公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第17回
私たちの手の指はなぜ5本?
体の形を決める発生プログラムをひもとく

第3章 将来の夢とアドバイス

■理系の道に進むには?

早川
理系の道に進むには、どうすればいいのでしょう。
田中
私は都会の子ではなかったので、塾に行くこともなく、普通に教科書で勉強していました。東工大の生命理工学院では、総合型選抜に加え、学校推薦型入試も行うなど、入試制度が大きく変わります。生命理工学院を第一志望とする学生向けに行われてきた総合型選抜では、志望者も合格者も過去5年間ずっと女子が過半数を占めています。だから、みなさんも積極的に受験してくれるといいな。

■顕微鏡を使いこなすコツ

小柴
生物は好きなのですが、顕微鏡が苦手でピントがなかなか合わないんです。
田中
さっき見たのがきちんと見えていなかったら、目の幅が合ってないのだと思う。あとは視度調節、人によってピントが合う場所が違うのね。自分用にそろえるやり方を習えばいいから、大丈夫!

■知らない知識は選べない!?

早川
研究テーマはいつ、どうやって決めるのですか。
田中
私の場合は特殊で、すごく早い時期に決めました。ただ、一般的には研究室配属の段階でも、みんな迷って決めかねています。そもそも大学に入って勉強するのは何のためかというと、特に理系の場合は、どんなことが自分にとって面白いのかを知るため。サイエンスは非常に幅広いのに、入学時はほんの一部しか知らない。知らない知識は選べないでしょ? だから、大学に入ってからでもいいと思うのね。学部は何となく面白そうなところをふんわり選んで、入学してからテーマを決めるのはありだし、正直、大学院になってからでも構わない。私はかなり戦略的にやってきましたが、そうじゃなくてもいいし、途中からでもバンバン変えられます。

■研究は想定内も想定外も面白い

吉岡
研究していて楽しかったこと、よかったと思えることは?
田中
こうだろうなと予測し、試したらうまくいった時ですね。例えば、陸で発生するコキコヤスガエルのこと。日本の両生類は全部オタマジャクシになり、陸で発生する両生類はいません。コキコヤスガエルは陸で産むとわかったのですが、日本に輸入できないので、院生だったイングリッド・ローゼンブルグ・コルデイロ(Ingrid Rosenburg Cordeiro)さんをハーバード大学自然史博物館に派遣。先方とは一度も会ったことがなかったけど私がお願いして送り込み、2週間ほど見てもらいました。そうしたら、当初の予想どおり指間細胞死が起こった。「当たり!」です。
逆に考えてもいなかったことが起こった時も面白いし、学生さんが思いついて実験したことがそのとおりになった時もうれしいですね。
文系の研究でも、自分の立てた予測が当たったら楽しそう!

吉岡四季(高校1年)

■レポートではクエスチョンをしっかり書く

早川
レポートが苦手なんですが、論文を書く時のコツってありますか。
レポートをうまく書けるようになりたいのですが……。

早川紗矢(高校1年)

田中
サイエンスのレポートは書き方が決まっていて、まずクエスチョンをバンと出す。例えば「指はなぜ5本なのでしょう」、これがクエスチョンです。そしてコンクルージョン(結論)は最初に出したクエスチョンと一致させること。
① こういう背景があったから、このクエスチョンを持ちました。
② それを調べるために、こういうことをしました。
③ こういった結果が出たから、こう解釈できます。
つまり、イントロ → クエスチョン → 方法 → 結果 → 解釈という流れです。
結果までは私見を入れてはいけません。淡々と、何個調べたらこう変わりましたと書く。そして最後の解釈のところは、考えられることを全部挙げないといけない。思い込みで1つだけ挙げるのはNGです。
サイエンスの場合、結果のデータまできちんとしていればOKで、解釈は間違っていても悪いわけではないのね。というのも、新しい技術ができたら、もっと新しいことが見えるかもしれないし、いま自分が全部やらなくても、まだ可能性が残っているからです。論文は永遠に残るので、正しい結果をきちんと出すのは絶対です。でも、後の研究で新しいことがわかった時、「あれは、こういうことだったのか」と解釈が変わることはよくあります。
高校生の理科系コンテストの審査員をすると、クエスチョンを書いていない、「これが知りたい」という部分が抜け落ちている人が多い。「○○を知りたいから、この実験をしました。こういう結果になったから、こう解釈できます」と、きちんと書きましょう。うちの学生にもよく「目的は?」と言うんですけどね。

■上手にプレゼンをするには?

小柴
先生が講演する時に気をつけていることは何でしょう。
田中
気をつけていること?
小柴
最近、学校などでプレゼンすることが増えているので、何かあったら教えていただきたくて。
田中
そう、相手が興味を持っていることを話すようにすることかな。今日も用意したスライドを入れ替えたように、できるだけ相手に合わせた内容にします。あとは、聞く人のバックグラウンドを知っておく。生物に詳しくない人たち向けなら、イントロを長くするとかね。

■欧米では博士号は最強!

小柴
先生は海外の大学に留学して……。
田中
あ、留学じゃなくて仕事ね。
小柴
はい。海外の大学で働いていらしたのですが、やはり理系でも英語は必要ですか。
理系の勉強だけでなく、英語も頑張ったほうがいいのでしょうか。

小柴真咲(高校1年)

田中
私は英語が苦手でした。生物も別に得意じゃなかった。暗記が苦手なのかな。でも、サイエンスってそこじゃない。何が大事かテーマを見つけ、点と点をつなぐことができればやれると思っていたし、苦手なことがあるからやめるという選択肢はありませんでした。
英語が得意ではなかったので、院生になってから英会話学校へ行きました。PCRの結果を待つ間に英会話学校に行き、また研究室に戻る。それでも海外に行った当初は、あまり上手に話せませんでした。
ただ、海外に行くなら、絶対Ph.Dを取っておくべきだと思っていました。というのも、博士号は欧米では最強なの。英語が下手だろうが、日本人であろうが、例えば電話で “This is Dr.Tanaka speaking. ”で始めれば、ちゃんと信用してもらえる。欧米では、博士号を持っている人に対するリスペクトがすごくあります。
みんながみんな研究者になりたいわけではないけれど、面白そうなこと、やってみたいことがあって「さて、どうする?」となった時、自分の目標を達成するためのアプローチ方法を知っておくことも大事だと思います。
一同
ありがとうございました。

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