中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第4回
植物のたくみな生殖戦略
「自家不和合性」
第3章 「僕の夢」「私の未来」を話そう
- 渡辺
- 最後に、今描いている将来の夢を、過足君からお願いします。
過足俊介(よぎあし しゅんすけ)君(福島県立福島高等学校2年)
- 過足
- もともと数学が好きで、将来は理系、理科とか数学の研究者になりたいという夢がありました。また2016年に金星探査機「あかつき」の軌道修正に成功したというニュースがあり、それがきっかけで物理や宇宙にも興味を持ちました。今回この場に参加させていただき、生物にも興味を持ったり、学校で地学とかいろいろな分野に触れる中で自分が今後何をしたいか、まだ迷っている状態です。
- 渡辺
- そうか、迷っているんだ。
- 過足
- 迷ってはいるのですが、東大志望なので、1、2年の教養課程で学んでみて自分が一番興味を持てたものについて追究していくのかな、と自分では思っています。
- 渡辺
- たしかに、大学によっては入った時に選ばなくてもいいところもあるね。でも、一方では、何をしたいかはっきり決めてから大学に行ったほうが、しっかり研究できるんじゃないかなとも思います。過足君はまだ1年半あるので、そのあたりは少し考えてもいいでしょうね。
- 過足
- はい。まだ時間があるので、もっといろいろなことに参加し深めていこうと思います。
- 渡辺
- 一つだけ言っておきます。いろいろなことを知れば知るほど、あれもこれもやりたくなるものです(笑)。「悪魔の法則」と呼ばれていますが、知れば知るほど目移りする。それは絶対そうで、トランプのカードのようにいっぱい並べて、どうしようと悩むのは当たり前のことなので、なるべくどこかで「えいや!」で決めるか、カード自体を減らしていく努力をしないと。これは過足君だけではなくて、皆さんも同じです。
横山夏海(よこやま なつみ)さん(山形県立米沢興譲館高等学校3年)
- 渡辺
- じゃあ、横山さん。
- 横山
- 私は農学か工学を学びたいなと思っていたのですが、今の言葉を聞いて「農学にしないと!」と思いました。小さい頃からずっと発展途上国の人たちを助けたいという思いがあり、農学を学べばそれができるんじゃないかと考えています。
- 渡辺
- なるほど、良い夢ですね。
- 横山
- ありがとうございます。できれば博士になりたい。その後に就職し、実技というか、知識だけではなく、発展途上国に行った時にきちんと生かせるよう、そういう現場の知識とかも身につけたいです。その上で発展途上国に行って農業などを教えたいのですけれども、この前、講演に来てくださった先生が「発展途上国におなかが膨れている子どもたちがたくさんいるのは、おコメばかりを食べているからだ」とおっしゃって、栄養が全然取れていないから、手足はガリガリでおなかだけ出ているということを知りました。だから、私は野菜について学びたい。野菜の育て方を教え、できれば自分で起業して雇用を増やしてというふうに考えています。
- 渡辺
- いろいろな意味で、現場のことを理解しておくことは大事です。でも博士になる必要があるかと言われると、それはいつも言うのですが、「その仕事をする上で博士は必要ですか」ということ。たしかに、研究をするのであれば、ドクターは海外に出た時に持っていなくてはいけない。でも、大学を卒業した後、企業に入ってからドクターを取る人もたくさんいます。それもありなんですね。大学でドクターを取ることばかりが最善ではなくて、大学を出た後、大学院には行かないで、例えば海外で活躍をしながら何かをまとめるやり方もある。それは皆さんにも言えることです。
- 横山
- 大変だと思いますけれども、頑張りたいです。
- 渡辺
- ぜひ、夢を実現してください。
高澤瑞希(たかさわ みずき)さん(宮城県宮城第一高等学校3年)
- 高澤
- 最初、私は文系のほうに進もうかなと思っていました。でも、中学校の科学の実験が、単純だけどすごく楽しいなと思っていたとき、たまたま学校で配られたチラシに「科学者の卵」のことが載っていました。そのチラシを見たのは中学2年生か3年生でしたが、高校生じゃないと入れないという条件があったので、「高校生になったら絶対に応募しよう」と心に決めたんです。高校は理数科で、そこは結構、課題研究や実験に力を入れていて、研究することの楽しさというか、とことん突き詰めていくのが性に合っているように感じました。だから、そういう何か自分が楽しいなと思うことを、大学に行ってできればなと思っています。でも、「科学者の卵」とかでいろいろな知識が……。
- 渡辺
- 入り過ぎて?
- 高澤
- はい。入り過ぎてしまい、本当にどうしようみたいな。全部、楽しくて……。一つしか選べないというか、絞り込むのが今はちょっとつらいという状況に陥っています。
- 渡辺
- やばいな。一番、やばいパターンだ(笑)
- 高澤
- 路線としては今興味があるのが遺伝子なので、遺伝子の研究か医療系かなと。遺伝子とがんの関係性のようなことを昔から調べたくて、そういう方向に進めればとは思っています。でも、その研究はいろいろな学部でできると聞いたので、それもまたどこに行けばいいのか悩んでいるという感じです。
- 渡辺
- 研究をする上で医者になることが必要だったら、医学部に行くしかないですよね。けれども、サイエンスとしてがんの研究をしている人はたくさんいます。理学部系の生物をやっている人、農学部系で動物をやっている人、それはたくさんいるんですね。だから、研究を何に役立てたいかということ。それと、もう一つ。実験することが好きなのはいいんです。でも、まいた種(たね)は収穫しなくてはいけない。きちんと論文としてまとめないのであれば、最初から実験はやめたほうがいい。実際、まとめられない人がたくさんいます。とにかく、論文としてきちんとまとめる力をつけることも大事です。
- 高澤
- 頑張ります。
立石朱紗美(たていし あさみ)さん(宮城県仙台二華高等学校2年)
- 渡辺
- 立石さんも最初は文系が好きだったとか……。
- 立石
- 小学校の時から文系科目のほうが得意で、好きで、ずっと文系に行くと思っていました。でも、中学校2年生の時、学校でやっている課題研究の中でミドリムシに出会ってしまい、「ああ、かわいい!」と思い、そこから頭が理系になってしまいました。
- 渡辺
- ミドリムシで変わった?
- 立石
- はい。そのまま理系に進んで、「科学者の卵」もすごく面白そうだなと思って高1の時に応募しました。その当時、ミドリムシの研究をしたいというところまでは決めていましたが、それを何に使うのか。食品や化粧品、医薬品などいろいろ使い道がある中でどれに使うかが決め切れないでいたんです。「科学者の卵」の研究発展のプログラムでがんの研究をなさっている堀井教授の研究室に通わせていただいて、改めて自分が何をやりたいんだろうかと高2になってから考えました。
- 渡辺
- で、どうなりました?
- 立石
- 食品や化粧品も面白いかなと思いつつ、がんの治療にも使えるかもしれないという段階なので、まだ分かりません。でも、がんをやりたいなというふうに思っています。今どこまで研究が進んでいるのかわかりませんが、今のところは、医学部をめざすのがいいのかなと思い、やっと固まってきた感じです。
- 渡辺
- なるほど。
- 立石
- 「科学者の卵」で、渡辺教授や堀井教授がすごく親身になって教えてくださったり、積極的に関わってくださったので、 将来もし研究者になれたら、 私もそういうふうに誰かに影響を与えられる人になれたらなという思いもあります。だから将来、研究者になったとしても、誰とでも広く関わりが持てる人になりたい。
- 渡辺
- それはとても大事なことです。これから先、サイエンスがより複雑化していく中で科学リテラシーを皆さんの中にどうやって浸透させていくか、これは非常に重要なことだと思います。その気持ちを忘れずに進んでください。
小松優香(こまつ ゆうか)さん(聖ウルスラ学院英智高等学校3年)
- 渡辺
- では、小松さん、お願いします。
- 小松
- 私は昔から食べ物に興味があって、ロッテから乳酸菌ショコラという製品が発売された時、ホームページで仕組みなどを調べたりしていました。それがきっかけで、食品化学とかそういう方面に興味が湧くと同時に、科学に対する興味も芽生えてきました。姉は高校生の時、工学か農学かで迷っていて、高3になってから工学に進路を決めたのですが、当時中学生だった私は、将来の進路や夢が固まらず、ぐじゃぐじゃしていました。
- 渡辺
- それで、農学に興味を持ち始めたのは?
- 小松
- 母に「何に興味あるの」と聞かれて、「やっぱり食品かな」と言ったら、「じゃあ、農学なんじゃない」と。それで、農学系をめざそうかなと思うようになりました。その後、高校2年生の時に「科学者の卵」に参加していろいろ講義を聞く中で、食品化学以外にも、渡辺先生の講義を聞いて植物学にも興味を持ち、そこから品種改良なども考えるようになりました。
- 渡辺
- これから先、たぶん品種改良はいろいろな意味で今までの発想とは全く違うことをしなくてはいけないんですね。というのも、ここ仙台での気温上昇からも分かるように、急速に環境が変わっているということ、それも瞬間風速的に変わってしまうという状況があるからです。
- 小松
- 私は、地球温暖化が進むなか、将来あらゆる環境に耐えうる植物を創れたらいいなと思います。もちろん食品化学にもまだ興味があるので、きちんと定まってはいないのですが、そちらの方向に行けたらなと思っています。
- 渡辺
- 今、おいしいコメを作ることはほぼ限界に来ていると思います。これからはそうではなくて、環境に広く適応する品種、人間のすごく傲慢なリクエスト、つまり春先は寒くても育つし、大きくなった時には暑くても育つような品種が求められます。現在、その両方を満たすものはないのですが、これから先はそれが必要なので、温暖化を視野に入れた研究をめざす人がいることは、われわれ遺伝学をやる人間としてはうれしいですね。