公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第25回
「しっぽ学」の水先案内人に聞く
しっぽの不思議

第4章 しっぽ学 Q&A

東島
これまでの話で何か質問があれば、どうぞ。
鈴木
しっぽには体温を調節したり、脂肪を蓄えたり、いろいろな役割があるのに、どうしてそれを同じしっぽというのか……。
役割が違うのに同じしっぽというのが不思議
東島
ご質問は多分しっぽをどう定義するかということでしょう。動物の体のパーツを比べるとき、違うパーツ同士を比べたら違うのは当たり前なので、同じものを比べるという前提条件が必要です。それを生物では「定義」といいます。最初に紹介したしっぽの位置・中身・形は解剖学的な定義で、体の一部分として見たとき、「それは同じ場所を比べていますか」という話です。なので、肛門より後ろに生えている胴体を比べたとき、その使い方が動物間で違うから役割も違うし、形も違うという話なのですが、質問の意味はそれでいい?
鈴木
はい。でも、その定義はどうやるのでしょう。
東島
しっぽの定義方法はいろいろありますが、「運動するときに役に立つ体の器官」と定義すると、脂肪を蓄えるしっぽとビーバーのしっぽは違うものとなる。働きで定義するのか、解剖学的に定義するのか。「こういうふうに括る」という定義の仕方の違いだと思います。
齋藤
普段生活をしていて、自分にしっぽがあったらと考えたことはないのですが、しっぽをなくした人間にとって、今しっぽは必要だと思いますか。
今、人間にしっぽは必要ですか?
東島
うーん、必要かどうかと言われると必要ではないのかもしれないけれど、再びつけることで人生とか生き方に選択肢を増やすことはできるかなと思います。ヒトに生物学的にもう一回しっぽを生やすことはかなり難しいでしょうけれど、テクノロジーで生やすことはできるだろうと思います。
布目
ヒトは生物学的にしっぽは生えないとおっしゃったのですが、進化する中で適応していくというか、今、環境が大きく変わっていく中でも全く生えないのでしょうか?
ヒトにはもうしっぽは生えないのかしら
東島
人工的にもう一回生やそうと思うと大変なのですが、長い時間の中の変化で見たとき、もう絶対生えないのかと言われると、それは何とも言い難いというか、ノーとは言えないかなとは思います。短いスパンで、例えばこの遺伝子をいじったら生えるといったことは難しいのですが、これから環境が変わっていくと、もしかしたらそういう人間が出てくるかもしれない。
福尾
ヒトのしっぽが発生してからなくなるのは、進化的なものなのでしょうか。なくなるのなら、その過程がなくてもいいのではないかと思うのですが。
なくなるなら、最初からつくらなくてもいいのでは?
東島
それは結構難しい問題で、なぜ一回作ってから消すのか分かっていません。例えばヘビの足やイルカの後ろ足のように、途中まで作ってから、なくすというのは生き物の中では時折あります。しかし、しっぽもそういうものと同じ仕組みかどうかはまだ分からなくて、これから解明しないといけないところです。
齋藤
進化についてですが、ある本に「科学があるからヒトはこれから進化しない」といったことが書いてありました。それは正しいのでしょうか。
東島
科学があるからヒトは進化しないというのは、ちょっと極論だと思います。ただ、生物学的な意味での形の変化の程度という意味だと、もしかしたら、形に与える影響は少なくなるのかもしれません。技術や科学の変化のほうが急速かつ劇的で、それによって環境の変化などに対応していくということになれば、生物学的な形の変化の振れ幅は小さくなっていくのかもしれません。
でも、それは今後ヒトの形が変化しないということではないと思います。例えば、スマホやPCの普及によって、下を向く姿勢や座りっぱなしの時間が増えたりと、既に私たちの行動には大きな変化が訪れていると思います。そういった科学技術の変化が、逆にヒトの形に影響を及ぼす可能性もあるとは思います。
鈴木
クモザルはしっぽを器用に使いますが、しっぽを自身の一部として捉えているのか、それとも何か特別なものと捉えているのでしょうか。
東島
クモザルが自身のしっぽをどう認識しているかは、それこそクモザルに聞かないと分からないのですが、欠かせない運動器官の1つだとは思います。クモザルのしっぽはすごく特殊で、全体重を支えることができます。しっぽを巻き付けられる動物は他にもいるのですが、しっぽ1本でぶら下がれる動物はほとんどいません。また、クモザルのしっぽの裏には毛が生えてない領域があります。尾紋といって、私たちの掌紋や指紋のように、滑り止めの役割をします。おそらく手足とほぼ同じような感覚で使っているのだろうと思いますが、本当のところはクモサルに聞かないとやはり分かりません。

クモザル

浅見
教諭
両生類やは虫類の中で、しっぽのようだけれど、しっぽではないというのもあるのですか。
東島
基本的に両生類、いわゆるカエルやイモリのしっぽはしっぽですし、トカゲのしっぽもしっぽです。脊椎動物の場合は、先にお話したしっぽの3条件を満たしている器官であれば、役割が違おうとも、全部しっぽです。

ヒガシニホントカゲ photo:TAKAGI Sachiko

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