公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」

第2章 学究と産業の結節点としての植物学
〜 植物の受粉システム

渡辺
さあ、ここから「自家不和合性」についてお話ししますが、その前に少しだけ植物の受粉について整理しておきましょう。
植物には、同じ株の中に雌雄が別の花として存在しているものがあります。典型的な例として皆さんが小学校で習うのはヘチマですが、スイカもそうで、両方ともウリ科です。
スイカの雄花の花粉で戯れたハチが雌花の上に行くとスイカが実るわけですが、もし隣でメロンを作っていて、ハチが間違ってメロンに行ったらどうなる? 高澤家は畑でスイカを作っていて、すぐ隣の横山家ではメロンを作っている。横山さんは「ハチさん来ないで」って言う?
横山
言わない。
渡辺
じゃあ、横山家ではスイカメロンみたいなのができる?
横山
できない。
渡辺
どうして、できないの?
横山
自分の花粉かどうか、そういうことが分かっているから。賢いから。

スイカは雄花と雌花があるため、昆虫が花粉を雌しべに運ぶ
写真提供:今治市立乃万小学校 校長 村上圭司氏

渡辺
そう、植物は賢いね。自分と同じ種(しゅ)だということをきちんと認識するシステムが雌しべに存在するということです。人間や動物は脳みそがあって賢いというようなことをよく言いますが、そんなことはなくて、生きとし生けるものはちゃんと雌雄が分化しているんですね。 ただ植物の場合、多くは1つの花の中に雄しべと雌しべが存在しているのが普通です(雌雄同花)。
では皆さんが普段食べているもので、 雄株と雌株がある植物を何か知っていますか。
高澤
普段食べているもので?
渡辺
そう、スーパーで普通に見かける野菜。
横山
えーっ?
渡辺
アスパラガス。アスパラガスは雄株と雌株、別々です。おまけに性染色体があるといわれています。
小松
アスパラガスの雄株と雌株は、どうやって見分けるんですか。
渡辺
厳密にいえば、Y染色体に連鎖したマーカーというのがあり、PCR*すれば見分けることができます。でも、そんなことをしなくても、もっと簡単に見分けられます。アスパラガスは雄株のほうが立派。だから、皆さんが普段食べているのはみんな雄株。売っている苗も雄株です。
*PCR(Polymerase chain reaction):ごく少量のDNAを大量に複製する方法
一同
ああ!
渡辺
アスパラガス以外では、パパイヤがそうです。植物は動物のように自由に動けないので、1つの花に雌雄のどちらかしかないという状況で次世代を残していくには、生育に適した温度とか、いろいろな虫が飛んでくるとか、雌雄の株が別々でも心配なく子孫を残せる環境が必要になります。

ちょっと整理!

雌雄同花 1つの花に雌しべと雄しべがある アブラナ科、ナス科、マメ科など、多くの被子植物
雌雄異花 機能する雌しべを持つ雌花と、機能する雄しべを持つ雄花が別々の花にある スイカ、キュウリ、トウモロコシなど
雌雄異株 雌花がつく株と雄花がつく株が別々 アスパラガス、パパイヤなど
渡辺
さて、植物であろうと人間であろうと、原理原則は「他殖性」です。自分の遺伝子を子孫に残そうとしたときに、自分と遺伝的に違うものをセットで残そうとするのが生き物の基本的なやり方。これが「他殖性植物」で、例えば、同じ花に雄しべと雌しべがあっても、雄しべと雌しべが熟する時期をずらすことで、自分の花粉で受精することを避けています。
一方、自分の花粉でもOKという「自殖性植物」もあります。 皆さんがよく知っている、一番単純なのはペンペン草です。自分の花粉がついても全然何の問題も起きない。それはなぜか? 実は誰も分からないのです。
植物の自殖や他殖については、『種の起源』で有名なあのダーウィンも興味を持って実験しています。次に紹介する「自家不和合性」についても1876年に著した本の中で紹介されていて、これによって「自家不和合性」が世に広まったと言われています。

被子植物の多くは、遺伝的な多様性を保つため、自分の花粉では受精せず、同種の他個体の花粉(他家花粉)で受精する。この仕組みが「自家不和合性」だ。一方、ペンペン草やイネやコムギなど、自分の花粉で受精(自家受精)できる植物もある。栽培種のトマトも「自家和合性」だ
図版提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

コラム
ダーウィンが提唱した「自殖の進化」

種の増殖にとって効率的なのは、自分の花粉で受精する「自殖性(自家受粉)」。一方、同種の他個体の花粉で受精する「他殖性(他家受粉)」は、いつ虫が来るか分からないため、常に受け身の状態になってしまう。これだけを考えると自家受粉が有利に思えるが、それでは遺伝的な組み合わせの多様性がなくなってしまう。
このことに疑問を持ったダーウィンは、マルバアサガオをはじめ、さまざまな科の植物で受粉の実験をした。交配を進めると、他家受粉では通常に生育する一方、自家受粉では小さくなった。これを「自殖弱勢」といい、同一個体での受精を繰り返すことで、遺伝的に弱勢な劣性ホモが生じやすく、結果的に小さくなる現象を指す。
しかし、ダーウィンが実験を続けたところ、自殖6世代目で突然大きい個体(ヒーロー)が登場し、それ以降はいくら自殖を繰り返しても、自殖弱勢が現れなかった。いわば自殖を繰り返すうちに“進化“したのだ。
ダーウィンは 1876 年に『The effects of cross and self fertilisation in the vegetable kingdom(栽培植物における自殖と他殖の影響)』*を著し、交配相手が少ない条件下では自殖が繁殖に有利な性質となるという仮説を提唱したが、残念ながらこのメカニズムはいまだ解明されていない。

*ダーウィン著作集3『植物の受精』として、文一総合出版から訳書も出版されている。興味のある人はぜひ読んでみては?

マルバアサガオ(ヒルガオ科サツマイモ属)

他殖性植物の自殖への適応
本来は他殖性のマルバアサガオ何世代にもわたり自殖したところ、5世代目まで「自殖弱勢」により小さな個体が出現したが、6世代目で突然、他殖個体よりも大きくなり、以後は何世代自殖しても自殖弱勢が現れることはなかった。ダーウィンは自殖に適応し大きくなった6世代目を「ヒーロー」と呼んだ
図版提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

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