医学部をめざし、たどり着いた工学部
———大学院でやりたかったことは何ですか?
新規の分子をつくるところから、その物性評価、そして動物実験までの一連の研究を、自分自身で行いたいと思い、興味のある論文や資料に出てきた研究室の中から、合致する研究室を探しました。大学院入試の前には、希望の研究室を訪問します。私は、DDSの素材開発に興味があって、東京大学大学院工学系研究科の片岡一則*(かたおか・かずのり:現ナノ医療イノベーションセンター長)先生の研究室を訪問しました。その際に、偶然、後に指導教員となる鄭雄一**(てい・ゆういち)先生にお会いしました。骨を対象としたDDSの研究ができるかもしれないと聞いて、とても興味を持ったのを覚えています。
*片岡一則先生の研究については、いま注目の最先端研究・技術探検!
第23回「診断から治療まで。がんを狙い撃つ高分子ナノマシンで医療を革新!」をご覧ください。
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/23/index.html
**鄭雄一先生の研究については、この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」
第13回 「三次元造形によるオーダーメイドの人工骨再生に挑む」をご覧ください。
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/interview/13/index.html
———いよいよDDSの研究が始まるわけですね。
と思っていたのですが、入学後は、当時、助教だった酒井崇匡(さかい・たかまさ:現東京大学大学院工学系研究科教授)先生の下で、ゲルの研究をすることになりました。酒井先生は「Tetra-PEGゲル」というゲルの研究をされていて、私と一緒に入った7名の学生(修士課程4人、博士課程 3人)が一期生となりました。

鄭先生とともに

大学院時代(2列右から3人目)。前列中央が鄭先生、赤木先生の左隣が酒井先生。
———Tetra-PEGゲルとはどういう物質ですか?
ゲルとは、高分子が架橋してできた網目構造の中に液体が閉じ込められた物質です。液体と固体の中間の性質をもっていて、生体の軟組織と似た構造をしています。コンタクトレンズや湿布のような経皮吸収剤、そしてDDSにも使われています。ゲルの網目構造は不均一な構造なので、網目が粗いところに力が集中するとすぐに壊れてしまうのが問題でした。
そこで、多くの研究者が均一な網目構造をめざした研究に取り組んできました。酒井先生は、4分岐の高分子同士を反応させてTetra-PEGゲルを合成し、網目の不均一性を抑えることに成功したんです。私が研究室に入ったのは、その研究をスタートした時期で、在籍中の5年間はTetra-PEGゲルの力学強度や不均一性について酒井先生の指導のもとで研究していました。