中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

再生医療をリードする4人の先生方とディスカッション

ディスカッション

海外の大学で学ぶ意義は

大和
フロアから紙でご質問をいくつかいただいたんでけすけど、その中で「これからは海外の大学進学も考えたほうがいいですか?」という質問がありました。大学に限らず留学等も含めて、この4人の中では留学したことがないのは私だけです。3人の先生方は留学経験がありますので、海外で学ぶことに関して、若い人たちにこれからのことという観点でコメントいただければと思います。
高橋
高橋
私は海外から日本を見るという経験がすごくよかったですね。娘がアメリカの大学に行っていいますが、アメリカの教育制度はすごくフレキシブルで、どこからでもリベンジできるんです。うちの娘の場合、英語があまりできませんから、短大みたいなところにまず行ってるんですけど、3年になったら4年制の大学に行けるし、まじめにがんばれば一流の大学に行けたりするので、すごくいい経験だと思います。
仲野
だいたい行った人はええって言うんで、僕もそう言うんですけど、ある意味、だんだん難しうなってるとは思います。行った方がいい理由はいくつもあって、1つはやはり人間、全然ちゃうところに身を置いてみるということがものすごく大事です。日本におったらあの子はこの高校出てこの大学出てと何となく分かるけど、それとはまったく違うところで自分を見直し、相対化できるという経験は非常に大きい。
ただ、どの時期に行くかが難しい。たとえば高校出てすぐというとアイデンティティの問題がある。僕自身は32ぐらいからヨーロッパへ行きました。ヨーロッパとアメリカどっちがいいかというと絶対ヨーロッパの方がいいです。何しろ遊びにいくところが多い(笑)。それと、いろんな文化を見られるという意味で、言葉の問題はちょっとありますが、非常におもしろい経験になりますね。
田畑
田畑
海外は絶対に行ってください。海外に行くと日本のいいとこと悪いところが分かります。いつ行くかというのは人によります。でも一般的には、やはりある程度日本で自分の骨格ができてから行ってください。そのほうがいいです。日本も知らずに海外へ行って何するんですか、ちゅう話ですね。さきほど仲野先生が言われたアイデンティティの問題です。アイデンティティというのは自分が何者やという話で、日本の良さが分かって、それから海外に出ることによって初めて、いい吸収ができるんです。
ただし、学校で先生から「君、明日からアメリカへ行ってくれ」と言われたときは「ちょっと考えさせてください」ではだめです。上の人が行けというのは、こいつの将来を見込んで見聞を広めて経験をさせてやろうということなんです。僕らのころは30人に言うと、「そら、やっとチャンス回ってきた」と30人中25人がすぐに手をあげましたが、今の方は30人おったら29人までは「ちょっと考えさせてください」と答えます。それはもったいない。
中国とかインドネシア、ベトナムなどに行って講演すると、学生たちは片言の英語でしゃべってきます。「先生、ぼくの名前覚えといてください。5年後に行きますから絶対覚えといてください」。でも、日本の学生はノーベル賞級の先生が来ていても、講演を聞いていても「眠たいな、早く終わらへんかな」とすぐ帰ってしまいます。これではダメだと思います。日本人は海外のことを知らなすぎます。海外に出ることはこれからも絶対に必要なことです。だからもっと出ていってください。
仲野
ちょっといらんこといいますけど、必要かどうかとか、僕はそういう捉え方はあかんのやないかと思います。留学した方がいいですか、どうですか、といったときに、その背後に、留学した方が得ですか?損ですか?という考え方があるような気がするんですよ。損得じゃなくて、もっとおおらかに構えろと言いたいですね。損得で言うたら、損とちゃうかなという気がしますけど、もうちょっと広く見て、1つの生き方として、いっぺん留学してみたらええんちゃうかという、僕のきわめていいかげんな発想での提案なんですけどね。
田畑
損得や、行ったら洋行帰りですごくハクがつくという話じゃなくてね、行ってどういうふうに物事が流れているか見てみるということは、ものすごくいいことなんですよ。1週間海外旅行に行くのと、そこに居をかまえて、保険の契約して、車の免許とってというのは全然違ってきます。
高橋
損か得かというより、私がアメリカへ行ったときは、とにかく新しいものを知りたいというだけですよね。だから、そういうのがいやな人は別に行かなくてもいいし、やっぱり好奇心ですね。
田畑
僕の場合、留学したいと言ったら先生から行くなと言われました。お前に抜けられたら困るから、というのが正直なところやったと思いますけど、それでも一生懸命頼んで、行くことが決まったときに言われたのは、留学の意味は3つあるということでした。
1つは語学。アメリカとかヨーロッパへ行ったら英語をしゃべらなしょうがないでしょ。だから身につくよね。もう1つは人脈。もう1つは新しいこと。やはりアメリカの方が進んでいるところがあるんですね。その3つのために行くんやと。
でも今は僕らがやっていた分野というのはけっこう進歩してきたし、語学もそれほど困らなくなりましたから、一番大切なことと言ったら人脈なんですね。日本は極東なんです。ほんとにちっちゃな国です。日本ってどこにあるの?という感じですよ。アメリカに行くと全世界から来るわけですから、あっという間に友だちができて、ネットワークができます。
大和
僕自身は行ってないので、行ったほうがいいとも悪いとも言える立場じゃないとは思いますが、けっこう行ってない人もいっぱいいますよ。行って苦労した人もいっぱいいて、いろんな人の話を聞くのがいいと思います。正直言ってこの3人はもう大成功されている3人なので、かなり強力にバイアスがかかっていると思わないと、それこそ損得じゃなくて大変な目に遭うと思います。もっともそれでも僕は、行ってほしいと思っていますが。
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