中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第16回
昆虫は季節の移り変わりを
どうやって知るんだろう?
第3章
ホソヘリカメムシ、ハエのことなど
- 後藤
- せっかくだからホソヘリカメムシも見てみようか。大豆の害虫なんだけど、その名のとおり、細くて縁があるカメムシ。成虫と幼虫がいるけど、幼虫って何かに似てない?
- 生徒
- アリ?
- 後藤
- そう、アリに似てるよね。アリに擬態しています。アリは蟻酸を持っていたり、群れで襲ってきたりするので、他の捕食者にすごく嫌われているんです。なので、アリに擬態する昆虫はたくさんいて、ホソヘリカメムシも幼虫の時にアリに擬態している。でも、大人になるとアリっぽくないね。
ハエも見たいでしょ? ナミニクバエは、ニクバエの中では中型で、もっと大きなニクバエもいます。動物の死体や糞につく昆虫で、衛生害虫として昔から研究されているので知見がたくさんあります。
- 編集
- いま研究室では何種類ぐらい扱っていますか。
- 後藤
- 学生が13人いて少しかぶっているので、いまは10種ぐらいかな。学生が少なくなると飼えないから、その研究は終了となります。
- 生徒
- そうなった時、外に逃がすのですか。
- 後藤
- いいえ、基本的に実験室で育てたものは外に逃がさず、実験室でゴメンと処分します。逃がすと遺伝子汚染になってしまうので、それはやらない。
- 生徒
- さっきからハエが手をついて何かしていますが、意味があるんですか。
- 後藤
- 手をすり合わせていますね。なぜだと思う?
- 生徒
- 滑り止め?
- 後藤
- ハエって、かつては家の中にたくさんいたけど、いまはもう見ないもんね。うーん、どこから説明しようか。ハエは、どうやって味がわかると思う? 彼らは脚に味覚受容器があり、歩いているうちに餌がわかったりするのね。なので脚はとても重要で、いつもきれいにしておいて、歩きながら「あ、ここに餌がある」と。チョウも脚に味覚受容器があり、「この葉は子どもにいいから、ここに卵を生もう」ということをやっているわけ。
- 生徒
- いま見たんですけど、全部、手をきれいにしている感じです。
- 後藤
- そうそう、ハエはすごくきれいにする。例えば、ホソヘリカメムシは後脚(こうきゃく)が非常に大きい。よく見るとトゲがあるんですよ。それが彼らの武器で、逆立ちして後ろ脚でフェンシングするように戦う。なので、後ろ脚をきれいに掃除します。あちこち、すごくきれいにしてるでしょ。ハエは汚いと思うかもしれないけど、ハエが付くものが汚いだけであって、ハエはすごくきれいなのね。あ、それは言い過ぎか(笑)。
- 生徒
- 体長数ミリの昆虫の解剖ってどうやるのですか?
- 後藤
- 私たちがよく使うのは眼科用のすごく小さなハサミです。眼科医が目の手術をする時に使うハサミがあり、例えばハエの脳の神経を切ってみるということもします。
- 生徒
- 切っている最中に動いたりしませんか? 中学2年生の時にカエルの解剖の実験があったのですが、麻酔が効かず、しぶとく動いたりするのがいました。そういうことは昆虫ではないのですか?
- 後藤
- いや、あるよ。ただ実験には、しっかり麻酔がかかった個体を使う。昆虫でよく使うのは低温麻酔で、彼らは変温動物なので冷やすと体温も下がり、動けなくなります。氷漬けにして手術をしたり、手術台もすごく冷やしておいてその上で実験するなど、いろいろかな。麻酔をかけ過ぎると死んでしまうので、その加減を考えながら、どれだけ迅速に手術できるか、いろいろ苦労します。
- 編集
- 研究の際、どれぐらいの数を飼うことが必要ですか。
- 後藤
- 実験によりますが、例えばハエなどは飼育しやすい。飼育しやすいから研究対象にするのですが、ショウジョウバエなどはすごく小さいので、1,000匹用意するのは簡単です。でも、ホソヘリカメムシなどは卵を1日に数個しか生まないので、それほどたくさん増やすことができない。ということを考えると、この虫でこの研究ができるかどうか、そういうところで考えたりします。どの実験でも必ず100個体いなければいけないのではなく、カメムシはこれだけしか卵を生まないから10匹でこんな研究をしよう、ハエはいっぱい卵を生むから1,000匹でこんな実験をしてみようとか、実験のデザインの段階で考える感じですね。
- 編集
- 最後にもう1点。いま研究している昆虫の遺伝子編集はすべてRNA干渉法ですか?
- 後藤
- RNA干渉法が効く虫と効かない虫がいて、カメムシとコオロギはRNAが非常に効きます。なので、遺伝子レベルの研究がすごく進められるのですが、ニクバエはほとんど効かないので、違うアプローチで進めています。ニクバエなどの大型のハエは脳を開いて神経を切ってみて、どういう影響が出るのかを調べるのに適しています。その虫によってアプローチしやすいところがあるので、そこを調べていきます。
- 編集
- ありがとうございます。