公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」

第1章 食べる前にもっと観察してみよう
〜 進化と栽培化(ドメスティケーション)の違い

渡辺
次はトマトを切ってみよう。皆さんは品種改良といったときに何をイメージしますか。断面を見てください。種子が入る部屋が何個ある? 6つあるでしょ。これこそ品種改良の最たるものです。野生種は、種子が入る部屋は、対称に2個しかありません。もともとは小さくて硬かったわけです。
好き嫌いはありますが、一般的に種子が入っているこのじゅくじゅくしたところがたくさんあるほうが好まれます。そういうリクエストに応えて、変異を作り出して心皮の数を増やし、大きくて柔らかいトマトになっていった。それが品種改良の歴史です。だから、野菜を見ることは、実は品種改良を理解することでもあるわけです。
今日、おうちに帰ってミニトマトがあったら、ぜひ横に切ってみてください。ミニトマトの中はたぶん2つです。1個ということはないですし、3個あるかもしれないけれども、基本は2つ。

心皮が6つに分かれているのがよく分かる

野生種のトマトと現在のトマト
模式図提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

渡辺
もともとそういった種子が入る部屋は植物によって決まっています。例えば、僕らが研究している菜の花は、種子が入る場所は2つしかない。ペンペン草、知っているでしょ。ハート形が並んでいるペンペン草。あれも、種子は両側にしか入らない。実はインドで栽培される菜の花には、3つあるものもあるのですが、そういうのは極めて珍しいわけです。

ハート形に特徴があるアブラナ科のペンペン草(ナズナ)

渡辺
品種改良とは、別の言い方をすれば、一つは野生種を栽培化するということ。もう一つは、今はやりの言葉、進化なんです。ところで、みんなは「トマトの進化を研究しましょう」と言われるのと、「 大昔、○○山にあったローカルな野生のトマトが今のようなトマトになった。 トマトがどうやって栽培化されていったのか研究しましょう」と言われるのでは、どっちがかっこいいと思う?
立石
栽培化。
渡辺
えっ、栽培化のほうがかっこいいんだ。
高澤
進化。
渡辺
高澤さんは、進化のほうがかっこいい。
過足
栽培化。
渡辺
すごいな。僕は絶対、皆さん、進化と言うと思ったんだけど、皆さんはどちらかというと応用指向かもしれない。自分の行きたいところが理学部の生物ではなく、農学部と思っているからかな。
一同
……。
渡辺
農学では「栽培化(ドメスティケーション)」という言い方をするのですが、ドメスティケーションという言葉は、野生のものが小さいとか、食べると少し苦いとか、場合によってはちょっと毒があるとか、そういう性質をだんだん減らす方向で作っていくことを意味します。それが栽培化であり、人間がおいしく食べられるようにするわけですね。
一方、進化というのは何万年とか何十万年のような単位で、すごく長い時間をかけて自然界で何かが自然に起こるということ。だから、スピード感が全然違うんですね。栽培化というのは、グイッと無理やり引っ張ってくることなのです。

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