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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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研究の進展に貢献したタッチパネルとアイ・トラッカー

ヒトの脳が世界をどのように認識しているのかを知るために、脳の神経活動で起きる電気磁気を捉える「fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)」が役に立っていると習ったことがあります。チンパンジーの認知について探るために。fMRIは役に立つのですか。

いや、fMRIは頭部を固定し、巨大なスキャナーの中に入っていかなければなりません。チンパンジーは到底じっとしていてくれないから、無理ですね。

じゃぁ、頭につける脳波計はどうですか。

それもこれまでつけてくれたのは一人だけでした。近赤外線で脳血流の変化から脳活動を調べるNIRS(ニルス:光トポグラフィ装置)が使えないか検討したこともあったのですが、ちょっと動くだけでノイズが出てくるので計測は難しいのです。

そうなんですか。これまでどんなツールが役に立ったのですか。

まずタッチパネルですね。30年ほど前に私たちの研究室は世界で初めてタッチパネルをチンパンジーの研究に導入しました。それまではボタンを押したり、レバーを引いたり、本来彼らが行っていない行動をさせていたのですが、タッチパネルで行うのは、見えているものに指で触れるという、彼らの日常の行動の延長線上にある行為なので、スムーズに実験に参加してくれました。モニタに映し出す映像を、コンピュータで簡単にコントロールできる点も大きなメリットです。

いろんな課題が出せるんですか?

最初にみんなに見てもらった「見本合わせ」や、たくさん並べた写真の中からひとつだけ違ったものを選ばせる「間違い探し」とか、ヒトがどっちに視線を向けているかを選ばせたり、逆さになった写真が同じものかを判断させたりと、工夫次第でいろいろなテーマの研究ができますよ。彼らを見ているとアイデアが次々にわいてくるし、論文を読んでいても、ここをもっと知りたい!と思うと、すぐに研究が始められます。2017年8月に発表した、「チンパンジーはじゃんけんを学習できるか」という実験も、タッチパネルを使ったものです。

タッチパネル以外にも、画期的なツールってありますか。

チンパンジーがどこを見ているかという視線の移動を、チンパンジーを拘束することなしに調べることができる「アイ・トラッカー」です。

実験ブースの中からチンパンジーがモニタを見ると、モニターの下にあるアイ・トラッカーによって、目の動きが測定できる

ゴーグルタイプのアイ・トラッカーを装着するチンパンジーのパン

コンパクトで携帯性に優れたスクリーンベースのアイ・トラッカーや、ゴーグルタイプのものなど、用途にあわせてさまざまなものがあります。ゴーグルタイプは有線ではありますが、自由に動いている中でチンパンジーがいまどこを見ているかをリアルタイムで記録できる点がいいですね。

ゴーグルタイプはチンパンジーの頭にしっかり固定されているんですか。

一応固定されているけれど、チンパンジーにストレスをかけないようにきつくは留めていない。だから着けているのが気に入らなければ、自分で取り外すことができるので、高価な装置なのにポイと投げられたり壊されたりする危険性もあるわけです。だから、がまん強いチンパンジーにしか使えないですね(笑)。

アイ・トラッカーは、視線に注目してこころの発達を探ろうという先生の研究にはもってこいの技術なんですね!

チンパンジーはジャンケンを覚えられるか

ジャンケンは「紙」が「石」に勝ち、「石」が「ハサミ」に勝ち、「ハサミ」が「紙」に勝つ「循環関係」で成り立っている。優劣が直線的ではなく、非直線的な三角関係で決まる。こうした関係はより複雑なヒト社会の中に見られ、ヒトはそれを理解することができる。チンパンジーにもこうした複雑な関係を理解できるのかどうかを知るために、京大霊長類研究所では北京大学の協力のもと、チンパンジーがジャンケンを理解できるかどうか研究を行った。
チンパンジーの手で作った「グー」「チョキ」「パー」の写真を編集しておき、画面に「グーとチョキ」「チョキとパー」「パーとグー」のいずれかのペアを呈示。各ペアの勝つ方を選べばチャイムが鳴ってご褒美がもらえる仕組み。その結果、チンパンジーはジャンケンのルールを覚えることができることが分かり、より複雑な循環関係を理解する能力があることが分かった。ヒトの子どもの場合、ジャンケンを覚えられるのは4歳になってからとされる。

ジャンケンの課題に取り組んでいる動画を見てみよう

→より詳しい情報はこちらから