公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第15回
汗や尿で発電!
ウェアラブルバイオ燃料電池が切り拓く未来

第2章 開発が進むウェアラブルデバイス

2-1 和紙に印刷したウェアラブル電池

四反田
私たちは2006年ごろからバイオ燃料電池を研究していて、ウェアラブルに適した印刷型デバイスを開発しました。和紙に導電性カーボンと多孔質炭素電極をそれぞれスクリーン印刷し、その上に酵素を塗って、砂糖の溶液をかけたら発電する、人の汗から発電するといった研究を進めています。
2016年ぐらいに作ったのが、数ナノメートルという単位で孔(あな)のサイズをコントロールしたカーボンインクで電極を印刷したもので、汗で普通の電子機器が動かせます。この写真は、電極の上に汗を染み込ませる紙が貼ってあるのですが、軽く装着にも適しています。
 
2015~20年には「バイオ燃料電池を搭載したウェアラブルヘルスケアデバイスの創成」というテーマで国の戦略テーマ重点課題に採択され、体重計で有名なタニタ、筑波大学、理化学研究所、アイシン・コスモス研究所といろいろな研究をしました。今日はそのうちの「おむつ電池」と「乳酸電池」を紹介しましょう。

2-2 尿で発電するおむつ電池

四反田
おむつ電池はおそらく皆さん初めて聞く言葉だと思います。これは、バイオ燃料電池と無線発信器で構成されていて、尿糖を検出するとバイオ燃料電池が発電。電気は一時、無線発信器に蓄電され、一定量たまったらBluetoothでスマートフォンなどに信号を送ります。普通、センシングするには電池などが必要ですが、それを自分の体液で発電しながら(Self-powered)センシングすることができるのです。
用途として考えているのが、介護現場で寝たきりの要介護者に搭載し、尿が出たことを知らせるシステムです。何百人もの入所者がいて、そのうちの何十人かは寝たきりといった介護現場で、4時間に1回おむつを開けて排尿の有無を確認するのは、とても大変ですね。しかし、この電池を使えば、 発電したこと(排尿)がスマホで検知でき、介護負担を軽減できます。

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この写真はデモンストレーション用なので電池が上に載っていますが、おむつはトップシート、セカンドシート、ティッシュ、吸収剤、バックシートという多層構造なので、その間に挟み、肌に触れない形で搭載します。現在、ある企業と共同で小型化に取り組んでいますが、人工尿をかけると発電し、通信デバイスにチャージ(蓄電)されます。通信デバイスから受信したスマートフォンの光り方(光るタイミング)から、発電していること(排尿)とグルコース濃度(尿糖濃度)がわかります。これが、おむつ電池です。

2-3 汗でトレーニング管理

四反田
もう一つのウェアラブルデバイスが、人の汗に含まれる乳酸をエネルギーとする乳酸電池です。写真は国立スポーツ科学センターと一緒にやろうとしているプロジェクトで、アスリートがトレーニングしている時に、自身の運動パフォーマンスを調べる指標の一つとして、血中の乳酸値を測ります。乳酸がたまったから疲労しているということだけではなく、有酸素運動と無酸素運動の境となるLT(Lactate Threshold:血中乳酸濃度が急増する領域「乳酸閾値」)を測定することで、効果的なトレーニングプログラムを設計することができます。
 
トレーニングを続けると、より負荷をかけても乳酸がたまりにくい体になります。例えばマラソン選手の場合、LTぐらいでずっと走り続けるとパフォーマンスが良くなったという話があります。ただやり過ぎると故障してしまいますから、乳酸値で管理して適切な運動強度をモニタリングしなければいけない。ヘロヘロそうに見えても、外見からでは本当に疲れているかどうかはわからないのですが、血中乳酸値を測れば、明らかにオーバーワークだということが判断できます。
血中の乳酸濃度と汗に含まれる乳酸濃度には相関がありそうだということがわかってきたので、ウェアラブル乳酸電池を使えば、血中乳酸濃度を測るために痛い思いをして採血する必要がなくなるというメリットもあります。

マイナス極に乳酸を酸化する酵素・乳酸オキシダーゼ、プラス極に酸素を還元する酵素・ビルビリンオキシダーゼをそれぞれ固定しておく

2-4 期待されるさまざまな応用

四反田
さて、このようなバイオ燃料電池は、将来、どのようなところに応用できるのでしょうか?
今、紹介したような健康管理や介護をはじめ、スマホのバッテリーが切れた時などの緊急時の電源、運転中のストレスマーカーをモニタリングして事故を減らすスマートドライブなど、さまざまな用途が考えられます。
 
幅広い応用分野の中で、私たちが特に注目しているのが、熱中症のセンシングです。熱中症は重度になると、体から水分が失われ、体温も40℃を超えてしまう。要は自分の体をぐつぐつ煮ているような状態なわけです。タンパク質は煮立ってしまうと元に戻らなくなるので、その前で止めたい。
先ほど、通気性のいい和紙に印刷したセンサーの話をしましたが、布に熱転写印刷する方法も開発中です。イオンセンサーをアイロンプリントで衣服の上に付け、汗に含まれるナトリウムイオンを測定すれば、例えば1,000人、2,000人の作業員が非常に過酷な状況で働いている大きな建設現場などでの熱中症予防に役立つのではないかと考えています。
どうでしたか。わかりました?

Tシャツにプリント

生徒
(全員うなずく)
四反田
じゃあ、今度は研究室に行きましょう!

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