中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」
第1章
食べる前にもっと観察してみよう
〜 10μmの花粉の果てしない旅
- 渡辺
- 最後にトウモロコシ。わざわざ最後まで残しておいたのですが、これは何?
- 小松
- ひげ?

参加者の前でトウモロコシのハスク(皮)がむかれ説明が始まる

まずは触って、ひげ(?)を抜いて実物でじっくり観察
- 渡辺
- 人間の顔に生えているひげと同じ? これは、おまけで付いているわけ?
- 立石
- どこから生えているのかしら。
- 渡辺
- そういうことです。これは、どこから生えているの。1本1本どこにいっているの。
- 立石
- あ、抜けちゃった。
- 渡辺
- 食べるとき、みんなはこれを取るよね。もう無造作に、ガーッてはがすよね。皮をむく前は先端にちょっとだけ出ている、これ、何だと思う? 撮影した写真も見てください。

トウモロコシの先端部からもじゃもじゃと出ているのは何かな
写真提供:渡辺正夫教授
- 小松
- 雄しべ?
- 過足
- 雌しべ?
- 渡辺
- それ、実は雌しべなんです。雌しべの先端はよく見ると分かるとおり、ひげがあるでしょ。みなさんがいうひげに小さい毛が生えている。根でいうと根毛のようなのが横にチュチュッと生えているでしょ。別にツルツルでも構わないのに、どうしてこんなものがなくてはいけないのかな?
- 横山
- 花粉が引っ掛かりやすいから。
- 渡辺
- そう、花粉を引っ掛けやすくするために、わざわざこういう仕組みを作っている。それから、もう一つ考えてほしいんです。この雌しべの長さはどれぐらいあると思う?
- 立石
- この根元のところまでですか。
- 渡辺
- 当たり! 根元のところまできているのが一番長い。つまり、トウモロコシ自体の長さが約20cmで、その上にこうやってモジョモジョと花粉を受け止める部分が10cmぐらいあるから……。
- 立石
- 30cm?
- 渡辺
- そう、ざっと30cm。彼氏である花粉は、雌しべの彼女のところに行くまでに、つまり受精するまでに30cmの旅をすることになるんだよね。
じゃあ、今度は花粉の大きさを考えてみよう。この顕微鏡写真で見ると分かるように、100μm(0.1mm)の中に雌しべの先端がだいたい5〜10個あるんですね。花粉の幅は雌しべの先端ぐらいの大きさ。雌しべの先端が10個あると考えたら、花粉は1個10μm、つまり0.01mm。そうすると、彼氏が旅をしなくてはいけない距離はどれぐらい? 30cmは花粉の大きさの何倍?

雌しべの先端(柱頭)の拡大写真(アブラナ科植物の一例)。柱頭に花粉がつくと花粉管が伸びて、花柱を通り、雌しべの下部に位置する子房へと進む。花粉管が子房内の胚珠の中の胚のうにある助細胞に達すると、花粉管から精細胞が放出され、胚のう内にある卵細胞と受精する。その後、受精卵は分裂して成熟し、一つの種子になる。つまり、トウモロコシのひげ(柱頭・花柱)の数と粒(種子)の数は同じだ
図版提供:渡辺研究室・増子(鈴木)潤美女史

熱のこもった説明をする渡辺教授。小中高でのアウトリーチ活動も、既に1,000件を超えるという
- 過足
- 3万倍。
- 渡辺
- 3万倍って、どれぐらい遠いと思う?君たちの身長で考えると、身長が1.6mとして、1.6m×3万で4万8000m。48kmだから、フルマラソンより長い距離を、彼氏は彼女に会うために走らなきゃならないってことになる。
- 立石
- すごい!
- 渡辺
- それから、ここに用意した中で、トウモロコシと他の5つとは違いがあるんだけれど、何だと思う?
- 一同
- ……。
- 渡辺
- ピーマンやトマト、他の5つは実を食べるでしょう。じゃあ、トウモロコシは?
- 高澤
- 種子を食べる?
- 渡辺
- そう。純粋に種子を食べているのです。種子のどこを食べているかというと、実は胚乳を食べています。普段、みんなは何も考えないで食べていると思うけど、こんなふうにいろいろ知れば、野菜も面白いでしょう。

トウモロコシの粒の約80%を占めるのが胚乳