中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

再生医療をリードする4人の先生方とディスカッション

常に好奇心全開で、研究に遊びに全力投球 大阪大学 大学院 医学系研究科 病理学 幹細胞病理学 大阪大学 大学院 細胞機能研究科 時空生物学 病院解析学  仲野徹 教授

i健全な好奇心を大切に

仲野徹 教授

きょう集まったほかの先生方は非常に役に立つ研究をしておられますが、僕の場合、役に立たない研究をめざしているというのが特徴です。よく「何か役に立つんですか?」と聞かれますが、基礎研究ですからすぐ成果には結びつきません。研究する上で一番大事なのは健全な好奇心です。血液内科の医者として白血病の患者さんを見ていて、血液細胞などいろいろな細胞がどのようにできていくのかが知りたくなって研究の道に進みました。

大阪でもコテコテの下町で生まれまして、高校時代は本が好きで、カフカの『変身』なども読みましたけど、一番影響を受けたのは庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』。この本の内容は驚くほどよく覚えていて、人生で学んだことはほとんどこの本からなんじゃないかと思うほどです。よう映画も観に行っていて、これも役に立つかといったらだいたい役に立たへんのです。でも今、大学生相手にもよく言うんですけども、「その年、その年で、感じ方とか考え方はすごく変わるので、若いときは、勉強しながらもいろんなことをしておくのが一番ええんじゃないか」と思ってます。

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エピジェネティック制御とは

今やっている研究のテーマはエピジェネティック制御です。たとえば、ラバというのは雄のロバと雌のウマを掛け合わせたものです。ところが、お父さんとお母さんを入れ換えて雄のウマと雌のロバを掛け合わせるとケッテイという違う動物になります。雄のトラと雌のライオンを掛け合わせるとタイゴン。逆にお父さんがライオンでお母さんがトラにするとライガーで、これまた違う。何が言いたいかというと、ラバやケッテイの場合は遺伝子の半分がウマで半分はロバです。それでもお父さんとお母さんのどっちの遺伝子がきたかということで違う動物ができてくる。ということは遺伝子のATGCだけで決まっているだけではありませんよということです。それがエピジェネティックです。
精子と卵子が受精したら、当然お父さん由来とお母さん由来の遺伝子があって子どもができてきます。ところが、精子由来の核を抜いて、お母さん由来の核を2つにしてやる。あるいは逆に、お父さん由来の核を2つにしてやる。こうすると遺伝子は正常にあるのに、正常に発生してきません。このことからもATGCの遺伝子だけで決まっているのではないことが分かります。どの細胞も同じ遺伝情報を持っているのに、分化の過程で違う種類の細胞になるのはなぜかというと、使われる遺伝子と使われない遺伝子にある種の目印がついているからで、それがエピジェティック制御です。
エピジェティック制御には2種類あります。一つはATGCのC(シトシン)にメチル基がくっつく場合、もう1つはDNAはヒストンというタンパク質にくるくるくると巻きついているんですけど、このヒストンの側鎖が修飾を受けることによってATGCの働きがちょっと変わる場合です。
受精した段階は精子も卵子ももう分化した細胞で、それぞれがDNAのメチル化とかヒストンの修飾を受けています。ところが受精したあと、そこから全部の細胞ができてくるためには、ガラガラポンでまっさらな細胞にならなあかんわけです。そのときに、メチル化を受けていたのがいったんご破算になる。これは非常に大事な現象で、こういった仕組みを研究しています。

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遊びも一生懸命

ここから遊びの話になるんですが、僕は仕事がどちらかというと嫌いでして、仕事はミニマムにしてあとは遊びに行くという気持ちが強くて、最近5年間でも、キリマンジャロに登ったり、イラン、中国、ブータンといろいろ行っていて、去年はモンゴルの草原を自転車で走ったし、最近はタスマニア島を1周しました。みんなからムッチャ遊んでいると言われているんですけど、実際、遊んでます。

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でも、仕事もちゃんとしておりまして、去年運良く『ネイチャー』に論文が掲載されて、みんなから「おめでとうございます」の言葉とともに、「先生、ホンマは研究してたんですね」とすごく失礼なコメントをたくさんいただいたりしておりますが、こんなふうに好奇心を満たしながら、一生懸命やっています。

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