごく高いといえます。

1-2 バイオ燃料電池の特長と種類

■酵素を使ったバイオ燃料電池の特長
四反田
糖などの体内物質を酸化して発生する電流を測るのがバイオセンサーでしたね。ここで流れた電子を受け止める別の酵素をもう一つ組み込んだものがバイオ燃料電池です。
例えばトヨタのMIRAIなどの車に積まれている燃料電池は触媒が白金で、水素ボンベを積み、大気中の酸素と反応して発電する水素燃料電池です。この場合、負極と正極が接触しないようセパレートする必要があります。このセパレーターのコストが燃料電池の4割ぐらいを占めるといわれています。
その点、酵素の燃料電池はセパレーターがいらない。「セパレーターフリー」であることが大きな特長です。

マイナス極で尿糖や乳酸が酵素の働きで分解され、電子と水素イオンが生成(酸化)
プラス極では空気中の酸素が水素イオンと電子を受け取り水になる(還元)

 
それから、例えばアルコールデヒドロゲナーゼだったらエタノールから発電できるし、乳酸オキシダーゼという酵素を付けておくと汗中の乳酸から発電できる。つまり、酵素の種類を変えると、発電の燃料自体も変わってきます。先ほどサスティナブルという話があったのですが、田んぼ発電に使われるのが微生物。鉄酸化細菌など鉄が酸化されるような細菌を使うと土壌成分で発電するので、 田んぼの温度などをモニタリングする際の電源として使えます。
 
このように、①身近で安全な糖、アルコール、有機酸などから穏やかな条件(中性、常温)で発電できる、②シンプルな構造、③カーボンニュートラルといったことがバイオ燃料電池の主な特長といえます。
■埋め込み型と外付け型
四反田
酵素を使うバイオ燃料電池は、埋め込み型と外付け型に分かれます。
ヨーロッパでは最終的に血管中に埋め込む方法が注目されていて、ラットなど動物レベルで実証しているグループがいくつかあります。ペースメーカーは現状では5~8年でバッテリーを交換しなければならず手術が必要ですが、血液中の糖と酵素を使ったバイオ燃料電池を体内に移植できれば、電池交換がいらず、ずっと動くということですね。
外付け型というのがウェアラブルデバイス用の電池です。グルノーブル・アルプ大やUCサンディエゴ、東北大などが積極的に取り組んでいます。アメリカではこの研究に、陸・海・空軍が莫大なお金を出しています。過酷な状況下で活動する兵士の健康状態を自己駆動かつ電源レスでモニタリングしたい。背負っている40kgの荷物のうち20kg がバッテリーだという話があるぐらい電源が生命線となるため、何十億、何百億というものすごい金額が投じられているのです。

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