公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第14回
キリンの首がよく動くのはなぜ?
生き物の身体の形と機能に潜む“意味”を探究

第4章 将来の夢とアドバイス

●大学に入ったらどう過ごすべき?
前田
まだやりたいことが決まっていなくて、大学に行くことだけが目標になっているのですが、大学に入った後どうやって過ごせばいいですか。
郡司
私も前田さんと同じで、大学入学後のことは全然イメージできていませんでした。大学に行くことが具体的にイメージできる唯一の未来……、そう感じていました。
じゃあ、大学に行くために勉強していたかというと、そこはちょっと違って、私は学ぶことがすごく楽しいし、面白いなと思っていました。物理でも生物でも化学でも何でもいいのですが、授業で学んだことがきっかけとなり、意識していなかったことが急に実感をもって理解できる瞬間がありました。同じようなことを、皆さんもきっと経験しているのではないかと思います。
この先いろいろなことを経験していく中で、「考えたこともなかったけど、これをやっているとめちゃくちゃテンションが上がる」という瞬間がきっときます。それに気づいたら、そこを突き詰めていけばいい。将来の夢を持たなければとか、未来のことを具体的に考えなければということではないと思っていて、「これをやっているとワクワクする」「こういう話に興味を引かれる」という、自分の心の高揚感を感じ取れるようになればいいのではないかなと思います。
●微生物を食品開発に生かしたいけど……
坂入
理科研究部に入ってから、いい意味でも悪い意味でも、微生物が人に与える影響に興味を持つようになりました。将来は、それを食品開発に生かしていきたいと思っています。
郡司
いいですね。微生物のような生態系の土台を支えている生き物は、あらゆるものと関わりを持っているし、そういう意味でさまざまな可能性を秘めていると感じます。また、食べ物は私たちが生きていく上で根幹をなすものなので、食品開発に生かしたいという気持ちはすごくいい考えだと思います。ただ、食品開発とは違う視点もたくさんあるはずなので、もっと微生物の可能性を信じてあげるというか、いろいろな切り口で微生物を眺めてあげてはどうでしょう。見方が一方向だと、じっくり見ているようでも見えていない側面が出てきます。いろいろな方向から眺め、「あ、そんな一面もあったのね!」といった新しい発見をすると、より微生物が好きになり、微生物愛が深まっていくのではないかと思います。
●具体的な将来目標はあったほうがいい?
柏崎
将来の目標が決まっていません。具体的な目標をつくらないと努力できないのか、いまから目標を決めたほうがいいのかと思ったりするのですが。
郡司
その人のパーソナリティーによるので、一概にどっちがいいとは言えないと思います。私が高校生のときから掲げていた目標は何かというと、「楽しくハッピーに生き続ける」という、ただその1点です。それが一番大事なことだろうと思っていて、他の誰かが「これが幸せな生き方だよ」と言っても、自分が幸せでなければ、その道を選んでも何の意味もない。自分が幸せ、自分が楽しいと思えることをきちんと理解してあげることがスタート地点だと思います。
あと、楽しいと思えることは、多くの場合、ちゃんと頑張れると思います。勉強という形でなくても、本が好きだったら本をたくさん読む。音楽が好きで楽器を演奏するとか、面白いな、楽しいなと思えることなら、人はたいてい頑張れる。目標を定めないと頑張れないのは、そもそも楽しくないからです。楽しいことだけやればいいというわけではないのですが、楽しめるというのはすべてのベースになるので、そう思えることに一生懸命に取り組むといいかなと思います。
なるほど、目標より楽しいと思えることを見つけるのが先!

柏崎 愛さん(高校2年)

●研究職に就くため、いまやるべきことは?
山田
具体的に何がやりたいか決まっていないのですが、将来は部活での経験を生かし、人体に役立つ研究に関わる仕事がしたいと思っています。いまからこういう努力をしたほうがいいとか、心がけておいたほうがいいことはありますか。
郡司
いろいろなことに興味を持ち、一見関係なさそうなことにも好奇心を持って学んでみる姿勢が大事だと思います。
もう一つは、研究活動も人間の営みなので、コミュニケーション能力がすごく大事になってきます。それは、ただの仲のいい友達関係とか、けんかをしないという能力とはまったく違います。同じような興味や知識を持っている人たちとしっかり話ができる、議論できることがすごく大事です。もちろん日本人同士だけでなく、海外の人も対象になるので、例えば英語でコミュニケーションをする、英語がうまくなくても何か話そうという気概を持つこと。そういうことが大事かなと思います。
それから、役に立つことをしたいという気持ちはとても素晴らしく、大事にしてほしいのですが、実は一人一人ができることはそれほど大きなことではなく、当然、人類を救うような活動を自分一人でするのは難しい。振り返ってみると、この人の研究がものすごく役立ったということはあっても、日々の活動は一見、地味に見えるようなことの繰り返しだったりします。
あと、役に立つということについては、実は危うい面もあるかなと感じています。その危うさとは、役に立たないものは価値がないという考え方で、こういった方向には陥らないでほしい。即座に役に立たなそうなことでも、振り返ってみると役に立ったことは、研究だけでなく、人生でもものすごくたくさんあります。私は高校生のときに「家庭科なんて習ったってしょうもない」と思っていましたが、一人暮らしをして料理をするようになって、非常に科学的な意味があるとわかりました。野菜を切るにも味が染み込みやすい形、煮崩れしない形というのがちゃんとあって、超大事だったなと。役に立たなそうなことも長い時間のスケールで見ると実は役に立つこともあるので、役に立たなそうなことでもやってみようという気持ちも大事にしてもらいたいと思います。
「役に立つ」って、思っているほど単純じゃないんですね。

山田すずなさん(高校1年)

一同
ありがとうございました。
郡司
コロナが落ち着いて直接会いたかったなと思ってくださる方がいたら、ぜひ次は対面で遊びにきてください。大いに歓迎します。皆さんには、これからも元気に楽しくお過ごしいただければと思います。ありがとうございました。

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