公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第25回
「しっぽ学」の水先案内人に聞く
しっぽの不思議

第3章 しっぽ学の取り組み②
ー人文学的アプローチー

東島
生物学的な「ヒト」の成り立ちだけではなく、しっぽに着目することで、人間らしいものの考え方や捉え方、いわゆる「人」の成り立ちについても研究しています。最初に言ったように、神話や昔話の時代から現代の漫画・アニメに至るまで、なぜしっぽの表現はなくならず、ずっと使われているのか? 私は、さまざまな文化表現の中からしっぽの表現を集めています。
最初に取り組んだのは、ヒトにしっぽが生えるという表現です。しっぽが生えているヒトがいたという表現は世界中にあるのですが、一番古いのは何だろうと探していくと、日本で一番古い歴史書『日本書紀』の中に、そういう表現があるのを思い出しました。
皆さんが日本史で習うような十七条憲法の制定や大化の改新など、古代日本に関する事象の多くは『日本書紀』に書かれています。720年に完成した日本最古の正史『日本書紀』にはこうした歴史的なイベントだけでなく、自然災害や天文現象、例えば日本で一番古いハレー彗星の記述なども残されています。そんな中に「しっぽの生えたヒトがいた」という記述があるのです。

日本書紀とは

  • 日本最古の正史・勅撰の歴史書
  • 編年体・漢文で記述
  • 720年に完成
  • 初代・神武天皇〜41代持統天皇の事績
  • 自然災害や気候、天文、動物など自然物に関する記述も多く存在

日本書紀には「しっぽの生えたヒト」の記述が存在する

そのしっぽが生えた人物は体が光ったり、超怪力だったという超人的な能力を示唆する記述もありました。なので、しっぽも何かの比喩である可能性は高いのですが、先天異常に「Human tail」というものもあるので、そういう風に考えてみると「しっぽのようなもの」が生えたヒトがかつての日本にいたとしても不思議ではないのかもしれないと思いました。
もしかしたら、しっぽ以外にも先天異常を示すような記述があるのではないか。そう思い、これまでもっぱら文系の資料と思われていた『日本書紀』を生物や医学の目線で読み直したら、どんなことが分かるのかという研究を始めました。詳細は省略しますが、『日本書紀』の中に33例、現在の医師が見ても病名がつけられる表現が出てくることが分かりました。
このように目線を変えることで、古くからある材料でも結構新しいことが分かるんですね。人間が周りをどう捉えていたか、どういうふうに考えていたか。そういったことは決して化石には残らないし、生物では追い切れないのですが、文系の資料を生物の視点から見ることで新しいことが見えてくるのかなと思っています。
私がやっているのは、しっぽというたった1つの材料ですが、目線や見方を変えると、いろいろなことが分かってくるというお話でした。

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