公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第14回
キリンの首がよく動くのはなぜ?
生き物の身体の形と機能に潜む“意味”を探究

第3章 キリンの研究にたどりつくまで

金子
実習助手
最初のキリンの解剖は大学1年生の12月とのことでした。学部を選択していない段階でキリンの解剖にこぎ着けるには相当な行動力があったと拝察しますが、大学入学、あるいはそれ以前から考えていらしたのですか。
編集
そうですね、郡司先生はいつ頃から研究者を目指していたのか、そのあたりも含めお話しいただければ。
●生き物に関わる仕事がしたい
郡司
研究者になりたいと思ったことは、あまりありません。大学入学後、「キリンの研究をずっとしていたい」という気持ちはあったのですが、研究者になりたいという気持ちはなく、それは高校時代もそうです。周りの研究者と話しても、研究者になりたいという強い思いを持っていた人は、実のところ、あまり多くないように感じます。
私がそう感じる理由の1つは、私は研究をして生きていきたいのであり、それは研究者でなくても達成されるかもしれない。研究者はあくまで職業の1つで、それ自体が目的になるのは少し違うのではないかなと。「生き物についてもっと詳しく知りたい、それをずっとやって生きていきたい」と思う中で到達したのが研究者なだけであって、研究者という職業にどうしても就きたいという気持ちはなかったと思います。
皆さんの「こういう仕事に憧れる」という気持ちは大事ですが、もっと大事なのは「どうやって生きていきたいか」。私は大学生になったとき、そこを他の人よりも強く掘り下げたのかもしれません。生き物がすごく好きなので、生涯それに関わる仕事ができれば幸せと、非常に短絡的な思考かもしれませんが、「一番好きなキリンに一生関わって生きていく」という結論になり、いまに至ります。
●学部1年、質問攻めの日々
郡司
大学入学後、遠藤先生との出会いが、ほぼ解剖学と出合ったタイミングです。遠藤先生のことは知っていたのですが、先生に師事を仰ぎたいと思って東大に行ったわけではありません。というか、私が大学受験したとき、遠藤先生は京都大学にいらして、私の入学と同じ年に東大に移ってこられました。なので、解剖学を学ぶために大学に入ったわけではありません。
ただ、動物に関わる仕事がしたいという気持ちはかなり強く、せっかく大学に入ったので研究というものを知りたいと思っていました。しかし、それは解剖学という形ではなかった。私が最初にしたことは、とにかくいろいろな先生に「どうしたらキリンの研究ができますか」と質問攻めにしたことです。道場破りではありませんが、いろいろな研究室を訪問し、そこの学生さんや研究者の方々にたくさん教えていただきました。
最初に出入りしていたのは、いわゆる動物行動学の研究室です。岩手県にあった東大の海洋研究所に野生生物に記録計をつけて行動を研究する先生がいらしたので、大学1年の夏、1カ月ぐらい滞在させていただきました。ウミガメやペンギン、海鳥の研究をしている方々のお手伝いというか、下働きをしながら、そもそも研究とは何なのか、どういう道があるのかを教えていただきました。こうして、いろいろな研究室を訪ね歩く中で遠藤先生と出会い、すぐにキリンの解剖に立ち会う機会を与えていただきました。そこで解剖学がすごく自分の性格にフィットしていて面白いと衝撃を受け、この道に入っていったというわけです。
●学部4年、理解ある先生に恵まれて
郡司
大学4年になると研究室に所属し、卒業研究に取り組むことになります。遠藤先生の研究室は大学院生からしか入れなかったので、農学部の鳥の研究をしている先生のところに行き、「私は大学院でキリンの研究をすることが決まっているので、それを踏まえて卒業研究をやりたい」というむちゃな相談をしました。その先生は人間としても研究者としても、私の研究人生で最もいい出会いだったといえる素晴らしい方でした。「そこまで自分のやりたいことがはっきりしているのなら、研究とはそもそも何なのか、しっかり学べるようサポートしてあげましょう」と言ってくださり、研究室の先輩と一緒に鳥の首の研究をすることになりました。
具体的には、カイツブリという鳥の研究です。春になると子どもを背中に乗せて子育てをする、とてもかわいい鳥です。カイツブリは水に潜る鳥で、潜水時に首を振る。ハトやニワトリが歩くときにする首振り運動を潜水時にもしている。ハトやニワトリの首振り行動はたくさん研究されているのですが、潜水時にも首を振る鳥がいることはほとんど知られていませんでした。なので、そもそもどのように首を動かしているのか、どういう働きがあるのか。ハトの首振りと似たような働きを持っているのか、それとも全然違うのかなど、鳥の首振り行動を卒業研究にしました。
●無駄なものは何一つなし
郡司
これまでの研究生活は決して真っ直ぐな一本道ではなく、いろいろな先生方とお話をし、いろいろなことにチャレンジしてきました。そこで得た経験や人脈、学びを「キリンの研究がしたい」という気持ちに集約させ、いまに至っています。人間関係も人脈も、知識も経験も、無駄なものは何一つありません。人間は一直線にと思っても、そうそう真っ直ぐには行けないので、紆余曲折しながら、そこで得た学びを自分の人生に生かしていった結果、一本の道になっていくのかなと感じています。

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