公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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彼らが生きているリアルなフィールドに目を向けたい

私たちヒトとチンパンジーとでゲノムを比較すると、それほど差がないと聞いたことがあります。

そうですね、ヒトとチンパンジーのゲノムを比較すると、98%以上が同じだとはよく言われます。系統発生的にみれば確かにチンパンジーとヒトは近い関係にあるので、ゲノムにあまり差がないのはうなずけます。でもたとえほとんどが同じ遺伝子であっても、チンパンジーとヒトでは適応してきた生態環境がかなり異なるために、遺伝子のスイッチがどんなタイミングでオンになるかなどが大きく違ってくるのです。
私の研究では、遺伝子を分析的に調べるより、ヒトとチンパンジーの認知の違いを、それぞれの本来の暮らしに目を向けて考えてみたいな。

ヒトとチンパンジーの認知の違いを、
それぞれの本来の暮らしから考える

チンパンジーはもともと、森の中で暮らしている動物ですね。

先ほど、チンパンジーの短期記憶はヒトよりも優れているという話をしましたね。チンパンジーは森の中で生活していて、目の前を獲物や敵が通り過ぎるとき、それが何かをそれこそ一瞬で記憶しておかないと食料にもありつけないし、敵に襲われてしまう。だからいつも周りを高速でスキャンして即断即決しているのではないか。そのために短期記憶が非常に発達したのだと思います。一方ヒトは、サバンナに下りてきてそういう危険性が薄れ、そのかわり、「いま敵がいるよ」「獲物が歩いているよ」などと言葉で伝える能力を獲得したのでしょう。

とても面白い話ですね。生き物の住む環境によって、外界の認識の仕方や情報処理システムをはじめ、さまざまな面に差が出てくるわけですね。

だからこそ、私たちは研究室の中でだけでなく、彼らが生息している森での彼らの生態を研究することによって、チンパンジーがどのように世界を認識しているのか、なぜそのように認識しているのかを知りたいと考えています。