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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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図形文字を覚えたチンパンジー・アイ

研究施設を見せていただいてありがとうございます。クレオのクーちゃんが先生たちを信頼しているのがよく分かりました。12人のチンパンジーが住んでいるとのことですが、きっとそれぞれのチンパンジーに個性があるんでしょうね。それだけに実験は大変そうだけど、楽しそう!

そうなんです。みんなそれぞれ性格が違う。クーちゃんはせっかちな方ですね。

長い歴史があるから、いろいろな研究が行われてきたと思います。その中でも重要な研究を教えてください。

京大霊長類研究所にやってきたアイと名づけられた一人の女の子のチンパンジーといっしょに、「アイ・プロジェクト」と名づけられた画期的な研究が1978年に始まりました。

あっ、私、アイちゃんっていうチンパンジーのことを聞いたことがある!

アイの研究に深く関わってこられたのが松沢哲郎先生(現京都大学高等研究院副院長/特別教授)です。松沢先生たちは、「チンパンジーにはこの世界はどのように見えているのか」について知りたいと考え、そのための手段として図形文字を考案したのです。

それはどんなものなのかなあ。

図形文字は○や□に直線や曲線を組み合わせたもので、たとえば、ひし形に横棒なら「赤」、正方形の左上から右下に対角線を引いたら「歯ブラシ」などといった具合に、9つのパーツの組み合わせによって、赤、青、黄などの色や、積み木、箱、歯ブラシといった実験でよく使うモノを示していて、アイはこれらの図形とそれぞれの名前を覚えることに成功しました。アイは「ことばを覚えたチンパンジー」として有名になったんですよ。

松沢哲郎教授の考案した図形文字の一例

アイはさらに、色を表す漢字も覚えることができました。白色を見ると「白」、緑色を見ると「緑」という字を正しく選び、その逆に「桃」という字を見て桃色を選ぶこともできたんですよ。

アイちゃんは、色の名前やモノの名前を単独で覚えただけですか。文法を覚えることはできたんでしょうか。

アイは色やモノと数字を覚えただけでなく、たとえば「1本の赤い鉛筆」と表現できるようになりました。その際、こちらが指示しないのに、必ず「色かモノを先に記述し、数字を最後に記述する」ようになったのです。これはアイの中で「文法」が成立しはじめたことを示す出来事でした。その後、新しい組み合わせ、たとえば数が多くなっても色が変わっても、アイはアイの文法に従って、色やモノのあとに数字という順序で組み合わせるようになったんです。