公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2021」レポート
再生医療の第一人者による講義や
若手研究者との交流を通じて
「生命科学研究のいま」をオンラインで学んだ3時間

ラボ紹介③
体内時計と睡眠

早稲田大学 先進理工学研究科
電気・情報生命専攻 柴田重信研究室 准教授
田原優先生
早稲田大学大学院先進理工学専攻修了。博士(理学)。2015年より早稲田大学高等研究所助教。17年より米国UCLA医学部助教を経て現職。
同研究室 修士2年
神藤貴江さん
早稲田大学大学院先進理工学専攻、柴田研究室。修士2年。現在、子どもの体内時計変化についてベネッセと共同研究を実施中。
あなたは朝型?夜型?中間型?

早稲田大学の柴田重信研究室は健康科学に寄与する生体リズムの仕組みの解明と応用研究をテーマに、体内時計について基礎から応用までを幅広く研究を行っています。田原先生がレクチャーしてくれました。

「体内時計と聞くと、海外旅行の際の時差ボケを連想する人が多いでしょう。せっかく海外に遊びに行っても、現地に着いた早々なぜか眠かったり、調子が悪かったりしますが、これは、からだはまだ日本の時間のままで海外の新しい時間に慣れていないためです。
日常生活の中でも、たとえば夜間交代勤務の人は慢性的な時差ボケ状態にあるといえます。こうした状態が長く続けば、疫学的にはがんになりやすいとか、糖尿病や循環器系疾患になりやすいといわれていて、体内時計の乱れがさまざまな病気につながることがわかっています。また認知症の人が夜中に徘徊するのは体内時計が狂ってしまっているからです」

海外旅行や交代勤務、認知症というとあまり今の生活に関係ないと思う人もいるかもしれません。そこで、参加した高校生に、自分の体内時計が朝型か夜型か、中間型かを調べてもらいました。
自分の最近の睡眠時刻をチェックするのですが、大事なのは休日の睡眠時刻。休みの日の就寝時刻と起きた時間を調べ、その中間時刻を計算します。年代ごとの中間時刻の表を見れば、どの型か(クロノタイプといいます)がわかります。たとえば、零時に寝て朝9時に起きたとすると、中間時刻は4.5時。40代以上なら夜型、20代なら中間型です。

ちなみに今回のサイエンスカフェ参加した高校生28人のうち、朝型は13人、中間型9人、夜型6人でした。

その結果を受けて、もう1つ計算してもらったのは、今度は平日、何時に寝ているか。
「たとえば、休日は深夜2時に寝て朝10時に起きたとします。だけど平日は零時に寝て、通学があるから朝6時に起きているとすると、平日の中間時刻は3時だけど休日の中間時刻は6時。となると、ここに3時間の時差があります。時差が1時間以上あるという人はちょっと要注意と思ってください。なぜかというと平日と休日で時差ボケが起きているからです。3時間の時差が起きるということは、日本にいながら土日だけ海外へプチ旅行に行っているような感覚だと思ってください。これが毎週末に起きていると時差ボケがどんどんたまっていくことになります」
特に夜型の人は夜更かししがちで、時差ボケがたまりやすいそうです。時差ボケが大きいと、肥満傾向になったり、学校の成績が悪くなったりするという統計データもあるとのことで、注意したいものですね。

興味深いデータがあります。
「昨年、緊急事態宣言が発令されました。そのときに、起床や就眠の生活習慣が変わったかどうかについて、10代から70代の男女3万人に調査したところ、自粛しているときは、多くの人が平日は遅寝、遅起きになって睡眠時間のびた。一方、休日は何も変わらなかった。それまで時差ボケが平均して1時間ぐらいあったのが、20分まで減ったのです。つまり休日はふだんみんなが生活したい状況で、平日は無理して早起きしていたということがわかりました」

コロナ禍の外出自粛の影響調査では、外出自粛によって平日と休日の生活リズムの差が減少した

体内時計と健康の関係を探究

ところで、体内時計はどこにあるのでしょう?
答えは、からだの中のあらゆる細胞にあります。特に脳の中には中枢時計があります。体内時計の本体は時計遺伝子で、1個1個の細胞の中で時計遺伝子の発現量が1日の中で変化しており、ピークからピークまでの時間がだいたい24時間なのです。

体内時計は約24時間のリズムを刻む

「実際は、体内時計は24時間より少し長く、これを毎日調節するのが光や食事です。よく『朝日を浴びて朝ご飯を食べて体内時計をリセットしよう』といいますが、朝、何を食べたらいいのかとか、機能性食品としてどういうサプリメントを食べたら体内時計の調節にいいかの研究をしているのがぼくらのラボです」
研究の一例を示すと、カフェインが体内時計を遅らせる効果があることがわかりました。
「特に、夕方にコーヒーを飲んだり、エナジードリンクを飲んだりすると、体内時計がすごく遅れてしまいます。だから、夕方はなるべくカフェインをとらないほうがいことがわかっています」

また、マウスの頭の中に電極を埋め込んで脳波を測定したり、イメージング技術を使って細胞内のカルシウムの状態をマウスが自由に動ける状態で測定するといった最先端の研究も進めています。

Per2という時計遺伝子にホタルの発光酵素であるルシフェラーゼを導入したマウスに、発光基質であるルシフェリンを投与し、高感度カメラで撮影すると、皮膚から透過した光として臓器の発光を測定できるシステムを開発。

「このようにヒトの研究と動物実験を合わせて、企業などとも一緒になって体内時計を軸に健康を管理するようなシステムをつくっていこうとがんばっているところです」

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