公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」

第2章 学究と産業の結節点としての植物学
〜 自家不和合性とは?

渡辺
僕らが研究している「自家不和合性」は、要するに自分の花粉ではなく、他人の花粉でだけ受精するという受精システムです。
もともと植物はこんなものを持っていませんでした。植物が持っていたのはもう少し単純な仕掛けで、自分の花粉と他人の花粉を識別しないで、雄しべと雌しべが熟するタイミングをずらし、同一個体での受精を避ける方法でした。
例えば、1つの花の中に雄しべと雌しべがあっても、雄しべが熟したときに、つまり雄しべの花粉がパーッと散ったときに雌しべが未熟であるか、すでに別の花粉で受精が終わっていたり、もう年老いた状態になっているかのどちらかだったら、自分の花粉をスルーできるわけです。これを「雌雄異熟」といいます。
トウモロコシが一番いい例で、1つの個体で雄花のほうが先に散るんですね(雄性先熟)。雄しべと雌しべの熟するタイミングがずれるということは、1個の花では実が取れないということ。だから、トウモロコシの場合、「1つの畑に最低10個体ぐらい植えてください」と言うんですね。聞いたことはありますか。

トウモロコシは、雄しべと雌しべの成熟時期がずれることで自家受精しないシステムだ。そこで、受粉するためには、10株程度植えるとよいとされる
図版提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

立石
知りません。
高澤
私も。
渡辺
10個体ぐらいないと、いいタイミングで彼氏と彼女が出会わないということですね。
そして、この雄しべと雌しべの熟するタイミングをずらす雌雄異熟システムに自分と他人の花粉を識別するシステムを加えた進化形が、「自家不和合性」です。
自家不和合性は、両方の性、つまり雄しべと雌しべがある状態の、いわゆる被子植物の花粉と雌しべの柱頭・花柱との相互作用の結果、起きます。だから、裸子植物というのは卵がむき出しになっていて、受精する形になっているので、自家不和合性は起きないのです。

被子植物と裸子植物の受粉の違い

渡辺
では自家不和合性はどのような分子メカニズムになっているのか? 簡単にいうと、雌しべの柱頭側に鍵穴があって、自分の彼氏から来た鍵と、ピッタリ合うようになっています(下図の左側)。ピッタリ合うと、自分の花粉だという情報が細胞の中に流れ、花粉管は伸びることができません。つまり、受精できないわけです。一方、他個体の花粉は鍵の形が違う。自分だという情報が伝わらないので、花粉管が伸びて受精することができるのです。自他の花粉を識別できる、非常に優れたセンサーを持っているんですね。

アブラナ科植物における自家不和合性のメカニズム

アブラナ科植物の自家不和合性。他個体の花粉が柱頭に付くと花粉管が伸びる
図版提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

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