公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第16回
昆虫は季節の移り変わりを
どうやって知るんだろう?

第5章 質疑応答、アドバイス

■自分の興味を生かせる学部はどこ?

道下
どこに行けば、昆虫や動物など、いろいろな種類の神経系が学べるのでしょうか。
後藤
神経の研究は全国の大学で研究がされているけれども、研究者はみんなオリジナリティーを求めているので、同じことを研究している場所は多分ないと思うんです。自分がやりたいことがはっきりしていれば、ホームページなどで調べてみるといいね。 例えば昆虫の神経系は、ヒトなどの脊椎動物や哺乳類と比べると非常に単純だけど、とても複雑なことをやっています。シンプルなのに、これだけできるってどういうこと?それを知りたくて昆虫や軟体動物を対象にするので、何をやりたいかによって変わってくる。どこかに行けば全部わかるというわけではないですね。
構造はシンプルだけど、複雑なことができる。やっぱり神経系って面白そう。

道下優月(高校2年)

中田
僕は趣味でアクアリウムをやっていて、海洋系の大学に行こうと思っています。ただ、いま飼っているのは淡水魚で、海水魚はまったくやっていません。それが少し不安なのですが。
後藤
うーんと、それは何を学びたいの?
中田
魚類の生態とか。
後藤
魚類の生態を知りたいのであれば、淡水も海水も関係ありません。淡水魚しかやりたくないというわけではないんでしょ?
中田
はい。
後藤
淡水魚か海水魚かという狭いところではなく、もっと大きな視点で考えたらいいかな。魚類の研究をしているところはあちこちにあり、そこでは幅広い魚類のことが学べると思います。
水生生物の飼育やトレーニングに関わるアクアリストになりたい!

中田俊輔(高校2年)

■大学入学前に専門知識や実験ノウハウは必要?

山田
大学に入るとなったら、専門知識はどの程度知っていたほうがいいのでしょうか。
後藤
知っているのと知らないのでは、知っているほうがいいよね。でも、分野によるだろうし、そこで学んでいくものだと思います。私はもともと昆虫は好きではなかったので、昆虫のことを全然知らなかったけど、やっていく中でいろいろ勉強して、これだけ楽しく語れるようになりました。興味があり、それを知りたいと学んでいくと、どんどん頭に入ってくると思います。
専門知識は大学に入ってからでいいんだ。ちょっと安心。

山田琴子(高校2年)

松吉
これがわからない、こういうことを調べてみたいというテーマが出てきた時、いろいろな実験があると思います。いま学校で習うような簡単な実験方法しか知らない中で、何か自分で調べたいものが出てきた時、研究方法や実験方法はどこから見つけてくるのでしょう。どうやれば見つけ出せるのでしょう?
後藤
自分で見つけられることはあまりなくて、何かを知ろうと思ったら、やはり勉強したり人に聞くことが大切です。自分で「こうかな」と考える中で、先生に「これって、どうしたらいいんでしょう」と聞き、「こうなんじゃないの」「あ、なるほど」という部分が少なからずあるので、自分で考えつくのとはまた違うのかな。例えば大学で研究を行う場合、大学教授は教育者であり研究者でもあるので、「いまできるのはこれ」と導いてくれ、いい解決策が見つかるから、慌てなくて大丈夫ですよ。
研究者はどうやって実験方法を見つけるのか疑問でした。

松吉倭花(高校2年)

■学びと就職が結びつかないけど……

卜部
私は理学部に行きたいなと思っていて。
後藤
理学部はいいところだよ(笑)。
卜部
そこで学ぶことに興味はあるんですが、就職のことを考えると、学んだことを生かした仕事が思い浮かびません。好きなことを大学で学ぶのがいいのか、就職を考えて分野を決めるほうがいいのか迷っています。
後藤
難しいね、迷うよね。人によって考え方が違うので、就職してお金を稼ぐことが大切と考える人もいれば、いまやりたいことがあるならそっちという考え方もある。 また、学部によって見ている方向が違い、農学部などは、人類や福祉、食料のために何をするかが根本になっています。一方、理学はそういう直接的な目的ではなく、自然を知りたいという内なる思いから出てきたりします。
卜部
う~ん。
後藤
私自身は獣医になろうと思っていたんだけど、途中でちょっと待てよと思ったのね。理学部の生物学科に入るか、獣医学部の獣医学科に行くか。その時、本当に獣医をやりたいのか、すごく悩んだのですが、動物を治すことが好きなのではなく、もっと生き物そのものをやりたいと思ったことが一つ。それから、理学部はよく役に立たないといわれるのですが、役に立つことだったら、他の誰かがやるだろうなと。病気で困っている人がいれば、それを治す人が必ず出てくる。一方、いまは役に立たないと思われているかもしれないけれども、50年後、100年後につながるような仕事は、やる人が少ない。すごく迷ったけど、やっぱり理学部は楽しいです。就職についても心配しなくて大丈夫ですよ。理学部の学生も学んだことを生かして就職しています。
大学で学んだことを生かして就職できるでしょうか。

卜部来理(高校2年)

■本当にやりたいことを見つけるには?

佐藤
自己紹介で動物園の飼育員になりたいと話しました。それは動物が好きで、動物と深く関われる仕事に就きたいからなのですが、正直に言うと明確には決まっていません。興味があるものがいくつかある中で、本当にやりたいことを見つけるヒントのようなものはありますか。
後藤
どれだけ経験するかといった側面があるよね。わからない中で考えていても新しいことはわからなくて、知らないことは知らないままだからね。明確な方針が決ま っていなくても生物が好きだったら、生物学科に入っていろいろな研究を見てみると、「私はこれが好き、こっちは嫌」と見えてきたりするので、うまい形でいろいろ経験をするといいかな。私自身、研究者ですが、研究者になりたかったわけではなく、獣医学部か理学部かで悩み、理学部に進んだら面白かった。せっかくだからもう少しやろうと大学院に行きました。だから、私の場合は自分の興味ややりたいことを生かしていく中で道を見つけていったかな。あまり焦り過ぎないことだと思います。
佐藤
ありがとうございます。それと、研究する中で、いろいろなことに疑問を持つことが大事とよく聞きます。私は感想文がすごく苦手で、感想とか疑問とか、そういうのってどうやったら出てくるようになるのでしょう。
後藤
それもトレーニングに近いのかな。突然、「疑問を出せ」と言われても結構難しいと思うんですよ。特に高校までは教科書で学んだことをテストで答えるという形で、世の中のことは結構わかっていますというような感じで教育が進んでいますが、研究者からすると、わかっていないことのほうが多い。なので、高校から大学に進む過程で、「どうして?」と思うことはどんどん増えていくと思います。
疑問を設定したり、感想を言ったりするのが苦手。こんな私でも大丈夫?

佐藤あかり(高校2年)

■他の人と研究テーマがかぶっていたら、どうする?

卜部
研究テーマを決める時、自分はこういうことに興味があって、ここに進みたいと決めても、他の誰かが同じことを調べて結果を出しているかもしれません。そういう場合、ネットで調べ、かぶっているのなら別のテーマを探そうとなるのですか。それとも自分の興味があることを調べ続けるのでしょうか。
後藤
生物学科は4年生から卒論を始めるのですが、特に理学部は誰もやっていないことをやる。それが理学部なんですね。他の応用分野だと、わかっていることを組み合わせたら、こうなるのではという部分があるかもしれないけど、理学部は本当にわかっていないことを研究する。ということは、他の人とかぶっているのは致命的。なので勉強するし、いろいろ調べる。ネットだけではなく図書館で文献を調べたり、結構考えますよ。
研究が初めての人はどうやって調べたらいいのかわかないかもしれないけど、私のように年齢を重ねてくると、いろいろな経験もあり、例えば光周性の分野なら大体のことは頭に入っています。なので、ここにもう少しプラスするといいとか、ここは調べられていないとかがわかります。さらに、違う生き物で似たアプローチとか、違う手法という部分もあるので、理学の分野では完全にかぶるのは少ないかもしれません。 一方、農学や医学などゴールが決まっていると、かぶってもかぶらなくてもゴールに到達した人が勝ち。だから、そういう分野ではかぶることがあるのかもしれないね。理学ではきちんと考えて、かぶらない方向で行く。でも、取りかかる前にむっちゃ調べる!
ただ科学は、誰かが何か新しい発見をしたとしても、それで終わりではなく、それは本当かという次の検証が始まったりします。やはり前の人が正しかったということもあれば、いや違いますよという結果もあったりする。同じことをすることが無駄にはならないと思うけど、私たちはなるべく新しいことをしたいと思っているので、かなり調べて新しいところを狙っていきます。
卜部
ありがとうございます。
後藤
今日は楽しかった?
全員
はい、ありがとうございました。

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