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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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チンパンジー、イルカ、ウマの認知を比較

先生はチンパンジーのほかにイルカやウマについても研究されているとのことですが、今のお話の、環境が違えば認知の仕方も違うということに関係してくるんですか。

ええ、ヒトもチンパンジーもウマもイルカも、哺乳類という大きな分類に入ります。その数約6000種といわれていて、それぞれ森やサバンナ、海など多様な環境に適応して生きてきたんですね。哺乳類が適応した環境の多様性が、生き物の認知の多様性をもたらすのではないかと考えています。そんなことから12年前にイルカを、4年前にウマを研究対象にすることにしました。

どんな研究をしたのですか。

チンパンジーもウマもイルカも適応してきた環境が違い、進化の過程で目の形態が違ってきた。チンパンジーは、樹上生活からスタートし複雑な3次元環境に適応した結果、目が顔と平行について立体視ができるようになった。ウマはサバンナのように開けた場所で生きていくために、敵である捕食者を見つけやすいように目は側頭部について、なんと350度もの非常に広い視野を持っています。イルカは水中で生きていくために、視覚よりも超音波を発してモノの形や距離などを認識する「エコーロケーション」を身につけました。
このように視覚機能がそれぞれ異なっている野生動物の知覚や認知は、はたしてどのようになっているのかを知りたいと考えたんです。
そこで、チンパンジー、イルカ、ウマそれぞれが図形をどのように見ているのかを比べて分析しました。

どんな結果だったのかなぁ?

生態環境は違っているのに、形の知覚という面では類似していることが分かったのです。特にチンパンジーとイルカは、陸と海でまったく異なる環境で生活しているのに、非常に似ていることが興味深かった。ではなぜそうなったのかについては、さらにこれから研究していかなければなりません。

〇や×などのシンプルな図形を用意し、ペアにして2つの図形が同じものかどうかを答えさせた。下団は誤答率をもとに分析したもので、図形が近いほどよく間違える(つまり、似て見える)。

チンパンジー、ウマ、イルカの知覚を比較して研究する意味はどんなところにあるのですか。

「人のこころはどのように、なぜ進化してきたのか」というテーマを追いかけて、チンパンジーとヒトの認知機能の研究を30数年間続けてきたのですが、分からないことだらけでした。「こころは環境適応の結果」ですから、霊長類とは別の進化をしてきたほかの動物の知覚についても研究することで「こころの発生」の手がかりをつかみたいと考えたわけです。このほかにヤギやリクガメなどの認知機能の研究もしています。どれもヒトやチンパンジーでは味わえない意外な面白さと発見があって、それをまたヒトやチンパンジーの認知機能の研究にフィードバックしているんです。