公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2019」レポート
講義と3つの実習、
他県の高校生や大学院生たちとの交流を通して
これからの進路が見えてきた2日間

講演会 第2部
若手研究者に聞く

第2部は「若手研究者に聞く」。清水達也先生の司会のもと、TWInsで活躍している3人の若手研究者が、進路を選んだ理由やその道のりで感じたこと、現在の研究内容の紹介とともに、高校生にメッセージを送ってくれました。

高専から大学院へ。転出した先生とスカイプで遠隔指導を受けて成長

東京女子医科大学先端生命医科学研究所・先端工学外科学分野(FATS)で特任助教を務める堀瀬友貴さんは、香川県にある高等専門学校で電子工学を学び、その後、“医工融合”の研究者の道に進みました。

「現在、私が所属している研究室は、医学者と工学者が互いにリスペクトしあって新しいテクノロジーを実現させようと研究を行っています。研究室のトップも2人いて、1人は脳外科医の村垣善浩教授、もう1人は工学系の正宗賢教授です。今、取り組んでいるのは外科学をテクノロジーで進化させ、外科医の新しい目・脳・手となる機器の開発。特に最近力を入れているのが、スマート治療室「SCOT(Smart Cyber Operating Theater)」です。これは治療室内の各機器をネットワーク化し、手術中の意思決定に役立てて手術の精度や安全性の向上を図るプロジェクトです」
ほかにも、脳外科手術用のロボット手術顕微鏡、薬剤と超音波を組み合わせたがん治療、胸腔鏡手術支援デバイス、高度遠隔医療のためのモバイルSCOT、手術の不安を軽減するVRシステムなど、研究テーマは多岐にわたります。

最先端の医工学分野に取り組む堀瀬さんですが、高専時代は、卒業後は就職を考えていたそうです。その考えが変わったのは高専の専攻科での恩師との出会いでした。
「高専は5年間の本科のあと専攻科という2年間があり、大学でいうと学部の3年生、4年生に相当します。専攻科の天造秀樹先生は学生をどんどん外に出し、いろいろな経験をさせてくれました。その中で、もっと多くのことを知りたい、経験したいという気持ちが芽生え、大学院に進むことをめざすようになりました。大阪大学の大学院に行くことになったのも、高専時代に天造先生に連れて行ってもらった展示会がきっかけです。ここで阪大基礎工学研究科の宮崎文夫教授の研究室のことを知り、進学を決めたのです」

阪大の宮崎研究室ではヒトの運動を解析し、その巧みな動作をロボットに移植する研究を行っていました。
「宮崎研究室には医療用ロボットや医療用のヒューマンインターフェースがご専門の西川敦先生をリーダーとするグループがあって、私はそのグループで研究したいと宮崎研究室を選んだのですが、私が入ったとき西川先生は信州大学に移ってしまったため研究したくてもできない状況に陥ってしまいました。そのため当初は別の研究をしていましたが、やはり医療工学の研究をしたいと西川先生に訴えて、長野と大阪をスカイプでつないで遠隔指導をしていただきました。ほかにも同じ大学の医学部の先生方や医療機器メーカーの方、近くの大学の方などと出会うことができ、多くの方に助けられたからこそ、今の私があると思っています」

堀瀬さんは、研究者になってどのように感じているのでしょうか。
「研究者って自分の興味のあることにチャレンジできるすごくいい環境です。いろいろな世界や分野を見ることができて、国内外のさまざまな分野、職種の人と出会えます。他職種との壁が低く、深く話ができるのも利点。また、個性的な人が多く、毎日が刺激的です。その一方で、うまくいっているように見えてあちこちでたくさん失敗してきました。でも、その失敗の中でいろいろな経験を持っている方と出会えましたし、それによって失敗を乗り越えることもできました」

高校生へのメッセージは──。
「モチベーションを常に高く持つ必要があると私は思います。何年後かに自分がこうなりたいとイメージしておくと、しっかりとそこに近づけるはずです。そして、たくさん失敗してください。何かあったときは一人で考え込まずにだれかに相談してほしい。どのタイミングでつながるかわからないのだから、人との出会いは大切に。人生は一度きり。がんばってください」

進学か就職かで迷ったとき、北京大学の院生からかけられた言葉

早稲田大学創造理工学研究科・総合機械工学専攻で梅津信二郎研究室に所属している博士課程1年の大矢貴史さんは現在、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞の生体情報を高精度にモニタリングする超薄膜センサーの開発に取り組んでいます。

「新薬開発にあたっては、動物で毒性試験を行い、臨床試験を経て製品化しますが、開発費用は1000億円以上、製品化までに10~15年と莫大な研究開発コストがかかるにもかかわらず、成功確率は10%以下という厳しい世界です。失敗の大きな要因となるのが、心臓の病気の場合であれば、薬効が不十分だったり、予期しない副作用が起きること。開発の早い段階で心機能に与える影響を精密に評価することが、開発リスクを低減させるために重要となります。そこでES細胞やiPS細胞などからヒトに近い反応を示す三次元の心筋組織を構築し、電位を測るセンサーなどを搭載して、組織の状態をモニタリングしながら薬剤の影響を調べようというのが私の研究です」

ここで用いるセンサーは厚みがわずか500ナノメートルの超薄膜センサー。サランラップの厚みが10マイクロメートルですから、その20分の1の厚みしかありません。非常に薄いのでとても柔らかく、心筋組織の動きに追従し高精度に電気的なシグナルを測定できるスグレモノです。
大矢さんはこの研究で今年、早稲田大学が設けている学生褒賞「小野梓記念学術賞」や「日本機械学会三浦賞」「日本機械学会若手優秀講演フェロー賞」など15の賞を受賞しました。

そんな大矢さんですが、高校1年までは勉強が大嫌いで、テスト前以外で自主的に勉強したことはほとんどなく、部活などもしておらず「何となくぼんやりと過ごしていて、人生はつまらないなと思っていた」そうです。
転機が訪れたのは、高校の恩師からの次の一言でした。
「今の君は君がなりたかった自分なのか」。

「人間って、成績が良くなりたかったら勉強するし、モテたいなら容姿に気をつかうし、なりたいものをイメージすればそれに向かって努力するものです。そこでどういう自分になりたいのかを改めて考えたら、他人の役に立ちたい、モテたい、お金持ちになりたい、大企業に行きたい、健康でいたいというようなことが頭に浮かんできました。そういう目標を達成するために高校生の自分にできることは何かと考えたら勉強かなと思ったので、単純な理由ではあるんですが毎日勉強するようになりました。目標を持ってみると意外に勉強は楽しくて、それが自分には合っていたのかなと思います」

大学では機械工学科に進み、その後、工学の力で少しでも医療に貢献しようと医工学の研究の道へ。しかし、修士から博士課程に進むにあたっては「就職するか、進学するか」で悩んだという大矢さん。中国の北京大学を訪問する機会があり、そこで出会った2歳年下の研究者からかけられた言葉が大きなあと押しとなったと振り返ります。

「仲良くなった彼に、研究者になりたい気持ちはあるけれど博士課程に進むかどうか迷っているんだという話をしたら、かなり辛辣なことを言われました。『やりたいことがあるのに躊躇する意味がわからない。ぼくはドクターをとって将来絶対研究者になるんだ』と言うのです。そう言われて、やりたいことがあるのにチャレンジしなかったら今後の人生で後悔することになるかもしれない、と痛感。『それなら将来、2人とも研究者になってどこかで会おう』という話をして、このときに博士課程に進学しようと決意しました。彼とは今でも年に1回ぐらいは連絡をとり合っていて、現在彼はアメリカの大学で勉強しているようです」

今は「好きなことをやっているので研究生活は楽しい」と語る大矢さんですが、高校時代にもっとやっておくべきだったと悔やんでいることが一つあります。それは英語の勉強です。
「これだけは本当に後悔していて、今でも英語があまり得意ではありません。こうして研究を続けていると、成果を海外で発表したり、留学したりすることもあるんですが、英語ができないとちょっと尻込みしてしまう部分がある。せっかくのチャレンジの機会を躊躇してしまうのは本当にもったいないことだと思うので、今のうちに英語に慣れておくとよいのかなと思います」

だれもやったことのないテーマにチャレンジする喜び

早稲田大学大学院・先進理工学研究科 修士課程1年の岡本裕太さんは、今回講義した3人の若手研究者の中では最も高校生に年齢が近い存在。彼がTWInsで研究しているのは、第1部の講義で清水先生が取り上げていた「培養肉」の開発です。

「培養肉の研究は、家畜の筋肉組織から食べられる細胞を単離して三次元的に培養することで、食肉として供給することが目的です。しかし問題もいろいろあって、例えば細胞を培養する培地には細胞を育てるためのグルコースなどの栄養素が必要ですが、グルコースを生成する澱粉をつくるにはイモなどの穀物が必要となり、気候変動の影響を受けてしまうし、食料と競合する問題もあります。そこで着目したのが藻類です。藻類から動物細胞を培養して食肉が生産できれば、環境変化によるリスクを削減でき、食肉を安定的、持続的に供給できるようになるし、温室効果ガスの削減にも貢献できます」

岡本さんが生命科学の道に進んだのは、子どものころから科学が好きで宇宙の図鑑を眺めたりSF小説を読んで、未来の実現可能な技術に興味を持ったことが一つのきっかけだったといいます。
また高校1年のときに参加した2泊3日のサイエンスキャンプからも影響を受けたそうです。
「ここで研究とはなんぞやということを学びました。最終日に研究の発表会があって、ぼくが考えつかなかったような意見が次々に飛び出し、討論も白熱して、こういう世界ってすごく楽しそうだなと思ったことも、理系の道を選ぶきっかけになりました」

大学は生物系に行くか物理系に行くかという二者択一を迫られたのが高3のとき。
「SF小説の技術に近づけるような生物系を選ぶか、昔から興味があって好きだった宇宙について研究するか、どちらを選ぶかを考えたときに、最終的に得意な方、つまり高校の成績の良さで選びました。そこで第1希望を生命科学科、第2希望を物理学科に決定。生命科学科に合格し今に至っています」

研究の道を選んで良かったのは、だれもやったことのないテーマに挑戦できること。
「培養肉というのは今までだれもやったことのないテーマです。高校のときの実験は、ある程度答えがわかっているような実験が多かったのですが、今やっている研究は失敗が当たり前で、結果がわからない。だからこそまた、おもしろい。いろいろな人とのディスカッションも重要です。研究で行き詰まったりしても、みんなと話したり、いろんな本を読んだりすると、自分の凝り固まった考えをもう一度見直すことができます。プレゼンする機会が多いのもうれしい。高校のときはプレゼンが苦手だったのですが、だんだん緊張しなくなってきています」

逆に研究を始めて大変だったことは?
「生物系の学科に行ったはいいが、物理も化学も必修だったということですね。高校時代、特に化学が苦手で、生物に行けば化学は必要ないと思っていたらそんなことはなく、生物のからだの構造は物理も化学も関わっているので、大変でしたが勉強し直しました」

高校・大学と弓道部に所属。「部活動を続けて良かった」、と岡本さん。
「同期や後輩・先輩の中には途中で部活動をやめて勉強に集中するという人もいましたが、最後までやり切ることで『やり切る能力』を身につけることができました。志を持って勉強する仲間もいいけれど、勉強とは違ったベクトルで活動する仲間たちがいるということは、自分にとってもリフレッシュになって良かったなと思っています」

3人の研究者の講義のあとは高校生からの質問タイム

3人の研究の話に対して、高校生からはさまざまな質問が寄せられました。
「モバイルSCOTはどこまで進んでいますか」「研究がうまくいかないとき、どのように気持ちを切り替えている?」「ぼくは肉よりも魚の方が好きなので、培養肉なら魚の方がありがたいと思ったんですが、魚に応用する研究は行われていますか?」「再生医療における科学と倫理とのジレンマに対してどう向き合っていけばいいとお考えですか?」「研究を進めていく上で大切なものって何ですか?」
こうした一つひとつの質問に、それぞれ丁寧にわかりやすく答えていただけました。

また「学校の研究で、当初決めたテーマを進めるうち、途中で興味のあるテーマがほかにみつかって、今そのテーマを研究しているけれど、そのテーマはとても答えが出しづらいもの。難しくても自分が興味を持ったテーマを研究するか、最初に決めたテーマを研究するかで今、悩んでいるんですけど、アドバイスをお願いします」との問いかけには、若手研究者から三者三様のアドバイスがありました。

堀瀬「私だったら間違いなく自分がやりたいテーマを選ぶだろうと思います。というのも、研究していて苦労したりつらいとき、どうやって乗り越えるかといえばモチベーションがどれだけあるか。やりたいテーマのほうがモチベーションが高いはずですから」

大矢「両方やるという選択肢もあります。最初に決めたテーマがやりたくないことだったらやらなくていいと思いますが、ちょっとでもやりたい気持ちがあるのだったら、平行してやるというのがオススメです。というのも、1つだけだと、失敗したときに落ち込んでしまうから。2つやっていれば、どちらかが失敗しても、こっちがあるからいいやとか、片方をちょっとお休みにしてもう1つの方をやってもいい。そのときどきで興味を移すというのも悪くないと思うので、両方やってもいいんじゃないかと思います」

岡本「最終的な判断はともかくとして、最初の結果が出やすい方に取り組むのもいいのではないかと思います。限られた時間の中で結果が求められるのであれば、まずは結果が出る見込みのある方をやって、その上で、次にやるときはなるべくブレないようなことをやっていくのがいいのでは。もちろん興味があることをガンガンやっていくのも間違いじゃないし、すごく大切なことだと思ってますよ」

懇親会

1日目の締めくくりは夕食を兼ねた懇親会です。まずはバイキング形式の料理に舌鼓を打ち、一段落したところで参加各校ごとに自己紹介と学校の特色などをアピールしました。 今年も大いに盛り上がったのが3つのチームに分かれての「班対抗クイズ合戦」。翌日の施設見学と実習で一緒に行動する班ごとにチームをつくり、クイズの答えを相談します。
「人体の骨の数はおおよそ何本?」「成人1人の血管をすべてつなぎあわせると長さはどれくらい?」「ノーベル賞の生みの親・アルフレッド・ノーベルが十代のころ,なりたかった職業は?」などの問題に、自信満々で答えたり、首をひねったり。最後は正答1つにつき1点の一発逆転が狙える問題で、どのチームが勝つか、予断を許さない展開に。 懇親会には講義をしてくださった先生や若手研究者の方々も参加し、高校生たちと積極的にコミュニケーション。翌日に向けて交流を深める機会となりました。

まずは食事をしながら歓談

他県からの参加者とも積極的にコミュニケーション

大矢貴史さんに質問!

清水先生も気さくにいろいろな質問に答えてくださる

名物行事のプリントを手に学校紹介

学校の名物行事、出身有名人、部活についてなどいろいろな話題が出る

班対抗のクイズ大会ではみんなの意見をつきあわせる

設問は、「『ア』で始まる国の名をできるだけたくさん挙げよ」。他の班はどれくらい書けたかな?

優勝した班のメンバーは一人1000円の図書カードをゲット

1丁締めでお開きに

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