公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第15回
汗や尿で発電!
ウェアラブルバイオ燃料電池が切り拓く未来

第4章 質疑応答、そしてアドバイス

■実用化に向けて

四反田
最後に何か質問あれば、どうぞ。研究内容だけでなく、何でもいいですよ。
開発には多額の資金が必要だけど……
今田
アメリカではバイオ燃料電池の開発に軍から多額の資金が投じられたとのことでした。先生はどう考えますか?
四反田
個人的にはこれがどんな健康管理に使われようと特に問題はないと思っています。ただ現在、私たちはあくまで一般健常者向けのヘルスケア、あとは「未病」と言って、病気にならない、病気予防の分野に特化して研究を進めています。
バイオ燃料電池を商品化するにはどうしたらいい?
上原
普通の燃料電池はエネファームなどで商品化されていますが、バイオ燃料電池でそのような例はありますか。
四反田
商品化されているものはありません。今、国はバイオや蓄電、再生可能エネルギーなどのエネルギー関連を重点20課題に入れようとしていて、この前もヒアリングがありました。そういったところからの支援は受けていますが、まだ実現していません。実は、大量生産するにはどうしたらいいかなど、実用化に向けたプロジェクトもやっているのですが……。
上原
やはり商品化は難しい?
四反田
教育機関である大学の研究と企業の研究は全然違います。例えば大学だったら、サイエンティフィックになぜその現象が起きるのかを突き詰める。そうすることで学生さんの学力を上げられるし、将来の役に立ちます。一方、企業の研究は「AとBとCを混ぜたら性能が上がりました。理由はわからないけど、取りあえずCの組成を少し変更してよりよいモノを作っていきましょう」となるわけです。
編集
そもそも開発姿勢が違うということですか。
四反田
大学では近未来的な研究をしているので、一足飛びに実用化するのは難しいのですが、今そのギャップを埋めようとしています。私たちとしては、あと4~5年で「こんな形で使えますよ」というものを世に出せればと思っています。
紙おむつに搭載する時のポイントは?
山野
使い捨ての紙おむつにおむつ電池を搭載する場合、毎回、つなぎ直すのでしょうか。
四反田
その感覚はすごく正しくて、最終的に実用化する時の課題がコネクション。センサーはおむつの中にあるけれど、配線も含め、おむつをして寝ている時にじゃまにならず、かつ安定して通信できるようにカチャッとはめる。そこが実用化のキーポイントです。山野さんの言っていることは正しくて、1回1回おむつをはかせる時に深くカチャンとはめるのは意外に難しい。
山野
(うなずく)
運動している時、オーバーワークがわかるといいな!
小林
体育館でバドミントンをやっていると、すごく暑くなり、熱中症にならないか心配です。汗で「動き過ぎだよ」とわかればいいのですが、一般向けに実用化されるのはいつごろになりそうですか。
四反田
そこがなかなか……。運動強度を上げるだけならバイクをこげばいいのですが、熱中症になってくださいとはなかなか言えない(笑)。あと、コロナ禍で実証試験が難しいこともあります。行動生理学を研究されている教養教育研究院の柳田信也先生が、重装備で活動して熱中症になりやすい消防関係の人たちと共同研究をしています。適切なタイミングでアイススラリー*を取ると、どのぐらい深部体温が下がるかといった研究ですが、それに合わせてセンサーを貼り、パラメーターに沿ったデータが取れるかをまずやる。あとは、別の共同研究で、先ほど学生が作っていたモジュールの量産化を企業に検証してもらう。これらをパラレルでやっていくと、実用化に近付くのではないかと思います。ただ、何年後という明確な数字はまだありません。
小林
アイススラリー?
四反田
ええ。熱中症になりかけた時、水よりもアイススラリーを飲むほうが有効です。深部体温を下げることが大事で、塩分とともにアイススラリーを取ると熱中症になりにくいので、体育館でバドミントンをする時は、この点に気をつけるといいですね。
 
*アイススラリー:細かい氷の粒子が液体に分散した状態の飲料。深部体温の上昇を抑えるのに効果的といわれている。

■進路について

数学と化学、どっちを選ぶのが正解??
芝山
自己紹介でも話しましたが、やりたいことが数学とか化学とか別々にあって、進路で悩んでいます。実際、どう選んだらいいのでしょう。
四反田
難しいことを聞くね(笑)。少し前に行ったある大学のシンポジウムでも、「進路って、やりたいことか好きなことか、どちらを優先させるべきですか」という質問が出ました。どちらかと言うと、「その場の出会いと勢い」っていう感じかな。掘り下げれば掘り下げるほど、自分が思っていない世界がパッと目の前に現れてくるのが多分、大学以降だと思います。
確かに難しいけど、あなたぐらい数学が好きで得意なら、やっぱり最初は興味のあるところでいいんじゃないかな。好きこそものの上手なれと言うように、苦しいことをずっとやっていてもアンハッピーでしょ。自分が面白いと思うことをやっていれば、DNAが着火するというか、どんどんパワーアップしてくると思います。
芝山
なるほど。
四反田
それと、個人的なリコメンドとしては、今は視野を狭めず360度いろいろ見てみるといい。「こんな世界もあるんだ」という発見があるかもしれないしね。その上で、自分が好きなことに狙いを定めて進めば、そんなに間違いは起こらないかな。うちの大学でもやめてしまう人が多少いるけど、無理しているというか、マッチングしていない人が多いように思います。芝山君の悩みにズバッと回答できなくてごめんね。
芝山
いいえ、参考になりました。
四反田
甲田君は何かある?
興味のあるテーマに合った学部・学科を選びたいけど……
甲田
はい。エネルギーとか、人体に影響する薬や栄養に興味があるのですが、そういったことを研究している学部や学科はどこになりますか。
四反田
私が所属する先端化学科はエネルギーの研究が盛んです。例えば、これから自動車は全部、電気自動車にするとなった時に、まず枯渇するといわれているのがコバルト、そしてリチウム。だから、国策としてコバルトフリーをうたい、リチウムの代わりにナトリウムやカリウムを使うナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池が後継候補に挙がっています。これは応用化学科の駒場慎一先生が開発に取り組んでいます。また、マグネシウム二次電池は先端化学科の井出本康先生が積極的に研究されています。このように、材料から攻めるというアプローチが一つ。
リサイクルという観点なら、レアメタルなどの資源をいかに回収するか。これは資源環境学部になります。そして、リチウムイオン電池をいかに長く保たせるかとか、エネルギーを分散していかにうまく使っていくかといったバッテリーマネジメントとなると、電気電子情報工学科。さらに、それを細かくモニタリングするシステムや、バッテリーをいかにカーボンニュートラルな方向でビジネスするかといえば、経営学部や経営工学科。
カーボンニュートラルについてはほぼ全学部・全学科が該当するので、その中で自分はどういうアプローチからカーボンニュートラルに貢献していきたいかで、狙う学部・学科が違ってきます。
大学は研究室ごとに特色があり、やっていることが全然違うから、研究室のHPを見るほうがいいでしょう。「この研究室は面白そうだ、いいな」と思ったら、それがどの学科かを見る。要は、トップダウンではなくボトムアップ。研究室から学科、学科から学部という積み上げです。皆さんは大学を調べる時、大学の公式HPを見て、学部、学科へと落とし込むことが多いのですが、そうではなくて下から、研究室からたどっていく。そういった探し方が役に立つと思います。
甲田
ありがとうございます。

予定時間を延長しての研究室訪問。最後の写真撮影では、撮影の合間に四反田先生と訪問した皆さんで話が弾んでいたようです。素敵な時間になりました。

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