公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第16回
昆虫は季節の移り変わりを
どうやって知るんだろう?

第2章 ナンキョクユスリカを顕微鏡で見る

後藤
ユスリカを見てみようか。ナンキョクユスリカは寒いのが好きなので、氷水の中に入れて観察します。南極にいること自体すごいのですが、見た目は普通のユスリカです。
アカムシユスリカはヘモグロビンを持っているので赤いけど、ナンキョクユスリカは赤くない。全身が紫になっていますよね。氷水は非常に冷たいので普通の昆虫は麻痺して動けないけど、低温に適応している生き物なので、ゆったりムニャーと動いています。逆に、暑いと死んじゃう。
生徒
どれぐらいの暑さで死んでしまうのですか。
後藤
例えば室温25℃に24時間以上置いておくと死んでしまうね。彼らは地表に棲んでいて、南極半島の冬だと-10℃、夏だと0~4℃ぐらいかな。
生徒
捕まえるのが難しくなかったですか?
後藤
ナンキョクユスリカはあちこちにいて、捕まえるのは結構らくちん。南極は行くまでが大変だけどね。
生徒
飼育は?
後藤
彼らは成虫になるまでに2年かかる。当初は全然飼育できず苦しんだのですが、10年ぐらいかけてようやく飼育できるようになりました。いまのは南極から捕ってきたものの3世代目かな。
生徒
何を食べるんですか。
後藤
もともとは川海苔や土の中の有機物を食べていますが、いまは牛乳とクロレラなどが入った魚の餌をやっています。あまり栄養のある餌を与えると、それがカビて、そのカビにすぐやられてしまう。夏のカビが問題だったんだけど、ようやく飼えるようになりました。

顕微鏡をカメラでのぞいた画像

参考:アカムシユスリカ

生徒
体の中に2本、何か入っています。何ですか?
後藤
そうそう、よく見てるね。何色?
生徒
黒い。
後藤
そう、黒っぽい。真ん中にあるのは消化管です。周りにあるのが脂肪体で、ヒトの肝臓にあたるところ。脂肪体では免疫のタンパク質をつくったり、エネルギーを貯蔵しています。
生徒
人間の内臓のように分かれているんですか。
後藤
脂肪体は1種類としてあって、もちろん消化管はズドーンとあるし、私たちの腎臓にあたるマルピーギ管はもっと細いヒモ状になっています。
生徒
脂肪体の周りに水分というか、何かあるんですか。
後藤
昆虫は開放血管系を持っていて、背中の部分に心臓のような背脈管という太い血管があるけれど、それは途中で終わっていて、血液が体の中に漏れている。体の中は空っぽではなく、血液とリンパ液が合わさった血リンパ液で満たされています。そこに脂肪体やほかの臓器があります。
昆虫は進化の古い過程で分かれた生き物なので、私たちと体のつくりはかなり違いますが、やろうとしていることは同じで、酸素を取り込んで二酸化炭素を出している。エネルギーをつくり出す仕組みは、基本的には一緒です。

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