テルモ生命科学振興財団xTWIns Science Café

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ARCHIVE 開催レポート

サイエンスカフェ2023

13道県から30名の高校生が参加
2023年7月28日(金)・29日(土)

■スケジュール

1日目 7月28日(金)●ホテルグランドヒル市ヶ谷
14:00
開催挨拶
15:55~17:00
第2部 最先端生命科学講義
18:00~20:30
懇親会
2日目 7月29日(土)●TWIns
9:00~9:10
ガイダンス
9:20~10:10
11:40~12:40
昼食休憩
12:40~15:30
実習 午後の部
17:00
解散

■参加校

札幌日本大学高等学校
山形県立米沢興譲館高等学校
茨城県立竜ヶ崎第一高等学校
茨城県立並木中等教育学校
埼玉県立松山高等学校
山梨県立甲府南高等学校
北杜市立甲陵高等学校
群馬県立前橋女子高等学校

岐阜県立恵那高等学校
奈良学園中学校・高等学校
広島大学附属高等学校
高知県立高知小津高等学校
福岡県立城南高等学校
福岡県立鞍手高等学校
宮崎県立宮崎西高等学校

■参加した高校生たちの感想

※寄せられた感想の一部を抜粋したものです

現在進行形で進められている最先端の研究に心が踊る

札幌日本大学高等学校(Y・Y)

今回サイエンスカフェの参加を通じて、現在進行形で進められている最先端の研究の概要やその課題について知ることができただけでなく、自分の進路選択を確固なものとするような経験や気づきを得ることができました。
正宗賢教授の話にあった、スマート治療室/SCOTからは、現代の情報化による医療機器の発達により、病気やその治療について莫大なデータを蓄積し、それをもとにAIを駆使して未来を予測するという工学的な面での医療の進歩を感じました。またその最終目標として掲げられていた、データ循環により、あらゆる場所に病院のような機能を付与するということが実現すれば、医療格差が深刻になっている日本にとって画期的な打開策になるという将来性を感じました。
清水達也教授の細胞シートの研究に至ったプロセスや現状、課題についての話は、生物学を学び、基礎医学研究に携わりたいと考えている自分にとって、今後の方向性を示してくれるものとなりました。培養肉関連の研究や心筋細胞の代替となる細胞シートの開発の話はどちらも今まで耳にしたことがなく、未来への可能性を大いに感じ、終始心躍りました。
また清水教授の研究者になるまでの話も印象に残っています。学生時代に漠然と持っていた目標が大学生時代の出会いやその後の経験によって変化し、最終的に現在の研究に至ったという話を聞き、清水教授ほどのその分野の第一人者の方でさえも、今に至る道はまっすぐではなかったということを知ることができました。
高校生という段階で、今後携わっていきたいと思えるような分野の研究に触れられて幸運だったと思います。

勇気を出して質問することで積極性や好奇心が高まった

群馬県立前橋女子高等学校(M・S)

2日目の実習は、研究者の方々と直接話せる機会や、高い志を持った友人と意見を交換できる機会がたくさんありました。そこで私が感じたのは、研究者の方々の熱意や、友人の進路選択への真剣さです。今まで大学受験がゴールのように感じていたため、偏差値のみを見て志望校を決めていた自分の将来への考え方の浅さに気づかされました。
研究に大きな熱意を持ち、いきいきと研究されていた方々のようになるために、興味のある分野に力を入れている大学や、どのような環境で研究ができるのかなどをしっかり調べて大学に進学したいと考えるようになりました。そうすることで、学習へのモチベーションも大きく向上しました。
また最初は気になったことがあっても質問できないことがありましたが、勇気を出して質問すると、とても丁寧に答えてくださいました。そしてその疑問について友人と話すことの楽しさを実感し、どんどん気になったことを聞き、友人と積極的に意見交換をするうち、自然と自分の積極性や好奇心が高まっていることに気づきました。
参加する前に想像していたより何倍も大きく成長し、刺激を受けることができ感謝しています。

医療に携わるには医学部というイメージが覆った

北杜市立甲陵高等学校(S・A)

私は医療系や生命に興味があったのですが、進路について迷っていたので今回のサイエンスカフェに参加しました。
今までは医学部に進学しないと、医療に携わることは出来ないと思っていました。しかし、一日目の講義を聞いて、これからの医学の発展には医学だけでなく、理工学や経済学と融合していくことが必要だと聞き、とても印象に残りました。
二日目の実習では、本物の手術器具を使って、縫合の体験をしました。医学生でも、高学年にならないとできないことを高校生で体験でき、貴重な体験をさせていただいたと思います。現役の医学生だけでなく、工学部の方々にも指導していただき、一日目で聞いた医工融合が実際に行われていると実感しました。
特に記憶に残っているのは人工心臓を作る実習の中で、工学部の方と交流したことです。工学部に入った方が脳疾患についての研究をしているとおっしゃっていて、「医療に携わるには医学部に進学しなければならない」というイメージが覆りました。
また、自分の周りに自分と近い分野に興味がある人が少なく、進路について話すことがなかったのですが、懇親会やクイズ大会で全国の同じような分野に興味を持つ高校生と交流を深めることができ、良い体験になりました。

進路のヒントを得た2日間

埼玉県立松山高等学校(S・A)

今回、サイエンスカフェに参加し、実際に医療の最先端に立っている先生や若手の研究者のお話を聞くことで、今までテレビや文字だけで見ていただけのふわついていた知識がしっかりとしたものに変わり、そして2日目に体験したことによりその知識を実感することができました。
実習の一つ、カプセルトイの簡易型人工心臓の作製では、今まで中学で学んできた心臓の構造がシンプルなものなのにどれくらいすごいのかが分かり面白かったです。
次に、このようなイベントならではの交流が僕の意識を変えました。
僕は自分のやりたいことは何なのか、どうやったらやりたいことができるのか分からず高校1年生ということもあり進路について考えていませんでした。しかし、先輩たちと話しアドバイスをもらっていく中で、自分のやりたいことではなく、勉強した中で興味を持ったことを突き詰めるのが良いと考えられるようになり、そして興味を持つにはアンテナを広くする必要があることを学べました。今まで考えていた進路選びよりも難易度が下がった気がして、「やってみよう」という気になれました。
サイエンスカフェに参加し、自分の中の医療に関する解像度が上がったり、進路についてヒントが得られたりととても充実した2日間を送ることができました。

やるかどうかを迷うより、迷ったら挑戦する

山梨県立甲府南高等学校(R・I)

最も印象に残っていることは、研究者の方々のお話です。
私は将来小児科医になりたいと思っており、小児科医と研究を両立してらっしゃる先生を見て、将来の選択肢は無限にあるのだと感じました。
また、人生の選択として、「拒否反応がなければ挑戦してみる」という言葉がとても心に響きました。中学生までは、なんとなく皆と同じことをして、親の言うことを聞いていれば生活できていましたが、高校生になり、いろいろな選択を自分でしなければならなくなりました。自由に自分の人生を歩んでいけるようになった反面、今まで経験したことのない「選択の仕方」の壁にぶつかることが多々ありました。しかし、やるかどうかを迷うより、迷ったらやる、というように決めることで、自分の人生はより豊かになるだろうと思いました。
サイエンスカフェに参加するまで、自分のやりたいことがはっきりしていませんでしたが、将来の自分の姿がはっきりと輪郭をもつようになりました。貴重な体験をありがとうございました。

理工系分野と医学分野の融合のいまを実感

広島大学附属高等学校(S・I)

僕は理学系の分野に興味があった一方で人の命にもかかわりたいと思い、サイエンスカフェで理工系分野と医学分野の融合の実際を知りたいと参加しました。
2日目のTWIns見学では、医療現場で使われており、医学と工学の技術を組み合わせた「スマート治療室」と呼ばれる手術室を見学することができました。データ分析をもとに患者の未来を予測できる技術や、ARを用いた手術のサポート技術はこれから必要になる技術であり、実際に活用もされているまさに生命医科学の最先端でした。
施設見学では、実際にここで実験・研究をしている早稲田大学や東京女子医科大学の大学院生の方に案内していただき、施設のことはもちろん、講義の様子や受験の時のお話を伺うこともでき、とても充実した時間となりました。
実習ではエコーの機械を実際に使ったり、縫合の練習をしたり、細胞シートを実際に触ってみたりと、サイエンスカフェでしか体験できないようなとても充実した一日となりました。
目の前にあるものすべてが今、そして未来の医療を支えていくのだと感じたとともに、21世紀の医療の中心となる再生医療を支えるのはこのような生命医科学なのだと実感することができ、これからの自分自身の進路を決める貴重な体験となりました。

サイエンスカフェ2022

13道府県から26名の高校生が参加
2022年7月27日(水)オンライン開催

■スケジュール

13:30
開会・参加者自己紹介
14:00
最先端生命科学講義

再生医療の最前線~細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング~
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長 清水達也教授

 
(休憩)
14:45
ラボ紹介
15:50
3班に分かれて、若手研究者と自由交流
16:10
自由討論
16:40
終了

■参加校

北海道北見北斗高等学校
北海道釧路湖陵高等学校
山形県立酒田東高等学校
新潟県立新発田高等学校
福井県立武生高等学校
三重県立四日市高等学校
京都府立洛北高等学校

鳥取県立鳥取西高等学校
香川県立観音寺第一高等学校
徳島県立脇町高等学校
佐賀県立致遠館高等学校
長崎県立長崎南高等学校
大分県立大分舞鶴高等学校
沖縄県立球陽高等学校

■参加した高校生たちの感想

※寄せられた感想の一部を抜粋したものです

「当たり前」にフォーカスして疑問を持つことが研究の第一歩

山形県立酒田東高等学校(M・S)

先日の講義では、驚くべき最先端の研究を知る大きなきっかけになりました。その中でも、私は培養肉についての研究に興味を持ちました。食糧不足、牛のゲップによる地球温暖化の進行など様々な問題が生じ始めている中で、一頭の牛から数百万頭分もの牛肉を生産できるということを知り、研究が未来を支えているのだなと改めて感じました。
また、研究者になるうえで心配なことを質問させていただくと、吉光喜太郎先生が「面白いアイディアがお金そして人をも呼び寄せるのだ」と教えてくださいました。そして、身近にある「当たり前」にフォーカスして疑問を持つことが研究の第一歩であり、行き詰まったときに前進する方法であることを学びました。
サイエンスカフェを通して、アニメの世界でしかありえないとされていることが研究テーマとなり、そしてそれが本当に実現してきていることに気づきました。研究って難しそうというイメージが薄れ、研究することの魅力を感じました。今回学んだことを今後の課題研究、大学での研究、その後の進路にも役立てていきます。

科学技術における多分野融合の重要性を認識

山形県立酒田東高等学校(H・S)

サイエンスカフェに参加して、科学技術における多分野融合の重要性を改めて認識しました。先生方のご講義の中でもあったように、組織培養や遠隔治療などのこれからの日本社会で必要とされる技術は、医学はもちろん、工学や情報学など多岐にわたる分野の力が必要となります。また、そのような技術を実際に運用するためのルール作りには、経済や政治的な視点も必要となるはずです。私は将来がん治療の研究に関わりたいと考えているのですが、自分が専門とする分野の知識、情報だけではできることが限られてしまいます。そのため、学生のうちに多くの知識や他人の考えに触れて自らの視野を広げていきたいと思いました。
また今回の講座は、日本全国の高校生がオンライン上ではありながら一堂に会して自分の将来を語ったり、さまざまな情報を共有したりすることのできる貴重な機会だったと思います。全国各地に自分と同じように医学や科学分野全般に興味をもち、その道を志している仲間がいるのだと分かり、受験勉強へのモチベーションがより高まったように思います。ここで得た学びを自分の将来に生かせるように、これからも努力を続けていきたいです。

臨床だけでなく研究もやってみたい

新潟県立新発田高等学校 (K・M)

サイエンスカフェに参加して最も印象に残っていることは、清水達也教授の「細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング」という再生医療のお話です。
清水教授は、ご自身が研究されている幹細胞や細胞シート、それがどのようにして医療に用いられるかなど、丁寧に説明してくださいました。 
僕は、将来医師になりたいと思っていましたが、サイエンスカフェに参加する前まではどちらかというと臨床に携わりたいと思っており、正直研究の分野にはあまり興味がありませんでしたが、清水教授のお話を聞いて研究もやってみたいと思うようになりました。
また、今回は医療の分野だけでなく、高橋宏信先生をはじめたくさんの興味深い研究をされている方々のお話もうかがうことができました。現在、すぐに世の役に立つ研究が重要視されている中で、基礎研究を怠らず、それとひたむきに向き合い、日々格闘している研究者の姿を拝見できたことも貴重な体験になりました。
僕自身も、そのような姿を見習い、これからより大きく成長していきたいと思います。

自由討論で進路のヒントを得ました

京都府立洛北高等学校 (E・W)

今回、普段生活する中では知ることができないようなことをたくさん知ることができました。
細胞シートは再生医療だけではなく、食料、それを通して環境への配慮にも繋がるところがとても凄いなと思いました。また、手術室が移動式となるという、ドラマでやっていたようなことが簡単にできるようになるのかと感動しました。さらに、カタツムリの右巻きや左巻きなど今まで考えたこともありませんでしたが、やはりそこには意味があったということで生命の凄さを感じました。
私は眼科医となることが夢でしたが、最近生命科学という分野を知り、とても興味深い分野だと感じ、今回少しでも追加の知識を得たいと思って参加しました。また、生命科学と同時に薬学にも興味を持ち始め、進路がなかなか1つに決めることができずにいましたが、最後の自由討論で「サブで自分のやりたいことをやればいい」という先生の言葉で、新しい道が自分の中に生まれたように感じます。まだ高校1年で、これから進路についてもっと悩むことがあると思いますが、今回の体験も踏まえて自分の人生を決めていきたいと思います。

スマート治療室による遠隔手術の実現が楽しみ

佐賀県立致遠館高等学校 (U・H)

私は、幼い頃から医療に興味があり、今は医師になるのを目標としています。今回、生命科学の最先端の研究について学べるということで、幅広い視野を持つためにも参加することにしました。
とくに印象に残っているのは、「最先端の手術室」の技術開発です。都会ではさまざまな医療設備が整っており、誰でも適切な治療を受ける機会が多くあるのに対して、地方では医師不足に陥るなど数多くの問題があり、死亡率の地域格差が生じているのが現実です。私は、地域医療を充実させることを目標としているので、スマート治療室により遠隔地でも高度な手術支援を行うという発想には感動しました。今後、研究が進み実現されるのが楽しみです。
サイエンスカフェに参加する前は、医師をはじめとする医療従事者が主体となり治療にあたるものだと思っていましたが、今回の講義を通して、化学や工学の面からもアプローチすることで、より精度の高い、安全な医療を可能にすることができると分かりました。今後も努力を続け、幅広く学び、多角的に物事を考えられる医師を目指していきたいです。

さまざまな学問を学び、多面的に物事を見ることができる人になりたい

佐賀県立致遠館高等学校 (K・K)

将来外科医になるという夢があり、生命科学について学び将来に活かしたいと思い参加しました。
最も印象に残ったのは細胞シートについてです。細胞シートを利用することで皮膚や臓器の修復をすることができるというのは興味深いものでした。先端的な医療技術は、普段病院で医師と会話するだけでは知ることのない技術であり、これまで考えていた以上に、医療によって治療が可能になる領域が広がりました。
また、カタツムリの左右対称性という研究にも興味を持ちました。右巻きのカタツムリが多く、左巻きのものは変異的で少数であったにも関わらず生き残っているのは、セダカヘビが右利きで捕食されにくいためだという明確な原因に驚きを覚えました。
「他分野についても見聞を深めると視野が広がる」というアドバイスをいただき、医療だけでなくさまざまな学問を学び、多面的に物事を見ることのできる人になりたいと思いました。

今のうちにたくさん失敗して成長したい

香川県立観音寺第一高等学校 (R・S)

今回のサイエンスカフェで特に印象に残っているのは、細胞シートの講義です。手術で細胞シートを装着しているところを初めて見て、患者本人の細胞を使って再生できているのは興味深かったです。今では医療から培養肉の研究にまで応用されているのには驚きました。さまざまな課題を乗り越えるために試行錯誤を繰り返したと想像すると、尊敬の念が尽きません。
私は高校で課題研究をしていますが、少し失敗しただけで諦めかけてしまいます。しかし、大学生や社会人になってからの試練を想像して、今のうちにたくさん失敗して成長しようと考えるようになりました。受験まであと半年ですが、大学合格がゴールではなく、医者になることを目指してがんばりたいと思います。
先生方のように、自分の興味のある好きなことを一生かけて学び続けることができるようになりたい。そして、視野を絞りすぎることなく、たくさんの情報に耳を傾けて、自分の可能性を広げるようにしたいです。本当に貴重な機会をありがとうございました。

サイエンスカフェ2019

13都道府県から高校生29名が参加
2019年7月26日(金)・27日(土)

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再生医療の最前線~細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング~

再生医療研究の第一人者の清水達也教授によるレクチャー。
幹細胞とは何か、再生医療研究で幹細胞が果たす役割などの解説のあと、再生医療がいまどこまで実現しているか、その最前線をわかりやすく紹介していただきました。角膜上皮や心臓、食道、歯周組織、膝軟骨、中耳、肺など、身体の各部で臨床研究が始まっており、中には商品化が進んでいるものも。
こうした医療分野での応用をはじめ、最近では、細胞シートづくりのノウハウを生かして、培養肉の開発も進んでいます。工学のノウハウと医療が融合して、新しい医療や未来の食料づくりなど、さまざまな展開が始まっているのです。
若いころは宇宙飛行士になるのが夢だったと語る清水先生のモットーは「夢と信念」。現在、細胞シートを積層化し、血管網を通すことでミニ心臓をつくろうと挑戦中です。

1.ティッシュエンジニアリング~医療から食料まで~

清水先生のラボで高橋宏信先生が取り組んでいるのは、細胞を培養して人工的に筋肉をつくること。筋組織へと分化誘導する際に、適度な電気刺激を与えて“筋トレ”すると、運動性の高い筋肉になるそうです。この成果を生かして、ラボでチャレンジしているのが、培養肉の開発です。

なぜ、再生医療ではなく、培養肉?と不思議に思うかもしれません。牛のゲップが出すメタンは地球温暖化の原因になっていますし、家畜のエサの栽培には大量の土地や水、穀物が必要で、人に必要な食料と競合するほか、牧草地を広げることは森林破壊につながるなど、最近話題になっている「SDGs(持続可能な開発目標)」の観点からも、「脱家畜」が求められているのです。

大豆などを使って肉の替わりとする代替肉はすでに商品化されていますが、先生たちが研究しているのは、筋肉の細胞を培養・組織化して“本物の肉”をつくること。単に細胞をかためただけでは、筋組織にはなりません。筋肉と同じように収縮し、かみごたえのある筋組織をつくる―この目標は、ある意味、再生医療でめざす組織づくりとも共通です。

高橋先生たちは、すでにウシの筋細胞からハムのような組織を作製することに成功。現在は、細胞組織を増やすときに使う培養液にクロレラなどの藻類を活用するなど、環境への配慮とコストの低減にトライしているそうです。

2.最先端の手術室 「Smart Cyber Operating Theater: SCOT」

「SCOT」とは、2019年に東京女子医科大学で運用を開始した最先端のスマート手術室。手術室内のさまざまな機器をネットワーク化し、手術中に撮影した画像や患者の状況を示す各種データをリアルタイムに統合管理し、治療の精度と安全性を上げ、医師のサポートを行うシステムです。

カーナビでドライブ中に今どこを走っているかがすぐわかるように、手術ナビゲーションシステムによって、メスなど術具の位置データとその部位の映像が映し出され、手術の進行状況が可視化されます。また手術中に撮ったMRI画像を見ながら、摘出する必要がある悪性腫瘍かどうかや、病巣を正確に取り除けたかどうかが確認できます。さまざまなデータを俯瞰的に監督する戦略デスクと、実際に執刀する医師とを分けることで、第三者的な視点で最適な意思決定が行える点も大きなメリットです。

さらに、こうした最先端の手術室のユニットを大型トラック内に搭載した「モバイルSCOT」の実証実験も進めています。地域によっては最先端の治療機器や診断機器などが導入されておらず、専門家も不足しているなど、医療の地域間格差が課題になっています。しかし、5Gなど最新の通信技術を使えば、大量の情報を瞬時に送受信できるので、遠隔地の患者さんのデータをリアルタイムで見ながら、専門の先生が患者を診たり、手術をサポートしたりすることが可能になります。医療の格差解消だけでなく、災害や事故の現場で、専門医が手術を遠隔支援するといった展開も期待できるでしょう。

吉光喜太郎先生は、「病院に行く」から「病院が来る」ことによって、一人でも多くの命を救いたいと、研究に取り組んでいます。

モバイルSCOT

3.左右非対称性の進化生物学

世界で約8万種いるといわれる巻貝を、2種類に分ける方法があります。それは右巻きか左巻きかということ。巻貝の殻口を正面に向けて立てたとき、殻口が右側にあれば右巻きで、左側にあれば左巻きです。サザエやタニシをはじめ、巻貝のほとんどが右巻きですが、数は少ないけれど左巻きのグループもいて、右巻きの種から独立に何度も進化してきたと言われています。
でも右巻きの種の中に最初に現れた左巻きの個体は、交尾ができないので子孫を残すうえでは圧倒的に不利です。いま存在する左巻きの種が、どのように生まれたのか、その謎を探究しているのが細将貴先生の研究室です。

先生は、右巻きの巻貝を食べるのに特殊化した捕食者がいれば、左巻きが生存に有利に働くのではないかという仮説を立てました。仮説を検証するために選んだのが、西表島と石垣島に生息し、ニッポンマイマイ属の左巻きの種と分布域が重なるセダカヘビです。まずは、下顎の歯の本数を比較し、セダカヘビ科のほぼ全種が“右利き”であることを発見。次に右巻きのカタツムリと左巻きの突然変異体をエサとして与えてカタツムリの生存率を比較したところ、左巻きのカタツムリが捕食されにくいことも突き止めました。さらに実際のフィールドで、ニッポンマイマイ属の右巻きの種がイワサキセダカヘビに食べられていることを、排泄物を調べて確認。そのほか、全世界の左巻きのカタツムリの分布とセダカヘビ類の分布を統計学的に比較するなどのさまざまなアプローチによって、左巻きカタツムリは、右巻きカタツムリを効率よく食べるように進化した「右利きのヘビ」に捕食されにくいために子孫を残すことができ、種分化したという仮説を実証できたのです。

細先生は、「右のハサミばかり大きいカニや、カレイやヒラメの目の位置、ネジバナの右巻き左巻きなど、それぞれの生物に左右をテーマにしたさまざまな物語があるはずで、これからもその謎解きにチャレンジしていきたい」と話しています。

写真左:セダカヘビの下顎の歯の本数は左右で異なり、右側が多い
写真右:セダカヘビが左巻きのカタツムリをどのように襲うかの実験

第1部① TWInsと医工連携の意義

工学と理学、医学が連携し、新しい医療をうみだすために誕生したTWIns

1日目の講義のトップバッターは、東京女子医科大学先端生命医科学研究所・代用臓器学分野で講師を務める高橋宏信先生です。
「講師といってもどんな役職なのか、大学の研究室がどんな構成なのか、みなさんにはピンとこないかもしれません」と、まずは教授や准教授、講師、助教の役割について紹介。「偉い先生じゃないからリラックスして」と緊張気味の高校生たちに呼びかけました。

高橋先生は、九州大学工学部卒業後、大学院で5年間学び、博士号を取得。その後、コロラド州立大学、ユタ大学を経て、2008年から東京女子医科大学で再生医療に取り組んでいるそうです。工学博士なのに、医学関係の研究所で講師? ちょっと不思議な気もしますが、もともとこのTWInsは、新しい医療をうみだすために、工学と理学、医学が連携する必要があるという理念でスタートしたもの。初代所長だった岡野光夫先生も工学博士で、温度によって表面状態(水との親和性)がかわる温度応答性培養皿を開発。この温度応答性培養皿を用いて作製された細胞シートは現在、再生医療の現場で大活躍しています。

「TWInsは1つの建物に東京女子医科大学と早稲田大学という2つの大学が入っているユニークな施設。人材の交流も盛んで、早稲田に所属しながら女子医の研究室で研究するなど、多様な人材が集まっています。このあと登場する若手研究者も、出身はさまざまながら、同じ先端生命医科学研究所でそれぞれの研究に取り組んでいます。では、このあと3人の研究者の発表を聞いてみましょう」

第1部② 
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク

自己紹介・研究内容紹介

機械工学出身。細胞シートの技術を生かし、培養肉生産に挑む

東京女子医科大学先端生命医科学研究所・代用臓器学分野の研究室で博士研究員として活躍している田中龍一郎さんは、物理が好きで「目に見えるものをつくりたい」と早稲田大学創造理工学部・総合機械工学科に入学。4年次になると研究室に所属して卒業研究を行うのですが、ロボットや人工衛星、エンジンなどの一般的な工学系の研究室にはいまひとつ興味が持てなかったため、新しくできた研究室で3Dプリント技術を使って臓器をつくる研究に取り組みました。

大学院の修士課程からはTWInsへ。再生医療分野で活躍している研究者との出会いもあり、細胞シート内に血管構造をつくる技術やハイドロゲルの微細加工技術の開発に注力し、博士号を取得したそうです。

大学院修了後は、大学で研究する道や企業で開発に取り組む道などいくつかの選択肢がありますが、ちょうど博士後期課程3年目のときに培養肉研究プロジェクトが東京女子医科大学で始まったことから、思い切って培養肉の研究に飛び込みました。現在は、家畜から採った細胞を大量培養して、細胞シートの技術を使って成形し、高品質で安全、しかも環境負荷の低い培養肉の生産技術を確立したいと挑戦中です。培養装置の開発にあたっては、培養温度や培養液の攪拌速度、気相の制御など機械工学科で学んだ流体力学や制御工学の知識が役立っているとのこと。

進路選択のタイミングで興味を惹かれる研究テーマに出会い、研究を続けてきたという田中さん。もちろん目的を持っている方がモチベーションは上がるけれど、目的が見つからない場合でも、将来が見えないなかで勉強していたことが、後になって役立つこともあるので、目の前にあることを真面目にこなすことが大事!と語りかけました。

第1部② 
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク

自己紹介・研究内容紹介

「迷ったらやる!」がモットー。小児科医として大学院で研究に取り組む

勝浦美沙子さんは、小児科医でありながら大学院3年目。代用臓器学分野で、生体に移植するための細胞シートの研究に取り組んでいます。

勝浦さんが医学部をめざしたのは、「誰かに必要とされる職業に就きたい」という想いから。
医師の仕事は、日中に行う日直業務や夜間に行う当直業務があって忙しいことや、人命にかかわる仕事のため責任が重いこと、知識のアップデートが一生続くこと、女性であれば妊娠出産の時期の見極めが難しいといったつらいこともあるけれど、臨床医だけでなく、病理医や検査医、産業医、研究者など働き方の選択肢が多いこと、日々多くの人と交流でき、感謝されることも多く、実生活でも医学の知識が役立つなど、やりがいが大きい仕事だと語ります。
そんな勝浦さんが大学院で研究を始めたのは、先輩からの誘いがあって、大学病院に勤めているからには研究してみたいと思ったから。「迷ったらやる!」というのがモットーだそうです。

医師で研究をする強みは、臨床現場で生じた疑問を研究に結びつけることができるし、研究で得られた結果を臨床にフィードバックすることにあります。「ワークライフバランスに応じた働き方が選べる一方で、マルチタスクが必要になる」と話す勝浦さん。
26歳で結婚、小児科医2年目で大学院に進学し、30歳で男の子を出産。現在は研究がメインではあるけれど、当直や外来業務も継続しています。医師としてだけでなく研究者として、さらには母としてマルチに活躍する姿に、高校生たちは大きな刺激を受けたようでした。

第1部② 
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク

自己紹介・研究内容紹介

交換学生として、東京女子医大の研究室で藻類を使った培養液開発を進める

鈴木理子さんは早稲田大学先進理工学部生命医科学科の4年生。
中高校生時代はバレーボール部に所属して活躍。理系を選んだのは、理学系の科目、特に生物が好きだったこと、モノづくりに興味があったから。大学進学にあたっては、医療に興味があり、工学との融合が魅力的で、将来の選択肢も広そうだと生命医科学科を選んだとのことです。

理系は忙しそうというイメージがありますが実際はどうか、1年生のときの時間割を紹介してくれました。1~3年は授業と実験に明け暮れます。3年冬に配属先の研究室が決まり、4年から研究生活がスタート。ここからは自分で実験を計画し、スケジュールを自己管理していく必要があります。研究室選びは研究室を訪問して希望を出すのですが、人気がある研究室は成績順や、くじ引きで決まることもあるそうです。

環境・食料分野に興味があった鈴木さんは、培養肉がおもしろそうだと、現在は早稲田大に所属しながら、交換学生として、東京女子医大で藻類と動物細胞を用いて培養肉をつくる研究に取り組んでいます。
家畜から採取した動物細胞を大量に増やして立体組織とするには大量の培養液が必要ですが、従来の培養液は小麦から採った糖やアミノ酸に成長因子を加えて作られており、コストが高く、農薬を使うなど環境負荷も高いのです。そこで鈴木さんが進めているのが、水と空気、光があれば成長する藻類から新しい培養液を開発すること。どんな藻類が適しているのか、成分を解析したり、培養実験を行ったりして、その効果を検証しています。

卒業後も大学院に進学し、培養肉の研究を続けていきたいという鈴木さん。「ネットの情報よりも、いろいろな人と話し体験することによって、自分の進路を見つけてほしい」と参加者にアドバイスしてくれました。

第1部② 
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク

フリートーク

高校生の活発な質問に、大盛り上がり

3人の若手研究者の発表のあとは、会場の高校生たちとのフリートークの時間。
「臨床医と研究を両立するのは大変ではないのか」、「子どもの心について研究するには」、「企業の研究者と大学の研究者の違いはどこにあるのか」、「研究のおもしろさを感じるのはどんなときか」、「工学部から医療にかかわるルートとは?」など、次々に手が挙がり、休憩時間も質問したい人が先生のテーブルに集まりました。

第2部 最先端生命科学講義

講義① 「未来の医療を創る:医工融合による革新」

正宗先生の講義は、ペルーで発掘されたおよそ1万年~7000年前のヒトの頭蓋骨には、治療のためと思われる丸や四角い人為的な穴が開けられていたという話から始まりました。手術で使うメスや鉗子などは古代エジプト時代から存在し、現在のものと見た目はかわりません。いまも昔も、医学はその時代に利用しうる最高の知識と技術を用いて、ケガや病気を治してきたのです。

では、情報化が進み、生体の状況を把握するさまざまな機器が飛躍的に進歩してきた現代の医療に求められるものは何でしょうか。名医でなくとも、また遠隔地であっても、誰でもどこでも高いレベルの医療を提供できるよう、術者の目となる多様な情報をもとに正確にすばやく診断し、ロボットが手となり手術を支援してくれる「平等な医療」。患者の肉体的負担が軽減される「低侵襲な医療」。そして新しい手術器具やアプローチ方法で、従来困難だった疾病を治療できるようになることです。

工学部出身の正宗先生は、こうした課題をさまざまな機器がネットワーク化されたスマート治療室(Smart Cyber Operating Theater: SCOT)の研究を通して解決していこうと取り組んでいます。例えば脳とがんを見分けるのが困難な脳腫瘍の外科手術では、術中MRIとナビゲーション機能によって、摘出部位を正確に把握することができます。今後、さまざまなデータが一元的に管理されるようになれば、多くの患者さんのデータを学んだAIが、予後予測までも行えるようになるでしょう。

“病院に行く”から、オンラインで診断・治療が可能な“どこでも病院”が可能な時代になりつつあります。大型トラックと5Gの高速無線ネットワークを活用した「モバイルSCOT」という移動式のスマート治療室の実証実験も行い、さまざまな可能性が見えてきました。将来的にはヒューマノイドロボットが一人ひとりに寄り添い、在宅での超音波検査をはじめ、医療・看護・介護をサポートしてくれるというビジョンも掲げているそうです。

未来の医療を創るには、医学や理工学の知識だけではなく、心理学や倫理、社会学、法学、経済学などさまざまな学問分野の知見が融合することが不可欠。どの分野に進んでも、融合の大切さを理解し、大局観をもって取り組んでほしい!というのが、正宗先生からのメッセージです。

第2部 最先端生命科学講義

講義② 「幹細胞から心臓をつくる―再生医療最前線」

再生医療の第一人者で、心臓を創るという大きな夢を掲げると同時に、培養肉の開発にもチャレンジしているという清水先生。いったい再生医療と培養肉にどんな関係が?と疑問でいっぱいの高校生たちに、先生はまず、再生医療には、細胞源をどうするかという「幹細胞生物学」と、培養した細胞をどのように形づくり移植するかという「組織工学(ティッシュエンジニアリング)」の2つの柱があることから話し始めました。

細胞を移植するにあたってはいくつかの方法がありますが、清水先生が研究しているのが温度に応じて培養皿の表面が疎水性から親水性に変化し、細胞同士が接着したままシート状に回収できる「細胞シート」です。細胞シートは再生医療の現場で広く使われており、角膜上皮や心臓、食道、歯周組織、膝軟骨、中耳、肺など、身体の各部位で臨床研究が行われています。これらのなかにはすでに実用化されているものも。現在は、より厚い組織の構築を目指して細胞シートを積層化し、内部に血管網を構築しようという研究が進んでいます。

こうした医療分野での応用のほか、2018年からスタートしたのが、細胞シートづくりのノウハウを生かした培養肉の開発です。牛や豚などの筋芽細胞を大量に培養して筋肉組織をつくろうというもの。藻類を細胞の栄養源として使って培養肉を作れば、穀物を飼料に家畜を育てる場合より環境負荷ははるかに低く、SDGs的にも注目されているそうです。

今後ティッシュエンジニアリングの研究がさらに進み、臓器が培養でつくれるようになれば、さまざまな臓器の治療が可能になるでしょう。藻類を用いて光エネルギーで培養肉が生産できるようになれば、宇宙での食糧自給システムも構築できそうです。「空を飛ぶ車」など、かつては夢物語にすぎませんでしたが、いまや現実のものになりつつあります。清水先生の締めくくりの言葉は、「たゆまぬチャレンジが夢を実現します。みなさんも大きな夢をもってください」。

施設見学

医工連携の最先端を実感

3班に分かれて、地下1階から3階まで、TWInsの施設をまわりました。冠動脈バイパス手術の訓練シミュレータを間近に見たり、楽器演奏ロボットを眺めたり。細胞培養の実験室や組織臓器作製室、分析室などはドアの外から眺める程度でしたが、さまざまな機械が並ぶ様子や、無菌環境下で培養操作するために清浄を保つ必要があることなど、最先端の研究をリアルに感じる部屋ばかり。また、早稲田大学生命医科学科のオープンラボは、10の研究室(ラボ)が垣根を越えてつながりを深めることのできる開放的な環境で、大学での研究を思い浮かべ興味津々の様子。案内してくれる大学院生たちの説明に、高校生たちは真剣に耳を傾けていました。

実習 午前の部

1. 細胞培養および細胞シート操作

私たちの体をつくる組織や臓器を構成しているのが細胞です。再生医療は、機能が衰えた組織や臓器に、細胞や細胞からつくり出した組織を補充して機能を回復させる治療法。この実習では、細胞を増やすための細胞の継代操作と、温度によって性質の変わる培養皿を用いて、細胞をシート状に剥離して移植する手技を学びました。
最初のうちは電動ピペッターやピペットをこわごわ操作していた高校生たちも次第に慣れた手つきに。細胞シートの模擬移植では真剣そのもの。細胞シートが実際に角膜の再生医療や心不全の患者さんの治療に使われていることを知り、新しい医療にほんの少し触れた実習でした。

実習 午前の部

2. 動物手術室見学・医療系実習

はじめに、昨日の正宗先生の講義で登場したSCOT(Smart Cyber Operating Theater:スマート治療室)の模擬ルームを見学。AIにより切開や切除部位を誘導支援するナビゲーションシステムをはじめ、MRIによる脳画像データ、術中に採取した細胞の解析データなどさまざまな情報が統合される最先端の手術室にびっくり。
その後、別室に移動し、術着に着替えて、超音波診断装置を使って水溶液中の物体の形から容器の中に何が入っているかを当てる実習と、皮膚の疑似モデルを用いて医療現場で実際に行われている縫合処置を体験しました。

実習 午前の部

3. 簡易型人工心臓の作製

カプセルトイのケースを使い心臓のポンプ機能を体験する実習。国内で長年実績のあるダイアフラム型補助人工心臓と基本的に同じ仕組みで、血液の流入口と流出口にそれぞれ逆流しないように一方向だけに血液が流れる弁がついており、血液の入る部屋と空気の入る部屋を隔てる膜が空気圧で動き、血液が押し出されます。カプセルにビニールの膜をはさみ、両側にツノのように出ている塩ビ管に逆流防止の弁を取り付け、空気を送り込むシリンジ(注射器)をセットすれば完成。
心臓は1分間に約5リットルの血液を全身に送り続けています。では、高校生たちがつくった簡易型人工心臓は、1分間にどれくらいの水を送れるでしょうか? シリンジを手で必死に動かしても5リットルに到達させるのは大変で、「心臓ってすごい!」を実感しました。

自由討論、修了証授与

未来の医療を実現するために

締めくくりの自由討論は、サイエンスカフェの一連のプログラムを通じて疑問に思ったこと、知りたいことなどを自由に話し合う貴重な機会です。清水先生の司会のもと、ここでも次々に質問が寄せられました。
「将来は医師が不要な時代になるのか」、「遠隔での地域医療はどこまで進むのか」、「安楽死は許されるのか」、「医療の新しい技術で、世界の多くの人が救える日がやってくるか」、「清水先生が細胞シートや培養肉の研究を進めるにあたって影響を受けたものは」、「今後さらに克服しなければならない医療の課題は何か」、「iPS細胞を使えば不老不死は実現するのか」、「脳死や植物状態が元に戻ることはあるのか」――簡単に答えが出ない質問ばかりでしたが、清水先生は一つひとつの問いにていねいに答え、「新しい未来の医療を実現するために、夢を語り合ってほしい」、と熱く話してくださいました。