公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」

第1章 食べる前にもっと観察してみよう
〜 意外と知らない身近な植物のこと

渡辺
生物の授業では人間や動物のことはたくさん教わるけれども、植物のことは「植物って、たいしたことないよね」と思われているせいか、習う量が非常に少ない。でも実は、遺伝の概念もメンデルのエンドウ豆の研究から始まったし、細胞やウイルスの発見も植物の研究によるもので、植物の基礎研究は生命科学に大きく寄与してきました。また、植物は「自家不和合性」といって、自分と他人をきちんと識別する仕組みを持っていて、すごく賢いんですよ。
まずは、その賢い植物が作った果実を見てみよう。皆さん、知らないことが結構たくさんあると思いますよ。ここに用意したピーマン、トマト、ズッキーニ、オクラ、リンゴ、トウモロコシを「科」という分類で分けたら、どうなりますか。

渡辺先生の研究室で、まずは身近な野菜と果物を前に植物の基本を確認

一同
……。
渡辺
皆さんは普段、ただ「おいしい」って食べているだけじゃないかな。大学では「蔬菜園芸」、あるいは「野菜園芸」という言い方をして、野菜の種名や生育の仕方などを習うわけですが、そのとき分類は非常に大事で、すべての基本となります。例えば、イモリとヤモリは似ているけれども、両生類とハ虫類という別の分類になるでしょ。それと同じように、これらを分けられますか。ちなみに、この野菜は何?
立石
ズッキーニ。
渡辺
そう。じゃあ、どれとどれが仲間?
立石
トマトとピーマンかな? 種子の付き方が似ているし。
渡辺
それで……。
横山
えーっと、これとこれが。
渡辺
友達同士? どうして?
高澤
何か見た目が似ている。
渡辺
分類の方法でいえば、最近はもう完全に遺伝子の配列で分類してしまいますが、リンネ*という人が行った植物分類の基本は、花の形なんです。「この花とこの花は似ています」というものを集めると、正しく分けられる。例えばサクラやモモ、アンズなどは花びらが5弁でバラ科。「バラは花びらがたくさんあるのに…?」って思うかもしれませんが、野生のバラは5弁なんですね。 ということはつまり、皆さんはここにある野菜や果物の花を知っていますか、ということになりますが。
*カール・フォン・リンネ(1707〜1778):スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。「分類学の父」と呼ばれている。
一同
無理(笑)。(※と言いつつ分類に挑戦するが、正解には至らなかった)
渡辺
答えは、この2つだけが仲間で、それ以外はバラバラ。これがイネ科、これはウリ科、バラ科、ナス科、これはアオイ科です(※正解は本ページの最後に掲載)。
では、中がどうなっているか。今から切ってみましょう。
一番感動するのは、たぶんリンゴかな。普段、リンゴを切るときは、みんな縦に切るでしょ。横に切ったことがある人いますか。種子はどんなふうに付いてる?
小松
こんな感じですか。(※指で形を示す)
渡辺
いい線いってるね。では切ってみよう。ポイントは、頂点がいくつあるかということ。

リンゴの断面。頂点を数えてみると・・・

高澤
5つ!
渡辺
じゃ、リンゴの花びらの数は?
高澤
5枚。
渡辺
植物の形は、基本数をいろいろなところに引きずっています。 種子が入る場所を心皮といいますが、花びらが5枚だったら心皮の数も花びらと同じだったりする。100%ではないけれども、そういうふうに揃っている場合があります。
じゃあ、次にズッキーニを切ります。これが結構、面白いんだな。いい感じに切れたけど、頂点の数は?
立石
1、2、3、4、5、6個。
渡辺
6個と数えるか……。
過足
3個?
渡辺
大きく数えたら3個だよね。で、この模様に見覚えはありませんか。最近はもうテレビでやらなくなったのですが、君たちのおじいちゃんやおばあちゃんがよく見るテレビ番組で……。
小松
水戸黄門?
渡辺
そう、水戸黄門の「三つ葉葵」という模様。水戸黄門の家来が「控えおろう」って見せる。似てるでしょ(笑)。
ズッキーニはウリの仲間(ウリ科)なのですが、ウリ科は普通はこのように輪切りにする。しかし、同じウリ科でもスイカは違います。縦にしか割らないはずで、スーパーに売っているものもほとんど縦に割っています。それはなぜか? 僕はある人から聞いたのですが、江戸時代、スイカを横に切って水戸黄門の葵のご紋が出てくると、徳川家に対して盾突いていることになるからご法度だと。

ズッキーニの切り口。写真でははっきり見えないが、切り口には三つ葉葵のような模様が現れる

一同
(笑)
渡辺
そういう歴史を引きずって今の食文化があるから、縦に切るのです。それより後になって入ってきたもの、例えばキュウリは、もちろん昔からあるのでしょうが、キュウリの場合はこの模様があまりくっきりと見えないし、サイズも大きくないからOK。でも昔の人は、キュウリも基本的には輪切りではなく、細長く切っていたようです。

■分類の正解

ウリ科:ズッキーニ
バラ科:リンゴ
ナス科:トマト、ピーマン
アオイ科:オクラ
イネ科:トウモロコシ

ついでに花もチェック!

  • ズッキーニ

  • リンゴ

  • トマト

  • ピーマン

  • オクラ

  • トウモロコシ

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