公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第15回
汗や尿で発電!
ウェアラブルバイオ燃料電池が
切り拓く未来

第3章 ラボツアー

講義後、四反田先生の案内でご自身の研究室や他の研究室、関連施設を見学しました。

板垣・四反田研究室にて

まず最初に案内していただいたのは先生の研究室。学部の4年生と修士課程の院生、計45名が所属し、バイオセンサーや乳酸電池などの研究をしています。今回の訪問に合わせ、研究室員の方々が研究の一部を紹介してくださいました。

乳酸電池

最初に見せていただいたのは、和紙に特殊なカーボンで印刷し、電極に酵素を塗布した乳酸電池。この上に乳酸溶液をスポイトでかけると発電し、電極につないだLEDが点滅しました。

実験の準備

酵素を塗った電極に乳酸溶液をかける

LEDが点滅

生徒に仕組みや目的をわかりやすく説明

研究室員
普通の電池は金属を使うけど、これは電極に炭素と酵素を使っています。マイナス極で酵素の酸化、プラス極で酸素を水に還元するという反応を起こすことで電子が動き、電池として働くわけです。
生徒
実用化した場合、いくらぐらいしますか?
研究室員
使っている基盤は和紙なので、高価ではありません。
四反田
よく「酵素って高いですよね」と言われるのですが、微生物で大量に培養できるものを使うと結構安くできます。普通の化学で使う試薬ぐらいまで金額は下げられるので、最終的には1枚20~30円を目指しています。
生徒
乳酸で発電できると何がいいのですか。
研究室員
乳酸は汗の中に多く含まれている物質なので、人が汗をかいた時に発電して検知したり、発電量から汗中の乳酸の濃度を測れたらと考えています。
生徒
(うなずく)
イオンセンサー

続いて見せていただいたのがイオンセンサー。汗や尿、血液などに含まれる体内物質を測定するものですが、バイオ燃料電池と組み合わせることで、その発電量から体内物質の濃度を計測することができます。

薄くて小さなイオンセンサー

イオンセンサーの説明を聞く皆さん

研究室員
この緑のチップみたいなのがイオンセンサー。簡単に言うと、汗に含まれるナトリウムイオンの濃度を測定することで、その人の脱水状態を調べることができます。このセンサーの特長は衣服(布)に熱転写印刷できる点で、着ているだけで汗中のイオン濃度をモニタリングでき、アスリートや熱暑の現場で働く作業者の熱中症予防に役立ちます。
酵素の構造研究
研究室員
私は、乳酸電池で使っているLOX*という酵素の構造について調べています。乳酸電池は汗で発電するのを目標にしているのですが、汗のpH**が酸性側になると酵素が働かなくなり、電池として機能しなくなります。なので、pHを下げた時、あるいは酵素が働かなくなる原因がある時、酵素がどういった構造をしているのかを調べています。
*LOX:リポキシゲナーゼ(lipoxygenase)
**pH:水素イオン濃度指数。pHは0~14の数値で表され、pH7が中性、7より小さいと酸性、大きいとアルカリ性。
有機二次電池の研究
研究室員
私は有機二次電池を研究しています。一般的にスマホなどに入っているのはリチウムイオン二次電池ですが、リチウムがレアメタルで資源的な制限があることから、今、世界中で新しい蓄電デバイスの開発が行われていて、これもその一つです。リチウムの代わりに有機化合物を使った電池を有機二次電池と言います。メリットとしてはリチウムより軽く、柔らかいこと。将来的には布のように軽い電池ができるのではないかと思っています。
生徒
この電池はどれぐらい出力が出せるのですか。
研究室員
私の研究は、まず電池として使える物質があるかどうかから始まりました。その物質を多く付ければ付けるほど容量や出力は上がると思われますが、そこはまだ検証していません。リチウムイオン二次電池と比べたら出力は全然小さいけれど、用途が違ってくるのかなと思っています。例えば、身につけるようなものだと軽さや柔らかさがメリットになってくるし、ウェアラブルデバイスに大きな出力はいらないから、そういった分野で使われていくと思います。

他研究室と関連施設

板垣・四反田研究室を訪問した後は、四反田先生と研究室員の方々に案内されて他の研究室や関連施設を見学しました。

他研究室の紹介

研究室ごとに立ち止まり「ここはウォーターフロンティアといって水を科学している研究室」「こちらは有機半導体の研究室」と、研究概要の説明を受けながら進みます。

また、ガラス張りで中の様子が見える研究室では、若手研究者がわざわざ研究室の外に出て説明してくれました。「シリコーン合成の研究室です。あそこに見える風船にはアルゴンが入っています。シリコーンの元となるケイ素は酸素や水に不安定なので、合成時に反応圏内に酸素や水が入ってこないよう、重く不活性なアルゴンを使います」

学生居室

学生が使う実験室と居室は分かれており、勉強や論文の執筆、食事などはこの部屋で。4年生になると各人に机が1つ与えられ、実験室と居室を行き来します。

装置・設備の紹介

研究用の設備や装置もいくつか見学しました。これはその一つで、バイオセンサーを印刷するためのスクリーン印刷機。カーボンインクを押し付けて印刷しますが、押し付ける強度やスピードなど調整を繰り返し、適正な印刷条件を見つけるまでに約2年かかったそうです。この印刷ノウハウが出力を左右します。

最後に見学したのは、先端化学科が分析の際に頻繁に使うX線装置。とても大きな装置で、国内でも設置されている研究施設は限られているとのことです。

ツアーを終えて四反田先生から一言

研究の目的や内容によって研究室の設備や装置がまったく違うこと。このことを実感していただけたのではないかと思います。

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