15県から32名の高校生が参加
2024年8月9日(金)・10日(土)
「人体化する新治療機器」
早稲田大学理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科 岩﨑清隆 教授
「心臓をつくる―再生医療最前線」
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長 清水達也 教授
青森県立青森高等学校
栃木県立大田原高等学校
千葉県立佐倉高等学校
神奈川県立厚木高等学校
富山県立富山中部高等学校
愛知県立一宮高等学校
愛知県立時習館高等学校
和歌山県立海南高等学校
島根県立松江南高等学校
岡山県立津山高等学校
高松市立高松第一高等学校
愛媛県立松山南高等学校
佐賀県立致遠館高等学校
長崎県立長崎西高等学校
大分県立佐伯鶴城高等学校
熊本県立鹿本高等学校
※寄せられた感想の一部を抜粋したものです
夏の大切な思い出となった2日間
青森県立青森高等学校(T・N)
2日間、非常に楽しく実りのある体験ができました。すべてが目新しく、驚きの連続でした。
1日目、若手研究者のお話は、進路決定に少々迷いのある私にいろいろな可能性を示してくれ、まだ考える余地があるなと、自分の将来を考え直すきっかけになったと思います。研究職の仕事の雰囲気を感じることができたのも新鮮でした。
その後の最先端生命科学講義は正直難しい内容でしたが、先生方の語り口に思わず耳を傾けてしまうほど、新しく学ぶことが多かったです。
夜の懇親会は最高でした。全国から集まった高い志を持った彼らはみんな趣向を凝らして自己紹介を短い時間で完成させていて本当にすごいと思いました。ユーモア満載で地域やその学校の特色が現れた、聞いていて楽しい自己紹介でした。私達も精一杯考えて、何とか楽しく終えることができてよかったです。食事を楽しみつつ、たくさんの人と会話ができたのも良い思い出の一つです。クイズ大会はチームで団結して優勝はできなかったものの、良い雰囲気で協力し、アイディアを出し合いました。
2日目は施設見学です。見たことがないような最先端の設備を拝見して肌で現状を感じることができました。3つの実習はどれも研究職のような作業を体験させてくれましたが、難しく、不器用なこともあり、あまり上手にはできませんでしたが、研究者さんたちの丁寧な指導で、無事終えることができました。
2日間通して私が最も強く感じたのはコミュニケーションの楽しさです。各地から来た先生方や、できた友達、大学生の方やカメラマンさんなど優しい方々が私の話を聞いてくれてとても嬉しかったです。
今回のサイエンスカフェは、夏の大切な思い出の一つになりました。
自分の将来像がはっきりと見えた
富山県立富山中部高等学校(R・T)
将来、工学系に進むか医学系に進むかと悩んでいたときにこのサイエンスカフェがあることを知りました。実習の内容やホームページを見て、「これは私の将来を大きく変えるかもしれない」と思い参加を決意しました。
私の弟は4年前クローン病という原因がまだわかっていない難病にかかりました。好きなものを好きなだけ食べられない様子をそばで見ていてどうにかしてこの病気の原因や治療法を突き止め、治したいと思うようになりました。
ただ、医学部に進むという選択肢はあまり自分ごとに捉えることができませんでした。
このサイエンスカフェではさまざまな講義を聞きましたがどの研究者の方もいきいきと自分の研究内容やこの先の未来について語っておられたのが印象的でした。
また、工学×医学という面でも新しい発見ばかりでとても興味深かったです。実習では特に細胞シートを作製したことが印象に残っています。さまざまな工程に責任感を持って取り組まなければいけないので、とても緊張しました。
このサイエンスカフェを通して難病の原因や治療法を見つけたいという自分の将来の夢に自信を持つことができました。工学部にいくか医学部にいくかはまだ決めきれていませんが、自分の将来像がはっきりと見えるようになりました。
3年生で参加したサイエンスカフェ
愛媛県立松山南高等学校(Y・K)
私はサイエンスカフェに3年生として参加しました。
夏休みは受験勉強をする必要があり、初めは参加しないつもりでしたが、将来医療の道に進みたいこと、そのために最先端の医療を学びたかったことから参加を決意しました。
参加するにあたって決めた目標の1つは「再生医療の進歩を知る」でした。もともと再生医療について興味があり、特に小学生のころ話題に上がったiPS細胞は無限の可能性を秘めていると思い、再生医療の進歩と将来の可能性を知りたいと思っていました。今回の講義や実技で細胞シートの仕組みや研究内容を理解できてさらに興味が膨れ上がりました。特に画期的だと思ったのは細胞シートを通して心臓病が治療できることです。
また清水先生の講義で夢と信念のお話を聞き、「今の非常識は未来の常識かもしれない」「差ではなく違いで勝負」という言葉に感動しました。私も他人と違うことがしたいと思っており、そのためにはさらに私自身の能力値をあげる必要があると改めて考えました。
私は将来放射線技師として医療の道に進みたいと考えています。最先端を扱えるように勉強を怠らず、また患者を救っているのは医療従事者だけではない、日々感謝の心をもって働ける人になりたいと考えました。
医療は多様な分野の融合で成り立っている!
佐賀県立致遠館高等学校(R・T)
講義を受けた中で最も衝撃を受けたのは、医療は医学だけで成り立っているのではなく、生物学や工学、化学などの多様な分野の融合によるものであると知ったことだ。このことを、細胞の培養やガチャのカプセルと塩ビ管を用いての簡易的な人工心臓の製作などの実習を通して、納得することができた。
また、同じように参加していた全国各地の高校生との出会いも衝撃的なものだった。自分の興味のあることについて積極的に質問や議論している姿を見てとても尊敬したし、懇親会の自己紹介やクイズ大会では、全国の高校の特徴や参加したみんなのいろんな一面を見ることができてとても面白かった。
若手研究者の方々のような自分の年齢と比較的近い人の話では、実際の大学の雰囲気や、高校時代どう過ごしていたかなど、とても身近で勉強になるような話をたくさんしていただけた。自分の将来について、いろいろな角度・視点から考えることができ、刺激を得た2日間だった。
講義を通して学んだ三つのこと
長崎県立長崎西高等学校(A・Y)
私がこのプログラムに参加しようと思ったきっかけはティラピアという魚の皮を使った皮膚の再生医療や培養肉に興味を持っており、現代の再生医療がどのくらい発展しているのかを自分の目で確かめたいと思ったからです。
1日目の講義を通して学んだことが三つあります。
一つ目は、講義をしてくださったどの先生方も、自分の夢や目標を持っていて、そこに向けて日々研究し続けているということを学びました。
二つ目は、医療というものは、医学だけでなく、工学、理学など様々な分野が組み合わさって成り立っているものだと学びました。多くの医療ドラマは、手術を行っている医療の現場や医療従事者に注目しがちですが、手術ロボットや医療器具などは工学の分野であるし、医療の発展には、研究が欠かせないということがわかりました。
三つ目は、清水先生のお話にあった細胞シートが様々なことに応用されているということを学びました。細胞シートは臨床の現場で使われていたり、培養食料を作ることができるなど、たくさんの可能性を秘めていてすごいなと感じました。
失敗してもめげずに楽しんで研究をしていきたい
熊本県立熊本高等学校(Y・Y)
今回サイエンスカフェに参加して、普段学校では受けることのできないレベルの高い講義や研究者の方々の話を聞くことができてとてもいい経験になりました。
参加するまでは医学系の話の内容だと思っていたけど、実際は工学や理学の内容も入っていて多方面からアプローチしているような話が多くて、自分の研究やこれからの進路選択でも参考にしていきたいと思いました。
特に印象に残っているのは実習の活動です。
最先端の手術室を見学して手術室をVRのようなもので見ることができたり、MRIなどの検査の結果が映ったディスプレイを遠隔で操作できたりと、今まで見たことのないものばかりでとても面白かったです。
また細胞シート作製もとても興味深く、一日目の講義で細胞シートの原理などは聞いていたけどイマイチイメージがわかなかったのですが、実際に実験してみてきれいに作るのがとても難しかったし、こんな実験をいつも何回もしていると聞いて研究者の方ってすごいなと思ったし、こういう細かい実験の積み重ねで大きな発見があるんだろうなと思いました。
研究者の方々が失敗を失敗と思っていないと言われていて、自分の研究はまだ何もできていないけど失敗してもめげずに続けていこうと思いました。
2日間という短い時間だったけど充実していて学びの多い2日間でした。ここで見たり聞いたりしたことを忘れずにこれからの学校生活に活かしていこうと思いました。そして何よりも本当に楽しかったし、研究者の方々も研究を楽しまれていたので私も楽しんで研究をしていきたいなと思いました。
12道県から30名の高校生が参加
2023年7月28日(金)・29日(土)
「未来の医療を創る:医工融合による革新」
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学 正宗賢 教授
「幹細胞から心臓をつくる―再生医療最前線」
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長 清水達也 教授
札幌日本大学高等学校
山形県立米沢興譲館高等学校
茨城県立竜ヶ崎第一高等学校
茨城県立並木中等教育学校
埼玉県立松山高等学校
山梨県立甲府南高等学校
北杜市立甲陵高等学校
群馬県立前橋女子高等学校
岐阜県立恵那高等学校
奈良学園中学校・高等学校
広島大学附属高等学校
高知県立高知小津高等学校
福岡県立城南高等学校
福岡県立鞍手高等学校
宮崎県立宮崎西高等学校
※寄せられた感想の一部を抜粋したものです
現在進行形で進められている最先端の研究に心が踊る
札幌日本大学高等学校(Y・Y)
今回サイエンスカフェの参加を通じて、現在進行形で進められている最先端の研究の概要やその課題について知ることができただけでなく、自分の進路選択を確固なものとするような経験や気づきを得ることができました。
正宗賢教授の話にあった、スマート治療室/SCOTからは、現代の情報化による医療機器の発達により、病気やその治療について莫大なデータを蓄積し、それをもとにAIを駆使して未来を予測するという工学的な面での医療の進歩を感じました。またその最終目標として掲げられていた、データ循環により、あらゆる場所に病院のような機能を付与するということが実現すれば、医療格差が深刻になっている日本にとって画期的な打開策になるという将来性を感じました。
清水達也教授の細胞シートの研究に至ったプロセスや現状、課題についての話は、生物学を学び、基礎医学研究に携わりたいと考えている自分にとって、今後の方向性を示してくれるものとなりました。培養肉関連の研究や心筋細胞の代替となる細胞シートの開発の話はどちらも今まで耳にしたことがなく、未来への可能性を大いに感じ、終始心躍りました。
また清水教授の研究者になるまでの話も印象に残っています。学生時代に漠然と持っていた目標が大学生時代の出会いやその後の経験によって変化し、最終的に現在の研究に至ったという話を聞き、清水教授ほどのその分野の第一人者の方でさえも、今に至る道はまっすぐではなかったということを知ることができました。
高校生という段階で、今後携わっていきたいと思えるような分野の研究に触れられて幸運だったと思います。
勇気を出して質問することで積極性や好奇心が高まった
群馬県立前橋女子高等学校(M・S)
2日目の実習は、研究者の方々と直接話せる機会や、高い志を持った友人と意見を交換できる機会がたくさんありました。そこで私が感じたのは、研究者の方々の熱意や、友人の進路選択への真剣さです。今まで大学受験がゴールのように感じていたため、偏差値のみを見て志望校を決めていた自分の将来への考え方の浅さに気づかされました。
研究に大きな熱意を持ち、いきいきと研究されていた方々のようになるために、興味のある分野に力を入れている大学や、どのような環境で研究ができるのかなどをしっかり調べて大学に進学したいと考えるようになりました。そうすることで、学習へのモチベーションも大きく向上しました。
また最初は気になったことがあっても質問できないことがありましたが、勇気を出して質問すると、とても丁寧に答えてくださいました。そしてその疑問について友人と話すことの楽しさを実感し、どんどん気になったことを聞き、友人と積極的に意見交換をするうち、自然と自分の積極性や好奇心が高まっていることに気づきました。
参加する前に想像していたより何倍も大きく成長し、刺激を受けることができ感謝しています。
医療に携わるには医学部というイメージが覆った
北杜市立甲陵高等学校(S・A)
私は医療系や生命に興味があったのですが、進路について迷っていたので今回のサイエンスカフェに参加しました。
今までは医学部に進学しないと、医療に携わることは出来ないと思っていました。しかし、一日目の講義を聞いて、これからの医学の発展には医学だけでなく、理工学や経済学と融合していくことが必要だと聞き、とても印象に残りました。
二日目の実習では、本物の手術器具を使って、縫合の体験をしました。医学生でも、高学年にならないとできないことを高校生で体験でき、貴重な体験をさせていただいたと思います。現役の医学生だけでなく、工学部の方々にも指導していただき、一日目で聞いた医工融合が実際に行われていると実感しました。
特に記憶に残っているのは人工心臓を作る実習の中で、工学部の方と交流したことです。工学部に入った方が脳疾患についての研究をしているとおっしゃっていて、「医療に携わるには医学部に進学しなければならない」というイメージが覆りました。
また、自分の周りに自分と近い分野に興味がある人が少なく、進路について話すことがなかったのですが、懇親会やクイズ大会で全国の同じような分野に興味を持つ高校生と交流を深めることができ、良い体験になりました。
進路のヒントを得た2日間
埼玉県立松山高等学校(S・A)
今回、サイエンスカフェに参加し、実際に医療の最先端に立っている先生や若手の研究者のお話を聞くことで、今までテレビや文字だけで見ていただけのふわついていた知識がしっかりとしたものに変わり、そして2日目に体験したことによりその知識を実感することができました。
実習の一つ、カプセルトイの簡易型人工心臓の作製では、今まで中学で学んできた心臓の構造がシンプルなものなのにどれくらいすごいのかが分かり面白かったです。
次に、このようなイベントならではの交流が僕の意識を変えました。
僕は自分のやりたいことは何なのか、どうやったらやりたいことができるのか分からず高校1年生ということもあり進路について考えていませんでした。しかし、先輩たちと話しアドバイスをもらっていく中で、自分のやりたいことではなく、勉強した中で興味を持ったことを突き詰めるのが良いと考えられるようになり、そして興味を持つにはアンテナを広くする必要があることを学べました。今まで考えていた進路選びよりも難易度が下がった気がして、「やってみよう」という気になれました。
サイエンスカフェに参加し、自分の中の医療に関する解像度が上がったり、進路についてヒントが得られたりととても充実した2日間を送ることができました。
やるかどうかを迷うより、迷ったら挑戦する
山梨県立甲府南高等学校(R・I)
最も印象に残っていることは、研究者の方々のお話です。
私は将来小児科医になりたいと思っており、小児科医と研究を両立してらっしゃる先生を見て、将来の選択肢は無限にあるのだと感じました。
また、人生の選択として、「拒否反応がなければ挑戦してみる」という言葉がとても心に響きました。中学生までは、なんとなく皆と同じことをして、親の言うことを聞いていれば生活できていましたが、高校生になり、いろいろな選択を自分でしなければならなくなりました。自由に自分の人生を歩んでいけるようになった反面、今まで経験したことのない「選択の仕方」の壁にぶつかることが多々ありました。しかし、やるかどうかを迷うより、迷ったらやる、というように決めることで、自分の人生はより豊かになるだろうと思いました。
サイエンスカフェに参加するまで、自分のやりたいことがはっきりしていませんでしたが、将来の自分の姿がはっきりと輪郭をもつようになりました。貴重な体験をありがとうございました。
理工系分野と医学分野の融合のいまを実感
広島大学附属高等学校(S・I)
僕は理学系の分野に興味があった一方で人の命にもかかわりたいと思い、サイエンスカフェで理工系分野と医学分野の融合の実際を知りたいと参加しました。
2日目のTWIns見学では、医療現場で使われており、医学と工学の技術を組み合わせた「スマート治療室」と呼ばれる手術室を見学することができました。データ分析をもとに患者の未来を予測できる技術や、ARを用いた手術のサポート技術はこれから必要になる技術であり、実際に活用もされているまさに生命医科学の最先端でした。
施設見学では、実際にここで実験・研究をしている早稲田大学や東京女子医科大学の大学院生の方に案内していただき、施設のことはもちろん、講義の様子や受験の時のお話を伺うこともでき、とても充実した時間となりました。
実習ではエコーの機械を実際に使ったり、縫合の練習をしたり、細胞シートを実際に触ってみたりと、サイエンスカフェでしか体験できないようなとても充実した一日となりました。
目の前にあるものすべてが今、そして未来の医療を支えていくのだと感じたとともに、21世紀の医療の中心となる再生医療を支えるのはこのような生命医科学なのだと実感することができ、これからの自分自身の進路を決める貴重な体験となりました。
13道府県から26名の高校生が参加
2022年7月27日(水)オンライン開催
再生医療の最前線~細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング~
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長 清水達也教授
ティッシュエンジニアリング~医療から食料まで~
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 代用臓器学分野 高橋宏信講師、
早稲田大学 先進理工学研究科 生命医科学専攻 博士課程2年 岡本裕太さん、
アメリカペンシルベニア大学3年生 筧路加さん
最先端の手術室 「Smart Cyber Operating Theater: SCOT」
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野
吉光喜太郎特任講師、山口智子特任助教
左右非対称性の進化生物学
早稲田大学教育・総合科学学術院 理学科生物学専修/
大学院先進理工学研究科生命理工学専攻
細将貴准教授、修士1年 秋元洋希さん、学部4年生 石川みのりさん
北海道北見北斗高等学校
北海道釧路湖陵高等学校
山形県立酒田東高等学校
新潟県立新発田高等学校
福井県立武生高等学校
三重県立四日市高等学校
京都府立洛北高等学校
鳥取県立鳥取西高等学校
香川県立観音寺第一高等学校
徳島県立脇町高等学校
佐賀県立致遠館高等学校
長崎県立長崎南高等学校
大分県立大分舞鶴高等学校
沖縄県立球陽高等学校
※寄せられた感想の一部を抜粋したものです
「当たり前」にフォーカスして疑問を持つことが研究の第一歩
山形県立酒田東高等学校(M・S)
先日の講義では、驚くべき最先端の研究を知る大きなきっかけになりました。その中でも、私は培養肉についての研究に興味を持ちました。食糧不足、牛のゲップによる地球温暖化の進行など様々な問題が生じ始めている中で、一頭の牛から数百万頭分もの牛肉を生産できるということを知り、研究が未来を支えているのだなと改めて感じました。
また、研究者になるうえで心配なことを質問させていただくと、吉光喜太郎先生が「面白いアイディアがお金そして人をも呼び寄せるのだ」と教えてくださいました。そして、身近にある「当たり前」にフォーカスして疑問を持つことが研究の第一歩であり、行き詰まったときに前進する方法であることを学びました。
サイエンスカフェを通して、アニメの世界でしかありえないとされていることが研究テーマとなり、そしてそれが本当に実現してきていることに気づきました。研究って難しそうというイメージが薄れ、研究することの魅力を感じました。今回学んだことを今後の課題研究、大学での研究、その後の進路にも役立てていきます。
科学技術における多分野融合の重要性を認識
山形県立酒田東高等学校(H・S)
サイエンスカフェに参加して、科学技術における多分野融合の重要性を改めて認識しました。先生方のご講義の中でもあったように、組織培養や遠隔治療などのこれからの日本社会で必要とされる技術は、医学はもちろん、工学や情報学など多岐にわたる分野の力が必要となります。また、そのような技術を実際に運用するためのルール作りには、経済や政治的な視点も必要となるはずです。私は将来がん治療の研究に関わりたいと考えているのですが、自分が専門とする分野の知識、情報だけではできることが限られてしまいます。そのため、学生のうちに多くの知識や他人の考えに触れて自らの視野を広げていきたいと思いました。
また今回の講座は、日本全国の高校生がオンライン上ではありながら一堂に会して自分の将来を語ったり、さまざまな情報を共有したりすることのできる貴重な機会だったと思います。全国各地に自分と同じように医学や科学分野全般に興味をもち、その道を志している仲間がいるのだと分かり、受験勉強へのモチベーションがより高まったように思います。ここで得た学びを自分の将来に生かせるように、これからも努力を続けていきたいです。
臨床だけでなく研究もやってみたい
新潟県立新発田高等学校 (K・M)
サイエンスカフェに参加して最も印象に残っていることは、清水達也教授の「細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング」という再生医療のお話です。
清水教授は、ご自身が研究されている幹細胞や細胞シート、それがどのようにして医療に用いられるかなど、丁寧に説明してくださいました。
僕は、将来医師になりたいと思っていましたが、サイエンスカフェに参加する前まではどちらかというと臨床に携わりたいと思っており、正直研究の分野にはあまり興味がありませんでしたが、清水教授のお話を聞いて研究もやってみたいと思うようになりました。
また、今回は医療の分野だけでなく、高橋宏信先生をはじめたくさんの興味深い研究をされている方々のお話もうかがうことができました。現在、すぐに世の役に立つ研究が重要視されている中で、基礎研究を怠らず、それとひたむきに向き合い、日々格闘している研究者の姿を拝見できたことも貴重な体験になりました。
僕自身も、そのような姿を見習い、これからより大きく成長していきたいと思います。
自由討論で進路のヒントを得ました
京都府立洛北高等学校 (E・W)
今回、普段生活する中では知ることができないようなことをたくさん知ることができました。
細胞シートは再生医療だけではなく、食料、それを通して環境への配慮にも繋がるところがとても凄いなと思いました。また、手術室が移動式となるという、ドラマでやっていたようなことが簡単にできるようになるのかと感動しました。さらに、カタツムリの右巻きや左巻きなど今まで考えたこともありませんでしたが、やはりそこには意味があったということで生命の凄さを感じました。
私は眼科医となることが夢でしたが、最近生命科学という分野を知り、とても興味深い分野だと感じ、今回少しでも追加の知識を得たいと思って参加しました。また、生命科学と同時に薬学にも興味を持ち始め、進路がなかなか1つに決めることができずにいましたが、最後の自由討論で「サブで自分のやりたいことをやればいい」という先生の言葉で、新しい道が自分の中に生まれたように感じます。まだ高校1年で、これから進路についてもっと悩むことがあると思いますが、今回の体験も踏まえて自分の人生を決めていきたいと思います。
スマート治療室による遠隔手術の実現が楽しみ
佐賀県立致遠館高等学校 (U・H)
私は、幼い頃から医療に興味があり、今は医師になるのを目標としています。今回、生命科学の最先端の研究について学べるということで、幅広い視野を持つためにも参加することにしました。
とくに印象に残っているのは、「最先端の手術室」の技術開発です。都会ではさまざまな医療設備が整っており、誰でも適切な治療を受ける機会が多くあるのに対して、地方では医師不足に陥るなど数多くの問題があり、死亡率の地域格差が生じているのが現実です。私は、地域医療を充実させることを目標としているので、スマート治療室により遠隔地でも高度な手術支援を行うという発想には感動しました。今後、研究が進み実現されるのが楽しみです。
サイエンスカフェに参加する前は、医師をはじめとする医療従事者が主体となり治療にあたるものだと思っていましたが、今回の講義を通して、化学や工学の面からもアプローチすることで、より精度の高い、安全な医療を可能にすることができると分かりました。今後も努力を続け、幅広く学び、多角的に物事を考えられる医師を目指していきたいです。
さまざまな学問を学び、多面的に物事を見ることができる人になりたい
佐賀県立致遠館高等学校 (K・K)
将来外科医になるという夢があり、生命科学について学び将来に活かしたいと思い参加しました。
最も印象に残ったのは細胞シートについてです。細胞シートを利用することで皮膚や臓器の修復をすることができるというのは興味深いものでした。先端的な医療技術は、普段病院で医師と会話するだけでは知ることのない技術であり、これまで考えていた以上に、医療によって治療が可能になる領域が広がりました。
また、カタツムリの左右対称性という研究にも興味を持ちました。右巻きのカタツムリが多く、左巻きのものは変異的で少数であったにも関わらず生き残っているのは、セダカヘビが右利きで捕食されにくいためだという明確な原因に驚きを覚えました。
「他分野についても見聞を深めると視野が広がる」というアドバイスをいただき、医療だけでなくさまざまな学問を学び、多面的に物事を見ることのできる人になりたいと思いました。
今のうちにたくさん失敗して成長したい
香川県立観音寺第一高等学校 (R・S)
今回のサイエンスカフェで特に印象に残っているのは、細胞シートの講義です。手術で細胞シートを装着しているところを初めて見て、患者本人の細胞を使って再生できているのは興味深かったです。今では医療から培養肉の研究にまで応用されているのには驚きました。さまざまな課題を乗り越えるために試行錯誤を繰り返したと想像すると、尊敬の念が尽きません。
私は高校で課題研究をしていますが、少し失敗しただけで諦めかけてしまいます。しかし、大学生や社会人になってからの試練を想像して、今のうちにたくさん失敗して成長しようと考えるようになりました。受験まであと半年ですが、大学合格がゴールではなく、医者になることを目指してがんばりたいと思います。
先生方のように、自分の興味のある好きなことを一生かけて学び続けることができるようになりたい。そして、視野を絞りすぎることなく、たくさんの情報に耳を傾けて、自分の可能性を広げるようにしたいです。本当に貴重な機会をありがとうございました。
再生医療の最前線~細胞シートを用いたティッシュエンジニアリング~
再生医療研究の第一人者の清水達也教授によるレクチャー。
幹細胞とは何か、再生医療研究で幹細胞が果たす役割などの解説のあと、再生医療がいまどこまで実現しているか、その最前線をわかりやすく紹介していただきました。角膜上皮や心臓、食道、歯周組織、膝軟骨、中耳、肺など、身体の各部で臨床研究が始まっており、中には商品化が進んでいるものも。
こうした医療分野での応用をはじめ、最近では、細胞シートづくりのノウハウを生かして、培養肉の開発も進んでいます。工学のノウハウと医療が融合して、新しい医療や未来の食料づくりなど、さまざまな展開が始まっているのです。
若いころは宇宙飛行士になるのが夢だったと語る清水先生のモットーは「夢と信念」。現在、細胞シートを積層化し、血管網を通すことでミニ心臓をつくろうと挑戦中です。
1.ティッシュエンジニアリング~医療から食料まで~
清水先生のラボで高橋宏信先生が取り組んでいるのは、細胞を培養して人工的に筋肉をつくること。筋組織へと分化誘導する際に、適度な電気刺激を与えて“筋トレ”すると、運動性の高い筋肉になるそうです。この成果を生かして、ラボでチャレンジしているのが、培養肉の開発です。
なぜ、再生医療ではなく、培養肉?と不思議に思うかもしれません。牛のゲップが出すメタンは地球温暖化の原因になっていますし、家畜のエサの栽培には大量の土地や水、穀物が必要で、人に必要な食料と競合するほか、牧草地を広げることは森林破壊につながるなど、最近話題になっている「SDGs(持続可能な開発目標)」の観点からも、「脱家畜」が求められているのです。
大豆などを使って肉の替わりとする代替肉はすでに商品化されていますが、先生たちが研究しているのは、筋肉の細胞を培養・組織化して“本物の肉”をつくること。単に細胞をかためただけでは、筋組織にはなりません。筋肉と同じように収縮し、かみごたえのある筋組織をつくる―この目標は、ある意味、再生医療でめざす組織づくりとも共通です。
高橋先生たちは、すでにウシの筋細胞からハムのような組織を作製することに成功。現在は、細胞組織を増やすときに使う培養液にクロレラなどの藻類を活用するなど、環境への配慮とコストの低減にトライしているそうです。
2.最先端の手術室 「Smart Cyber Operating Theater: SCOT」
「SCOT」とは、2019年に東京女子医科大学で運用を開始した最先端のスマート手術室。手術室内のさまざまな機器をネットワーク化し、手術中に撮影した画像や患者の状況を示す各種データをリアルタイムに統合管理し、治療の精度と安全性を上げ、医師のサポートを行うシステムです。
カーナビでドライブ中に今どこを走っているかがすぐわかるように、手術ナビゲーションシステムによって、メスなど術具の位置データとその部位の映像が映し出され、手術の進行状況が可視化されます。また手術中に撮ったMRI画像を見ながら、摘出する必要がある悪性腫瘍かどうかや、病巣を正確に取り除けたかどうかが確認できます。さまざまなデータを俯瞰的に監督する戦略デスクと、実際に執刀する医師とを分けることで、第三者的な視点で最適な意思決定が行える点も大きなメリットです。
さらに、こうした最先端の手術室のユニットを大型トラック内に搭載した「モバイルSCOT」の実証実験も進めています。地域によっては最先端の治療機器や診断機器などが導入されておらず、専門家も不足しているなど、医療の地域間格差が課題になっています。しかし、5Gなど最新の通信技術を使えば、大量の情報を瞬時に送受信できるので、遠隔地の患者さんのデータをリアルタイムで見ながら、専門の先生が患者を診たり、手術をサポートしたりすることが可能になります。医療の格差解消だけでなく、災害や事故の現場で、専門医が手術を遠隔支援するといった展開も期待できるでしょう。
吉光喜太郎先生は、「病院に行く」から「病院が来る」ことによって、一人でも多くの命を救いたいと、研究に取り組んでいます。
モバイルSCOT
3.左右非対称性の進化生物学
世界で約8万種いるといわれる巻貝を、2種類に分ける方法があります。それは右巻きか左巻きかということ。巻貝の殻口を正面に向けて立てたとき、殻口が右側にあれば右巻きで、左側にあれば左巻きです。サザエやタニシをはじめ、巻貝のほとんどが右巻きですが、数は少ないけれど左巻きのグループもいて、右巻きの種から独立に何度も進化してきたと言われています。
でも右巻きの種の中に最初に現れた左巻きの個体は、交尾ができないので子孫を残すうえでは圧倒的に不利です。いま存在する左巻きの種が、どのように生まれたのか、その謎を探究しているのが細将貴先生の研究室です。
先生は、右巻きの巻貝を食べるのに特殊化した捕食者がいれば、左巻きが生存に有利に働くのではないかという仮説を立てました。仮説を検証するために選んだのが、西表島と石垣島に生息し、ニッポンマイマイ属の左巻きの種と分布域が重なるセダカヘビです。まずは、下顎の歯の本数を比較し、セダカヘビ科のほぼ全種が“右利き”であることを発見。次に右巻きのカタツムリと左巻きの突然変異体をエサとして与えてカタツムリの生存率を比較したところ、左巻きのカタツムリが捕食されにくいことも突き止めました。さらに実際のフィールドで、ニッポンマイマイ属の右巻きの種がイワサキセダカヘビに食べられていることを、排泄物を調べて確認。そのほか、全世界の左巻きのカタツムリの分布とセダカヘビ類の分布を統計学的に比較するなどのさまざまなアプローチによって、左巻きカタツムリは、右巻きカタツムリを効率よく食べるように進化した「右利きのヘビ」に捕食されにくいために子孫を残すことができ、種分化したという仮説を実証できたのです。
細先生は、「右のハサミばかり大きいカニや、カレイやヒラメの目の位置、ネジバナの右巻き左巻きなど、それぞれの生物に左右をテーマにしたさまざまな物語があるはずで、これからもその謎解きにチャレンジしていきたい」と話しています。
写真左:セダカヘビの下顎の歯の本数は左右で異なり、右側が多い
写真右:セダカヘビが左巻きのカタツムリをどのように襲うかの実験
第1部① TWInsと医工連携の意義
工学と理学、医学が連携し、新しい医療をうみだすために誕生したTWIns
1日目の講義のトップバッターは、東京女子医科大学先端生命医科学研究所・代用臓器学分野で講師を務める高橋宏信先生です。
「講師といってもどんな役職なのか、大学の研究室がどんな構成なのか、みなさんにはピンとこないかもしれません」と、まずは教授や准教授、講師、助教の役割について紹介。「偉い先生じゃないからリラックスして」と緊張気味の高校生たちに呼びかけました。
高橋先生は、九州大学工学部卒業後、大学院で5年間学び、博士号を取得。その後、コロラド州立大学、ユタ大学を経て、2008年から東京女子医科大学で再生医療に取り組んでいるそうです。工学博士なのに、医学関係の研究所で講師? ちょっと不思議な気もしますが、もともとこのTWInsは、新しい医療をうみだすために、工学と理学、医学が連携する必要があるという理念でスタートしたもの。初代所長だった岡野光夫先生も工学博士で、温度によって表面状態(水との親和性)がかわる温度応答性培養皿を開発。この温度応答性培養皿を用いて作製された細胞シートは現在、再生医療の現場で大活躍しています。
「TWInsは1つの建物に東京女子医科大学と早稲田大学という2つの大学が入っているユニークな施設。人材の交流も盛んで、早稲田に所属しながら女子医の研究室で研究するなど、多様な人材が集まっています。このあと登場する若手研究者も、出身はさまざまながら、同じ先端生命医科学研究所でそれぞれの研究に取り組んでいます。では、このあと3人の研究者の発表を聞いてみましょう」
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
機械工学出身。細胞シートの技術を生かし、培養肉生産に挑む
東京女子医科大学先端生命医科学研究所・代用臓器学分野の研究室で博士研究員として活躍している田中龍一郎さんは、物理が好きで「目に見えるものをつくりたい」と早稲田大学創造理工学部・総合機械工学科に入学。4年次になると研究室に所属して卒業研究を行うのですが、ロボットや人工衛星、エンジンなどの一般的な工学系の研究室にはいまひとつ興味が持てなかったため、新しくできた研究室で3Dプリント技術を使って臓器をつくる研究に取り組みました。
大学院の修士課程からはTWInsへ。再生医療分野で活躍している研究者との出会いもあり、細胞シート内に血管構造をつくる技術やハイドロゲルの微細加工技術の開発に注力し、博士号を取得したそうです。
大学院修了後は、大学で研究する道や企業で開発に取り組む道などいくつかの選択肢がありますが、ちょうど博士後期課程3年目のときに培養肉研究プロジェクトが東京女子医科大学で始まったことから、思い切って培養肉の研究に飛び込みました。現在は、家畜から採った細胞を大量培養して、細胞シートの技術を使って成形し、高品質で安全、しかも環境負荷の低い培養肉の生産技術を確立したいと挑戦中です。培養装置の開発にあたっては、培養温度や培養液の攪拌速度、気相の制御など機械工学科で学んだ流体力学や制御工学の知識が役立っているとのこと。
進路選択のタイミングで興味を惹かれる研究テーマに出会い、研究を続けてきたという田中さん。もちろん目的を持っている方がモチベーションは上がるけれど、目的が見つからない場合でも、将来が見えないなかで勉強していたことが、後になって役立つこともあるので、目の前にあることを真面目にこなすことが大事!と語りかけました。
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
「迷ったらやる!」がモットー。小児科医として大学院で研究に取り組む
勝浦美沙子さんは、小児科医でありながら大学院3年目。代用臓器学分野で、生体に移植するための細胞シートの研究に取り組んでいます。
勝浦さんが医学部をめざしたのは、「誰かに必要とされる職業に就きたい」という想いから。
医師の仕事は、日中に行う日直業務や夜間に行う当直業務があって忙しいことや、人命にかかわる仕事のため責任が重いこと、知識のアップデートが一生続くこと、女性であれば妊娠出産の時期の見極めが難しいといったつらいこともあるけれど、臨床医だけでなく、病理医や検査医、産業医、研究者など働き方の選択肢が多いこと、日々多くの人と交流でき、感謝されることも多く、実生活でも医学の知識が役立つなど、やりがいが大きい仕事だと語ります。
そんな勝浦さんが大学院で研究を始めたのは、先輩からの誘いがあって、大学病院に勤めているからには研究してみたいと思ったから。「迷ったらやる!」というのがモットーだそうです。
医師で研究をする強みは、臨床現場で生じた疑問を研究に結びつけることができるし、研究で得られた結果を臨床にフィードバックすることにあります。「ワークライフバランスに応じた働き方が選べる一方で、マルチタスクが必要になる」と話す勝浦さん。
26歳で結婚、小児科医2年目で大学院に進学し、30歳で男の子を出産。現在は研究がメインではあるけれど、当直や外来業務も継続しています。医師としてだけでなく研究者として、さらには母としてマルチに活躍する姿に、高校生たちは大きな刺激を受けたようでした。
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
交換学生として、東京女子医大の研究室で藻類を使った培養液開発を進める
鈴木理子さんは早稲田大学先進理工学部生命医科学科の4年生。
中高校生時代はバレーボール部に所属して活躍。理系を選んだのは、理学系の科目、特に生物が好きだったこと、モノづくりに興味があったから。大学進学にあたっては、医療に興味があり、工学との融合が魅力的で、将来の選択肢も広そうだと生命医科学科を選んだとのことです。
理系は忙しそうというイメージがありますが実際はどうか、1年生のときの時間割を紹介してくれました。1~3年は授業と実験に明け暮れます。3年冬に配属先の研究室が決まり、4年から研究生活がスタート。ここからは自分で実験を計画し、スケジュールを自己管理していく必要があります。研究室選びは研究室を訪問して希望を出すのですが、人気がある研究室は成績順や、くじ引きで決まることもあるそうです。
環境・食料分野に興味があった鈴木さんは、培養肉がおもしろそうだと、現在は早稲田大に所属しながら、交換学生として、東京女子医大で藻類と動物細胞を用いて培養肉をつくる研究に取り組んでいます。
家畜から採取した動物細胞を大量に増やして立体組織とするには大量の培養液が必要ですが、従来の培養液は小麦から採った糖やアミノ酸に成長因子を加えて作られており、コストが高く、農薬を使うなど環境負荷も高いのです。そこで鈴木さんが進めているのが、水と空気、光があれば成長する藻類から新しい培養液を開発すること。どんな藻類が適しているのか、成分を解析したり、培養実験を行ったりして、その効果を検証しています。
卒業後も大学院に進学し、培養肉の研究を続けていきたいという鈴木さん。「ネットの情報よりも、いろいろな人と話し体験することによって、自分の進路を見つけてほしい」と参加者にアドバイスしてくれました。
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
フリートーク
高校生の活発な質問に、大盛り上がり
3人の若手研究者の発表のあとは、会場の高校生たちとのフリートークの時間。
「臨床医と研究を両立するのは大変ではないのか」、「子どもの心について研究するには」、「企業の研究者と大学の研究者の違いはどこにあるのか」、「研究のおもしろさを感じるのはどんなときか」、「工学部から医療にかかわるルートとは?」など、次々に手が挙がり、休憩時間も質問したい人が先生のテーブルに集まりました。
第2部 最先端生命科学講義
講義① 「未来の医療を創る:医工融合による革新」
正宗先生の講義は、ペルーで発掘されたおよそ1万年~7000年前のヒトの頭蓋骨には、治療のためと思われる丸や四角い人為的な穴が開けられていたという話から始まりました。手術で使うメスや鉗子などは古代エジプト時代から存在し、現在のものと見た目はかわりません。いまも昔も、医学はその時代に利用しうる最高の知識と技術を用いて、ケガや病気を治してきたのです。
では、情報化が進み、生体の状況を把握するさまざまな機器が飛躍的に進歩してきた現代の医療に求められるものは何でしょうか。名医でなくとも、また遠隔地であっても、誰でもどこでも高いレベルの医療を提供できるよう、術者の目となる多様な情報をもとに正確にすばやく診断し、ロボットが手となり手術を支援してくれる「平等な医療」。患者の肉体的負担が軽減される「低侵襲な医療」。そして新しい手術器具やアプローチ方法で、従来困難だった疾病を治療できるようになることです。
工学部出身の正宗先生は、こうした課題をさまざまな機器がネットワーク化されたスマート治療室(Smart Cyber Operating Theater: SCOT)の研究を通して解決していこうと取り組んでいます。例えば脳とがんを見分けるのが困難な脳腫瘍の外科手術では、術中MRIとナビゲーション機能によって、摘出部位を正確に把握することができます。今後、さまざまなデータが一元的に管理されるようになれば、多くの患者さんのデータを学んだAIが、予後予測までも行えるようになるでしょう。
“病院に行く”から、オンラインで診断・治療が可能な“どこでも病院”が可能な時代になりつつあります。大型トラックと5Gの高速無線ネットワークを活用した「モバイルSCOT」という移動式のスマート治療室の実証実験も行い、さまざまな可能性が見えてきました。将来的にはヒューマノイドロボットが一人ひとりに寄り添い、在宅での超音波検査をはじめ、医療・看護・介護をサポートしてくれるというビジョンも掲げているそうです。
未来の医療を創るには、医学や理工学の知識だけではなく、心理学や倫理、社会学、法学、経済学などさまざまな学問分野の知見が融合することが不可欠。どの分野に進んでも、融合の大切さを理解し、大局観をもって取り組んでほしい!というのが、正宗先生からのメッセージです。
第2部 最先端生命科学講義
講義② 「幹細胞から心臓をつくる―再生医療最前線」
再生医療の第一人者で、心臓を創るという大きな夢を掲げると同時に、培養肉の開発にもチャレンジしているという清水先生。いったい再生医療と培養肉にどんな関係が?と疑問でいっぱいの高校生たちに、先生はまず、再生医療には、細胞源をどうするかという「幹細胞生物学」と、培養した細胞をどのように形づくり移植するかという「組織工学(ティッシュエンジニアリング)」の2つの柱があることから話し始めました。
細胞を移植するにあたってはいくつかの方法がありますが、清水先生が研究しているのが温度に応じて培養皿の表面が疎水性から親水性に変化し、細胞同士が接着したままシート状に回収できる「細胞シート」です。細胞シートは再生医療の現場で広く使われており、角膜上皮や心臓、食道、歯周組織、膝軟骨、中耳、肺など、身体の各部位で臨床研究が行われています。これらのなかにはすでに実用化されているものも。現在は、より厚い組織の構築を目指して細胞シートを積層化し、内部に血管網を構築しようという研究が進んでいます。
こうした医療分野での応用のほか、2018年からスタートしたのが、細胞シートづくりのノウハウを生かした培養肉の開発です。牛や豚などの筋芽細胞を大量に培養して筋肉組織をつくろうというもの。藻類を細胞の栄養源として使って培養肉を作れば、穀物を飼料に家畜を育てる場合より環境負荷ははるかに低く、SDGs的にも注目されているそうです。
今後ティッシュエンジニアリングの研究がさらに進み、臓器が培養でつくれるようになれば、さまざまな臓器の治療が可能になるでしょう。藻類を用いて光エネルギーで培養肉が生産できるようになれば、宇宙での食糧自給システムも構築できそうです。「空を飛ぶ車」など、かつては夢物語にすぎませんでしたが、いまや現実のものになりつつあります。清水先生の締めくくりの言葉は、「たゆまぬチャレンジが夢を実現します。みなさんも大きな夢をもってください」。
施設見学
医工連携の最先端を実感
3班に分かれて、地下1階から3階まで、TWInsの施設をまわりました。冠動脈バイパス手術の訓練シミュレータを間近に見たり、楽器演奏ロボットを眺めたり。細胞培養の実験室や組織臓器作製室、分析室などはドアの外から眺める程度でしたが、さまざまな機械が並ぶ様子や、無菌環境下で培養操作するために清浄を保つ必要があることなど、最先端の研究をリアルに感じる部屋ばかり。また、早稲田大学生命医科学科のオープンラボは、10の研究室(ラボ)が垣根を越えてつながりを深めることのできる開放的な環境で、大学での研究を思い浮かべ興味津々の様子。案内してくれる大学院生たちの説明に、高校生たちは真剣に耳を傾けていました。
実習 午前の部
1. 細胞培養および細胞シート操作
私たちの体をつくる組織や臓器を構成しているのが細胞です。再生医療は、機能が衰えた組織や臓器に、細胞や細胞からつくり出した組織を補充して機能を回復させる治療法。この実習では、細胞を増やすための細胞の継代操作と、温度によって性質の変わる培養皿を用いて、細胞をシート状に剥離して移植する手技を学びました。
最初のうちは電動ピペッターやピペットをこわごわ操作していた高校生たちも次第に慣れた手つきに。細胞シートの模擬移植では真剣そのもの。細胞シートが実際に角膜の再生医療や心不全の患者さんの治療に使われていることを知り、新しい医療にほんの少し触れた実習でした。
実習 午前の部
2. 動物手術室見学・医療系実習
はじめに、昨日の正宗先生の講義で登場したSCOT(Smart Cyber Operating Theater:スマート治療室)の模擬ルームを見学。AIにより切開や切除部位を誘導支援するナビゲーションシステムをはじめ、MRIによる脳画像データ、術中に採取した細胞の解析データなどさまざまな情報が統合される最先端の手術室にびっくり。
その後、別室に移動し、術着に着替えて、超音波診断装置を使って水溶液中の物体の形から容器の中に何が入っているかを当てる実習と、皮膚の疑似モデルを用いて医療現場で実際に行われている縫合処置を体験しました。
実習 午前の部
3. 簡易型人工心臓の作製
カプセルトイのケースを使い心臓のポンプ機能を体験する実習。国内で長年実績のあるダイアフラム型補助人工心臓と基本的に同じ仕組みで、血液の流入口と流出口にそれぞれ逆流しないように一方向だけに血液が流れる弁がついており、血液の入る部屋と空気の入る部屋を隔てる膜が空気圧で動き、血液が押し出されます。カプセルにビニールの膜をはさみ、両側にツノのように出ている塩ビ管に逆流防止の弁を取り付け、空気を送り込むシリンジ(注射器)をセットすれば完成。
心臓は1分間に約5リットルの血液を全身に送り続けています。では、高校生たちがつくった簡易型人工心臓は、1分間にどれくらいの水を送れるでしょうか? シリンジを手で必死に動かしても5リットルに到達させるのは大変で、「心臓ってすごい!」を実感しました。
自由討論、修了証授与
未来の医療を実現するために
締めくくりの自由討論は、サイエンスカフェの一連のプログラムを通じて疑問に思ったこと、知りたいことなどを自由に話し合う貴重な機会です。清水先生の司会のもと、ここでも次々に質問が寄せられました。
「将来は医師が不要な時代になるのか」、「遠隔での地域医療はどこまで進むのか」、「安楽死は許されるのか」、「医療の新しい技術で、世界の多くの人が救える日がやってくるか」、「清水先生が細胞シートや培養肉の研究を進めるにあたって影響を受けたものは」、「今後さらに克服しなければならない医療の課題は何か」、「iPS細胞を使えば不老不死は実現するのか」、「脳死や植物状態が元に戻ることはあるのか」――簡単に答えが出ない質問ばかりでしたが、清水先生は一つひとつの問いにていねいに答え、「新しい未来の医療を実現するために、夢を語り合ってほしい」、と熱く話してくださいました。
第1部① TWInsと医工連携の意義
2つの大学が協力し、医療と理工学を融合させ、新時代の医療をめざす
高橋 宏信 (たかはし・ひろのぶ)
広島出身。九州大学大学院工学府で博士号(工学)を取得。アメリカ(コロラド州立大学・ユタ大学)で博士研究員として研究に従事した後、2008年から東京女子医科大学にて再生医療・組織工学の研究を始める。近年は骨格筋を人工的に作る研究しており、医療応用だけでなく培養肉生産への応用も目指している。
1日目の講義は2日目の会場となるTWInsと医工連携についての紹介から始まりました。
高橋先生は工学部出身。大学では「金ナノ粒子の光特性」を研究したそうです。金ナノ粒子と聞くと文字通り金色と思いがちですが、10ナノメートル程度の微粒子は赤色。一般常識が常識ではないおもしろさに研究の世界へと進んだ高橋先生は、工学博士号取得後に、バイオに興味があったことからアメリカに留学。帰国後に開設されたばかりのTWInsで再生医療の研究を始めました。
工学博士なのに、再生医療の研究!?と不思議な気もしますが、もともとTWInsは、工学と理学、医学が連携して新しい医療をうみだそうという理念でスタートした施設です。初代所長の岡野光夫先生も工学博士で、37℃で培養しているときには表面状態が疎水性で、20℃程度にすると親水性に変わるという温度応答性培養皿を開発。培養した細胞を回収するときにタンパク質分解酵素を使うと細胞がバラバラになってしまいますが、この培養皿を使えば細胞同士が手をつないだままシート状に回収できるため、細胞の機能が損なわれることなく移植する部位にピタッと張り付きます。こうして誕生した細胞シートが現在、再生医療の現場で大活躍しているのです。ちなみに、岡野先生のもとで細胞シートの開発と臨床応用に力を入れてきた大和雅之教授は理学博士、心臓のように拍動する心筋シートを手がけている清水達也教授は医学博士。異分野の融合によって再生医療のツールが誕生したというわけです。
「みなさんが明日見学・実習を行うTWInsの正式名称は、東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設。1つの建物に東京女子医科大学と早稲田大学という2つの大学が入っていて、再生医療をはじめ、インテリジェント手術室、医療機器の開発や評価方法の研究、ロボットなど、医療と理工学とが融合した最先端のテーマに挑んでいます。早稲田に所属しながら女子医の研究室で研究するなど相互交流も盛んです。このあと登場する若手研究者も、出身はさまざまながら、ここTWInsでそれぞれの研究に取り組んでいます。では3人から、高校・大学生活の思い出や現在の研究を紹介してもらいましょう」
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
高田 淳平(たかだ・じゅんぺい)
本郷高等学校を卒業後、早稲田大学創造理工学部総合機械工学科に進学し、同大学で博士号を取得。現在は総合機械工学科助教として医療機器の有効性・安全性を生体外から評価する試験システムを開発。
大学教員になった立場から振り返る学生生活
第2部の最先端生命科学講義に登場する岩﨑清隆教授の研究室で助教を務める高田淳平先生の専門は、医療機器の有効性や安全性などの性能評価。以前は動物実験での評価が主流でしたが、倫理的な問題やコストや時間がかかることから、生体内の環境を再現した回路や疾患状態を模擬したモデルを作り、コンピュータシミュレーションで耐久性を試したり、血液が固まったりしないか、生体内に入れても安全かなどを調べるのです。
高田先生はもともと数学と物理が得意でF1レースも好きだったことから、クルマ関係の研究ができる機械工学科を志望。大学時代は1日かけて芝刈り機のエンジンを分解したり、筋電信号を読み取って動くロボットを作ったり、パスタで建物を作りどれくらいの重さに耐えられるか実験したりと、基礎を学びつつさまざまな実験に挑戦してやりたいことを探ってきたそうです。
そんな中で選んだのが埋込み型補助人工心臓などの医療機器の開発や評価を行う研究室でした。卒業研究では、日本初の国産人工弁開発プロジェクトに参加したそうです。大学院では専門的な研究に打ち込む毎日。海外で開かれる学会に参加するなど視野も広がりました。「世界的に活躍できる人になりたい」と博士課程へ。英語が苦手で論文では少々苦労したものの、博士号を取得し、現在はよりよい治療を社会に提供したいと研究を進めています。
そんな高田先生の高校生たちへのアドバイスは、「急がば回れ」。勉強も研究も近道はなく、基礎力こそが最終的な成績につながることを強調。もう一つが「友人を大切に」。中学高校時代は、文系理系を問わずいろいろなことに興味がある仲間と触れ合える貴重な場です。それが生涯の財産になると締めくくりました。
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
片桐 絢子(かたぎり・じゅんこ)
京都府立医科大学医学部を卒業後、京都第二赤十字病院を経て東京女子医科大学病院心臓血管外科に入局。主に小児心臓外科の臨床に従事し、医師10年目に大学院へ進学。間葉系幹細胞を用いた新しい治療の研究を行う。
心臓血管外科の医師として10年。36歳で大学院に進み、新しい治療法を研究中
小学校時代からマンガやテレビドラマの影響もあって「外科医がカッコイイ!」と医師をめざしたという片桐先生。中高校生時代は中高一貫の女子校で軟式テニス部に所属していたそうです。医学部に進んでからは軟式テニス部のキャプテンのほか、バンド活動やアルバイトにも精を出し、「やりたいことをなんでもやってきた」と語ります。当初は産婦人科医を志望していたものの、初期研修でいろいろな科を経験するなかで、急性大動脈解離の大手術で入院した患者さんが元気になった姿を見て心臓血管外科を選択しました。
心臓血管外科の手術にあたっては心臓を止めて、人工心肺装置を使うことが多いといいます。これは心臓の代わりに全身に血液を循環させるポンプ機能と、肺の代わりに二酸化炭素を取り除き、酸素を取り入れるガス交換機能をあわせもった機械です。ダイナミックさと緻密さが求められる仕事にやりがいを感じた片桐先生は、その後、小児の先天性心疾患を専門に取り組みます。
そんな先生が大学院に進んだのはなぜでしょう?
「10年働いて、現在の治療法の限界が見えてきたのです。たとえば先天性心疾患の赤ちゃんは、大動脈の血管などが細いケースが多いのですが、その治療には動脈の血管の狭い部分を切り開き、修復パッチなどの補填材を使って広げます。でもパッチは大きくならないので、何度も手術をしなくてはなりません。小児の成長に合わせて成長するパッチが作れないだろうか? 新しい治療法を研究してみたいと考えました」
現在は疾患を再現したラットを用いて、間葉系幹細胞を使った再生医療の研究に取り組んでいるそうです。
「チャレンジはいつからでもできます。己を知り、自分自身の強みを生かした選択をしてほしい」と高校生たちに呼びかけました。
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
自己紹介・研究内容紹介
鈴木 沙羅(すずき・さら)
上智大学理工学部物質生命理工学科卒業後、早稲田大学大学院先進理工学研究科生命理工学専攻に進学。現在修士1年。東京女子医科大学と共同で、血管網のある3次元組織の構築を研究している。
将来の夢を実現するために3年ぐらいのスパンで人生設計を
鈴木沙羅先生は現在修士1年。上智大学理工学部でタツノオトシゴの胎盤について研究後、早稲田大学の岩崎清隆教授の研究室へ。現在、再生医工学研究班に属し、移植可能な膵島組織構築のための条件を探る研究を行っています。
高校時代、進路選択にあたって一番重視したのは、自分は何が好きなのか、何に最も興味があるのかでした。社会人となれば1日8時間、週5日間働きます。その中で飽きずに取り組み続けられて、かつ社会に貢献できることは?
数学や読書は好きだけれど、人体のしくみや発生などの生物がおもしろそうだと考えていたときに出会ったのが、『「細胞シート」の奇跡-人はどこまで再生治療できるのか』という本でした。細胞でヒトの移植用組織が作れる未来が来る。そういう仕事がしたい!と強く感じたそうです。
では移植用の臓器や組織について学べる学部はどこかを考えると、生物、医学、工学それぞれの分野の知識が必要だということがわかりました。こうして鈴木先生は、大学では生物学を専攻し、大学院で医学と工学について学び博士号を取ろうと決意。大学では自由で専門分野以外の授業も選べるし、やろうと思えば何でもできるけれど、行動しなければ何も得られないので、目的意識を持つことが大切。大学院は授業より圧倒的に研究の時間が多く、計画性が求められることなど、ご自身の経験を踏まえながら進路選択と人生設計についてアドバイスしてくれました。「将来の夢を実現するために今何をやるべきかを3年ぐらいのスパンで考えるとよい」とのことです。
現在は早稲田大学大学院に所属しながら、東京女子医科大学と共同で、糖尿病の根本治療をめざし、インスリンを供給する膵島β細胞の細胞シートを用い、血管網のある立体組織にするための培養装置の設計や培養法の工夫に取り組んでいます。
「研究は失敗もするけれど、成長するためのデータが1個増えたと思えばどれも楽しい。少しずつ真理に近づいていく感じが好きです」
第1部②
TWInsの若手研究者たちとのフリートーク
フリートーク
質問が次々に!
3人の若手研究者の発表のあとは、会場の高校生たちからの質問タイム。
「研究するうえで思うような結果が出ないとき、どのように課題と向きあっていますか」、「高校で生物を履修していない場合、細胞や生物の知識をどうカバーしましたか」、「論文を読むコツを教えてください」、「実験するときに大切にしていることは?」、「今から振り返って、高校生活でやっておけばよかったと思うことはありますか」、「学問分野をまたいだ研究がしたいとき、どのように学部を選んだらよいでしょう」、「AIを研究に取り入れていますか」、「モチベーションを保つには?」など、次々に手が挙がりました。課題研究などに取り組んでいる生徒も多く、失敗したときに落ち込まないためには、といった研究の苦労に関連した質問も多く見受けられ、「プロでも失敗するので気楽に」というアドバイスに、生徒たちはみなホッとした表情。休憩時間も質問したい人が先生のテーブルに集まり、あれこれ問いかけていました。
第2部 最先端生命科学講義
講義① 「人体化する新治療機器」
岩﨑 清隆(いわさき・きよたか)
1997年 早稲田大学理工学部機械工学科卒、博士(工学)。早稲田大学助手、講師、ハーバード大学ブリガム&ウーマンズ病院組織工学再生医学研究所研究員、早稲田大学高等研究所准教授等を経て、2014年より早稲田大学理工学術院教授。新しい医療機器の有効性と安全性を検証するための非臨床試験機器と評価法の開発、動物由来の生体組織の脱細胞化技術を用いて人工靭帯を作る技術の実用化を進める。
岩﨑清隆先生は、ヒトの体に置き換わっていくような新しい医療機器の開発を進めています。
医療機器には(1)MRIや内視鏡などの「診断機器」、(2)人工関節や心臓ペースメーカー、カテーテルなどの「治療機器」、(3)コンタクトレンズや家庭用マッサージ器など多様な「その他の医療機器」があります。近年、新たな価値を生む革新的な医療機器や低侵襲な治療機器へのニーズが世界的に大きく拡大しています。
しかし、不具合が起きた場合のリスクが高い医療機器の開発にあたっては、安全性や有効性を十二分に確認する必要があります。そこで岩崎先生の研究室で手がけているのが、病態を再現する実験装置を作って検証すること。たとえば心臓の大動脈弁を置換する手術では、実際の患者さんの血流循環と心臓の弁の特徴を再現する透明なモデルを3Dプリンターで作って調べます。また血管内に留置する冠動脈ステントなどは10年の試験が必要ですが、実際に10年もかけるわけにはいかないので、より速く寿命を調べるための装置で加速試験を行い評価します。こうした評価用のデバイスを作るのも、機械工学分野の重要なテーマなのです。
岩﨑先生がいま力を入れているのが、体内でヒトの組織になる治療機器の開発です。たとえば、スポーツをしているときなどに起こる膝の前十字靭帯断裂。年間で1万人に4人が受傷し、日本では毎年約2万件もの手術が行われています。現在の治療法は、大腿骨と脛骨に穴をあけ、自分の脛の下から採取した長細い腱を4ツ折りにして穴に通し金属で固定する方法です。自分の腱を取らなくてはならないし、細いと再断裂してしまいます。
そこで先生たちが考案したのが、ウシの組織から細胞を取り除いて使うこと。中に含まれる細胞だけを溶かして移植します。この脱細胞化技術で使われているのが電子レンジの原理なんだとか。電子レンジは1秒間に約24億回も水分子を振動させて料理を温めているわけですが、それと同じように拍動流下でマイクロ波を照射することによって生じる振動エネルギーでDNAを溶かします。
人に使うためには滅菌が必要ですが、生ものなので乾燥させたらダメになってしまいます。この難題は、3年間完全に水分がなくなった状態でも水に戻すと生き返るアフリカの砂漠地帯にすむネムリユスリカの幼虫に含まれる糖を使うことで解決。開発した脱細胞化技術を用いて作ったウシの腱をヒツジに移植したところ、52週後にはすっかり定着し、境界がわからないほど骨と一体化、引張試験を実施しても、ヒツジ自身の腱からと遜色がないほど丈夫なことがわかりました。
現在この技術は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査が終了し、再建術が必要となる膝前十字靭帯を損傷した患者さんを対象にした治験の開始が決定。近い将来、世界で年間80万人に及ぶとされる患者さんに新たな治療を提供できる見通しだそうです。
最後に先生は「Fail ≠ Failure」と書かれたスライドを示しながら、エジソンの「失敗したんじゃない、1万通りのうまくいかない方法を見つけたんだ」という言葉を紹介。失敗で学ぶことこそイノベーションに必要だと、高校生たちに強調しました。
第2部 最先端生命科学講義
講義② 「心臓をつくる―再生医療最前線」
清水 達也(しみず・たつや)
1992年東大医学部卒、循環器内科医師。1999年より東京女子医科大学先端生命医科学研究所で心筋組織再生・構築の研究をスタート。2011年同教授、2016年同所長。組織工学の再生医療・創薬モデル・培養食料への応用を展開。2007年第1回循環器再生医科学賞、2009年 文部科学大臣表彰科学技術賞、2015年度 日本再生医療学会賞など。
再生医療の第一人者の清水達也先生は、開口一番、自身の「夢と信念」という信条を紹介しながら、生徒たちに夢を語ることの大切さや、教科書をうのみにしないこと、情報を見抜くこと、良いライバルをもつことなど、夢を実現するために重要な心得を語り始めました。
では、清水先生の夢は? それは心臓をつくること。そのために挑んでいるのが細胞シートの3次元化です。細胞シートとは、再生医療で細胞を移植する際の手法の一つ。温度に応じて表面が疎水性から親水性に変化する培養皿を用いることで、細胞同士が接着したままシート状に回収できます。iPS細胞からつくった心臓の筋肉の細胞をこの培養皿で培養すると、なんと拍動するのです。
細胞シートは現在、身体の各部位で臨床研究が行われており、角膜輪部から採取してシート化したものは再生医療としてすでに実用化。また、食道ガンで内視鏡で切除したあとに口腔粘膜シートをかぶせると治りが良いとして治験が進んでいます。気胸の患者さんには繊維芽細胞シートを用いてパンク修理のように穴をふさぐ臨床研究が始まっているそうです。
しかし細胞シートで心臓そのものをつくれるかとなると、簡単ではありません。何層も重ねて厚みを増した細胞シートに血管を通し、栄養を供給しなければならないし老廃物の処理も必要です。多くのブレイクスル―が求められます。
細胞シートの活躍場所は再生医療だけではありません。患者さんのiPS細胞から分化させ遺伝子の変異をもった細胞シートをつくり、病態を体外で再現させて創薬のモデルとすることもできます。
このような細胞シート研究で培った技術やノウハウを武器に、いま清水先生たちが取り組んでいるのが培養肉です。筋肉細胞を重ねたハム状の試作品はすでに完成していますが、培養液の値段が高いためにコストが高いことが課題だとか。
とはいえ、気候変動や家畜のエサと食料の競合、食料安全保障などを考えたとき、持続可能なタンパク質生産のための技術を開発しておくことはSDGs的にも重要です。
藻類を用いて光エネルギーで培養肉が生産できるようになれば、宇宙での食糧自給システムも構築できるとか。かつて宇宙飛行士になるのが夢だった清水先生、「培養肉を宇宙での食料に」と新たな夢に向かって研究を続けています。
かつて夢物語と考えられていたウルトラマンが持っていたテレビモニタ付きの腕時計や、ルパン三世で登場したクローンなどは、いまや現実のものに。清水先生の締めくくりの言葉は、「たゆまぬチャレンジが夢を実現します。みなさんも大きな夢を掲げ、大いに語り合ってください」。
施設見学
3班に分かれて、医工連携の現場を見学
2日目はTWInsの地下1階から3階までの施設を見学。東京女子医大と早稲田の施設がシームレスにつながっていることにびっくり。各班に引率の大学院生が2人つき、細胞培養、化学合成実験、機器分析室などの部屋ごとに、内容を説明してくれました。再生治療に使われる細胞シートを作製している実験室は、部屋の外からガラス越しに覗いただけですが、最先端の研究所であることが実感できました。
前日研究内容をしてくれた高田先生がさまざまな装置について解説してくれた
心拍動下における血管吻合手技を練習できる冠動脈バイパス手術訓練装置
外から見学する部屋も
ゼブラフィッシュやイモリなどの水棲動物飼育室
早稲田大学医科学科のオープンラボは、各研究室の壁がなく広々
各先生の研究内容を紹介するポスターに興味津々の生徒たち
実習
① 細胞培養および細胞シート操作
細胞を培養し増殖した細胞を新たな培養皿へ移し替える細胞の継代操作と、細胞シートの模擬移植の実習。まずは皮膚の線維芽細胞を顕微鏡で観察するところから始まりました。ピペットや電動ピペッターを使って、培養液を加えたり、洗浄のために緩衝液を加えたり。慣れないピペット操作に最初は四苦八苦。タンパク質分解酵素を加え、遠心処理をし、インキュベーターで加温…とそれぞれの作業の意味を理解しながら、指導してくれる先生の指示に従います。
最後の模擬移植では、培養皿を冷やすと細胞シートがみるみる剥離していくのが観察できます。培養液を除去後、細胞シートの上に支持膜を乗せて細胞シートを回収し、支持膜ごとゴム手袋の甲の上に乗せて膜をはがすと、無事移植完了!あちこちで「やった!」の声が上がっていました。
実習
② スマート治療室デモルーム見学・医療系実習
医療系実習に入る前に、最先端の医療機器を備えたスマート治療室(SCOT)デモルームを見学しました。MRIやCTなど各種の医療機器のデータや、腫瘍が悪性かどうかなどをその場で確認できる機器、画面にさわることなく見たい画像を操作できるモニタなどが揃っている近未来の手術室に生徒たちは大感激。
その後別の部屋に移動します。サージカルガウンを無菌状態のまま着用する方法を教わったあと、2つの実習に取り組みました。超音波診断装置(エコー)の操作体験は、実際に医療現場で使用されている装置を使い、水溶液の中に何が入っているかを当てて、エコーの原理を学ぶもの。もうひとつが、皮膚の疑似モデルを使った傷口の縫合手技体験。ピンセットと鉗子(かんし)を用いて、パックリあいた傷口を縫うのは、予想以上に難しく、生徒たちは完成した縫合キットを大切に持ち帰っていました。
実習
③ 簡易型人工心臓の作製
カプセルトイのケースを使って国内で実績のあるダイアフラム型補助人工心臓の簡易版を作り、心臓のポンプ機能を学ぶ実習です。ダイアフラムとは、血液の入る部屋と空気の入る部屋を隔てる膜のこと。血液の流入口と流出口にそれぞれ逆流しないように一方向だけに血液が流れる弁がついていて、駆動装置によって膜を動かすことによって血液室から血液が押し出される仕組みです。
カプセルをドライヤーであたためて、ビニールの膜をはさみこみダイアフラムに。カプセルから出ているツノのようなパイプに人工弁をセットし、カプセルのお尻に空気を送り込む注射器(シリンジ)を取りつければ完成。これを実験装置にセットし、シリンジを動かして水を160cmの高さまで送り出します。心臓は1分間に約5リットルの血液を全身に届けているけれど、では高校生たちがつくった簡易型人工心臓はどれくらいの水を送れるでしょうか? 一生動き続ける心臓のすごさを実感した実習となりました。
自由討論、修了証授与
未来の医療を実現するのは高校生たち
締めくくりの自由討論は、サイエンスカフェの一連のプログラムを通じての感想やさらに知りたいことなどを自由に話し合う時間。司会は清水先生です。「医師のバックにいろいろな人がいることを学べた」という感想をはじめ、さまざまな質問が寄せられました。
「医療技術が進歩するとさらに人間の寿命はのびるのか」、「培養肉が1枚10万円もするけれど、どうしたらもっと安くなるのか」、「いつか動物実験をしなくてよくなる日は来るのか」、「最新医療機器や薬はどんどん高くなっているイメージがあるが、コストを下げるためにどうしたらよいか」‥‥清水先生は一つひとつの問いにていねいに答え、「新しい未来の医療を実現するために、高校生たちが突破口を見つけてほしい」と生徒たちに呼びかけました。