中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

再生医療をリードする4人の先生方とディスカッション

サイボーグを創りたいと3つの博士号をゲット 京都大学 再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体材料学分野 田畑泰彦教授

工学・医学・薬学を学ぶ

田畑泰彦教授

私は高校のときにサイボーグをつくりたいという夢を描いてこの分野に飛び込みました。みなさん、自分の体をしげしげと見てください。柔らかいですよね。これは何でできているのかと考えたんですね。そのとき、体はきっとゴムか人工の皮革のようなものでできている、だとしたらゴムとか人工の皮革ができれば、それを使った再生医療で病気の人を治せるのではないかと思ったわけです。
ゴム、人工皮革とは何かを辞書で調べると「高分子材料」と書いてあります。そこで高分子の知識が必要だというわけで京都大学の工学部に行き、体の中で溶けるようなプラスチックの研究をしました。それを使って再生医療をするには医学の知識が必要なので医学部へも行きました。薬の知識も必要なので薬学部へと、計3つの博士号を取得しました。
父が商売をやっていた影響もあって、研究したものを世の中に還元することが大切だと考えていました。となると特許とかビジネスのことも知らなければいけません。特許、ビジネスなんかを扱う法学部、経済学部も卒業する? スーパーマンではないので、そんなにたくさんの学部を出ることはできません。でも、いろんな人とネットワークをつくってやっていけばいいと気づきました。

医療材料やDDSの開発では材料の知識が欠かせない

医学だけでなく、工学や薬学の知識がなぜ必要かというと、たとえば血管が詰まったとき、プラスチック製のチューブで人工血管をつくります。肝臓が悪い人、腎臓が悪い人にはプラスチック製の人工肝臓や腎臓をつくることができます。人工心臓の素材はウレタンゴムです。こうした医療材料は、医学部を出た人だけではできません。プラスチックを知っている人が参加して初めてつくれるのです。
もう1つの例はドラックデリバリーシステムです。これは、薬と材料を組み合わせることによって薬の作用を上げていくものですが、たとえば、前立腺がんの治療にあたって、毎日飲まなければならない薬があっても飲むのを忘れることがありますね。それでは困るので徐々に分解吸収されるプラスチックの中に前立腺がんの薬を入れておきます。体内で薬がジワジワと溶けていくので、毎日飲む必要がなくなります。1週間に1回飮めば治療効果があらわれる、これがドラッグデリバリーシステムです。プラスチックなど材料のことを知っていて薬のことを知っていると、こういう組み合わせが可能になるわけです。

薬を徐々に放出(除放化)

家と食べ物によって細胞を元気にするのが再生医療

今年、第1回テルモ国際賞を受賞したバイオマテリアルの創始者のロバート・ランガー博士は私のお師匠さんです。私はアメリカに25年前に行き、再生医療のエポックメーキングな現場を目の当たりにしました。
たとえば再生医療で耳がない患者さんに耳をつくるという場合、患者さんの軟骨の細胞をとってきていくら増やしても、そのままでは耳にはなりません。分解吸収性のプラスチックで耳の形をつくり、そこで患者さんの細胞を増やしていって、プラスチックがなくなると人間の耳の形ができるわけです。
ここで重要なのは、最終的に治る力というのは細胞の力だということです。細胞が弱っているときに何が必要かというと、1つは疲れたときに帰って寝る家であり、もう1つは食べ物です。家や食べ物をうまく与えてやると細胞は体の中で元気になって治ってくるのです。そこでまず分解吸収性のプラスチックを使って細胞の家をつくります。そしてドラッグデリバリーシステムを使ってエサをうまく材料と組み合わせて工夫して与えます。こうした家や食べ物によって細胞を元気づけて病気を治すのが再生治療で、ここで大事になってくるのが材料を活用した再生医療、生体組織工学というわけです。

からだは、細胞と周辺環境からできている。周辺環境=細胞の家(足場)と細胞の食べ物(タンパク)⇒この周辺環境が細胞の状態(増殖、分化)に影響を与える

からだは、細胞と周辺環境からできている。
周辺環境=細胞の家(足場)と細胞の食べ物(タンパク)
⇒この周辺環境が細胞の状態(増殖、分化)に影響を与える

高校時代のネットワークを大切に

最後に人脈の話を。人間というのは自分1人ではできないので、助けてもらわなあかんですね。そのためのネットワークというのは、大人になってからつくった方がいいと思うかもしれませんが、それは違う。高校時代や大学時代から作っていくネットワークがとても大事であり、世の中に出たときにもとても役に立ちます。
もう一つ私がみなさんに申し上げたいのは、何でもやりたいことは必ずかなうということです。これはだめやと思ったらだめなんです。自分の夢をかなえるため、最後まで決して諦めずに努力していってほしいと思います。

PAGE TOPへ